表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/40

散策と音

 そして翌朝。

 そこまで寝坊もしなかったので、無事に朝ご飯にありつけた。

 ヨギナさんから、港も見てみたら? と言われたので、まずはそこへむかうことにする。

 宿から大通りへ出て、歩くことしばらく。

 ──到着した港は、思ったより静かだった。

 考えてみればセリは早朝だから、この時間になれば静かで当たり前だ。

 港にはきた時に乗った船がまだいるらしく、遠くからぼんやり姿が見える。

 とりあえず見に行こうかな、と足をむけてしばらく行けば、大きな定期船が間近に迫る。

 乗っていた時は全体を見ることなんてなかったから、むしろ新鮮な気持ちになる。

「お? 嬢ちゃんじゃないか!」

 聞き覚えのある声のほうを見ると、ラフな服装の男性が笑っていた。

 ええと……この言いかたと声は……

「定期船の、船員さん」

「ああ、元気そうで何よりだ!」

 合っていたらしく、彼はにこにこ嬉しそうだ。

 バーダ島で出会った人数が少ないから、消去法でなんとかなったとは、言えないなぁ……

「見物にきたのかい?」

 はい、とうなずくと、そうかそうかと頷かれる。

 彼のほうは船のメンテナンスにきていたらしい。

 もう数日すると、定期船が出発になる。

 この島の特産品やらなにやらを載せて、本土へ二週間かけての船旅。

 そこで荷を下ろし、むこうに常駐している商人から、こちらへの荷物を受けとり……またもどってくる。

 よく考えなくても大変な仕事だ。ほとんど陸地にいないわけだし。

「今度の道中でクラーケンでも出れば、臨時収入になるんだがなぁ」

 本土へ行く途中で出た大型の魔物は、そのままむこうで売りさばくらしい。

 逆の場合は市場へ卸したり、我々の時みたいにみんなで食べたり、その時に応じて、だとか。

 それくらいの楽しみがないとやってられないということなんだろう。

 ついでだとセリの場所を案内してもらった。

 セリは登録した業者しか参加できないけど、見学ならできるらしい、ただ、朝が弱い私は無理そうだけど……

 昔行ったところは、隣接して食堂なんかもあったけど、ここはすぐ歩けば街だから、そういうのはないらしい。

 その代わりと、いくつかオススメの店を教えてもらったので、メモしておく。

「じゃあな、嬢ちゃん、楽しんでってな」

「はい、船員さんも、お気をつけて」

 お礼と船旅の無事を祈って別れてからは、開いている店を覗き見していく。

 とにかくたくさん見て回って、実際買うのはそれからでいいだろう。

 演奏会もまだ先だし……ああでも、練習を見学できるのなら、普段着は早急にほしいかもしれない。

 思い立ったらということで、何軒か見たうちで、一番好みと価格がちょうどいい店に入り直す。

 とはいえまだ知らない店もあるだろうから、じっくり吟味をして、一着だけ購入した。

 冒険者家業の時はズボン姿を余儀なくされるので、膝下のワンピースを選んだのは、ちょっとした乙女心だ。

 通気性のよい素材でできたワンピースは快適そうだし、露出は少ないから練習を見る分には問題ないだろう。

 そんなこんなで時間は過ぎていたので、教えてもらった店で昼食にする。

 大衆食堂といった体の店で、メニューもざっくり定食だけという具合だったけれど、おいしければ問題ない。

 お洒落な店も勿論興味はあるけど……それもおいおい開拓していけばいい。

 一度にすべてやってしまっては、面白くない。

 折角長期滞在を決めているのだから、時間を気にせず、たまにはゆっくり過ごすべきだろう。

 注文した魚定食は、仕入れた魚によって変わるらしく、今日は白身魚のフライがメインだった。

 それなりに歩き回っていたので、ぺろりと平らげてしまう。

 店員さんや常連とおぼしきひとたちに、旅行者とは珍しい! とまた言われたけど……うーん、これ、いつまで続くだろう。

 よそ者扱いを受けているわけじゃないし、歓迎されているけれど、現地人とは違う、と線引きされているわけで。

 できればそういうのは、はやくなくなってほしいんだけど……そのためにも、あちこち顔を出すべきかな。

 趣味の活動の展示があったから、ああいうのに参加してみる? 興味のあるものがあればいいけど。

 正直手先は器用じゃないので、絵やらなにやらは……うーん。

 もしくは仕事を見つけるかだけど、がっつり仕事はまだしたくないし。

 休暇みたいな感じでのんびり……役所で相談してみようかなぁ。

 ヨギナさんの手伝いは、そろそろしようかと思うけど。泊めてもらってるし、忙しい時間は大変だろうから。

 そこそこお客もくるみたいだから、そこから人脈ができればいい、かな。

 なんてことを考えながら歩いていたせいだろう。

 ……少し雰囲気の違う通りにきてしまった。

 建物のつくりは大差ない、けれど、大きさが違う。

 巨人の街に迷いこんだとまでは言わないけど、並ぶ建造物は明らかに大きい。

 周囲の店を見渡して……そして納得する。

 このあたりは、大きめの種族が固まっている地区のようだ。

 通りに並ぶ店は、一見するとありふれているけれど、どれもサイズが大きめになっている。

 勿論メインの通りにも店はあったし、さっき買った服屋にも、何倍ものサイズが置いてあったりもした。

 だけど、両方充実させようとすると、店の大きさも必要だし大変だから、こうして棲み分けしているのだろう。

 洋服はまだマシだけど、家具となったらもっと広さが必要になってしまうし。

 私が歩いていても、気にされてはいないようだけど……念のため、神経を集中させておく。

 歩いているだけでいちゃもんをつけられる治安ではなさそうだけれど、一応、だ。

 それはそれとして、こういう通りを見るのははじめてなので、純粋に興味もある。

 配達するがわへの配慮なのだろう、郵便受けなどは低い位置に設置されていて、それが壁の高さとアンバランスでなんだかかわいらしい。

 高さが出てしまう代わりに、二階建ては少なめで、その分広さをとっているらしい。

 そのため窮屈さは感じられず、むしろ大通りよりすっきりしているくらいだ。

 通りの大きさは大通りも幅があったので変化はないが、店の入口だとか、前庭だとかが全体的に大きくなっている。

 家の中はどうなっているんだろう、そもそもこの島の内装を知らないので、ちょっと興味がある。

 でも、友人って、あんまりつくったことがないんだよなぁ……

 なにせ冒険者、しかも一カ所にとどまらないものだから、長いつきあいというものができない。

 何度か一緒に仕事をした冒険者仲間はいるけれど、友だちかと聞かれると微妙なところだし。

 ……もしかしなくても、そういう意味では、私ってかなりダメなんじゃ……

 うーん、と唸りつつ、なんとなく道なりに歩いていく。

 まだ住宅と店が半々くらいだからいいだろう、住居だけになったら、そこで反転すればいい。

 夕方の買い物に出るひとたちの中を進んで行くと──見えてきた色に、思わず声をあげかけた。

 咄嗟に踏みとどまったものの、いきなり立ち止まったから、まわりから少し不思議そうな視線を受ける。

 慌ててなんでもない様子を装いつつ、さっきより早足で、けれど妖しくない程度になるように──でもやっぱり急いで──歩きだす。

 少し先から流れてきている色は、間違いない、龍の笛だ!

 透明なようで、よくよく見れば七色という、今まで見たことのない特殊な色は、忘れようったって無理な話だ。

 魔法の色で似たものは見たけれど、単体の音でというのははじめてだった。

 だからこそ音を、その色を逃さないように集中していたのだけど……

 色の先を探して進むが、音は聞こえてこない、防音されているのだろう。

 だけど、少しでも盛れていれば、色が出るから私には問題ない。

 昨日は聞けなかったあの音が──場所からして練習だろうか、それとも演奏会?

 でもそれならレンが教えてくれただろう、いや、身分のある誰かの家での演奏なら、呼ばれなくても無理はない。

 だとしたら中には入れないだろうけれど、それでも近くで、せめて見ておきたい。

 私は脇目もふらずに音の始点へと急ぐ。

 しばらくしてたどりついたそこは、大きいサイズだということを除けば、ごく普通のたたずまいだった。

 表側はなにかの店らしく、鉄の門扉は開いていて「open」の札がかかっている。

 音色はその奥、民家っぽい場所からしているから、これは……入っていいってことだ。

 もしかしたら咎められるかもしれないけど、看板は出ていたんだから、まあなんとかなるだろう。

 なんの店か確認しないまま、私は門から少し歩き、到着した木製の扉を開く。

 ──瞬間、耳にとどいたのは、ずっとずっともう一度聞きたいと切望していた音。

 まろやかで、けれど涼しく響く、今まで聞いたことのなかったもの。

 その音にふれた瞬間、全身が歓喜にあふれたのがわかった。

 身体中に音が染みこみ、あまりの衝撃に泣きそうになる。

 ああ、記憶にあるより何倍も、……何十倍も素晴らしい……!

 感動して棒立ちになっていた私だったけれど、

「……キィカ」

 低く、名前を呼ばれて我に返る。

 私の名前を知っていて、この、低い声、は──

 そこでようやく、顔をむけていたけれど確認していなかった奏者の姿を視認する。

 ──灰色がかった肌、金色の瞳。

 大きな椅子に腰かけて龍の笛を吹いていたのは、

「……レン……?」

 呆然と呟いた私に、レンはかりかりと頬をかきながら、おう、とうなずいた。

 伏線というのもおこがましいほどにバレバレでしたよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手
 設置してみました。押していただけると励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ