プロローグ
荒廃した世界。
廃れた世界の中心。
そう思えるほどに砂と、風と、空が包み込む。
目の前には砂が吹き荒れる腐った街並み。
黒ずんだ建物、誰一人歩かないスクランブル交差点、意味をなさない信号機。
全ての時間が止まり、虚無となっている世界。
唯一許されたこと。
それはただひたすらに何もない時間を生きながらえること。どういうことかそれが義務付けられた。
今日もまた、食えそうな非常食を探す。
ガラスの破片を踏みつけながら見上げる程に高い高層ビルへと目を向ける。
そこにあったはずの何十人もの人々。
あったはずの機械に至るまで。
それらはあっけなく、風が通り過ぎるように、跡形もなく消えた。
昔話。
誰もが健やかに、文明的に、暮らしていた世界。
誰もが食事にありつけ、飲み物にありつけ、そしてこの星の全てを手にしていた。
手にしたものでは足りぬと彼らは争う。
争って、争って、争いすぎて。遂には世界そのものを食らってしまった。
世界を食らった彼らはその代償として星を敵に回した。
それらは水を使って、時には風を使って。全てを薙ぎ払っていった。
そしてこの星はまた、誰のものでもない元の形へ還ったのだ。
そんな昔話の地がここ。名も知れない地の姿だ。
支配していたはずの者たちは星を畏怖し、隠れながらひっそりと生き延びた。
それが自分たちの先祖だという話。
そんなお伽話は嘘だと考えていた時期もあったがこの腐敗した街並みを見る限り、あながち嘘ではないのだろうと思う。
古代の残した遺物。
そうした恩恵が今もなお自分たちへと還元される。
有難く思うもどうにも素直に思えない。
だってこの世界を壊したのはそいつらなのだから。
だけど今日も探す。
そんな憎い血を流しながら今日も、生きるために探す。
黒ずんだ空と埃っぽい風。
割られたガラス窓から吹き付けるそれをボロ衣を重ねた自前の服で一身に浴びる。
頭から足まで覆われたボロ衣。
全て雑に継ぎ合わされた服はそこらへんに落ちていたボロ衣だ。
この世界に漂う空気。
それらを吸うとたちまち肺はやられてしまう。
これも古代の遺産。昔の争いの名残だとも言われている。
一昔前はこんな当て布しなくても息をできたと聞くが今ではこの有様。
息をするのも一苦労。そんな世界。
けれどこんな世界にも嬉しいことは散らばっている。
「あったあった」
廃れた高層ビルの中。崩れにくい比較的寂れていない場所。
そこを重点的に探すと出てくるもの。生きていくために集めているもの。
「案外こんなところにも残っているもんだな」
いつもは来ない都市部。
その理由はこんなところは取り尽くされているからだ。
人が集まっていたと思われる都市部。そこに収集者が集まるのは必然。
こうなってから千年程たったらしいけれど、それでも無くならないこの建物群は今では考えられない技術が詰まっている。
だが、その技術も今では意味をなさない。全て忘れられるべき技術。争いを生み出す技術なのだから。
だから今のままで……今の貧しい生活と少しの幸せさえあれば。
ささやかな幸せ(袋包装された非腐食性固形非常食)を噛み締めながら荒んだ世界を眺める。
「相変わらず、パサついてまずいな」