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海辺の散策

 ……あれ、もうレンがいる。

 時間は少し早いくらいなんだけど……わたわたと駆け寄ると、おう、と片手をあげてくれた。

「もしかして待たせちゃった?」

「いや、大丈夫だ」

 具体的にどれだけ待ったか言ってくれないのが気になるけど、それ以上しつこくするのもなので、やめておく。

 レンと話しながら整備された道を歩いていくと、やがて綺麗な砂浜へたどりつく。

 門にもなっているらしい立派な海の家を出れば、青い海が一面に広がっていた。

 泳ぐこともできるエリアなので、家族連れやらでそれなりに賑わっている。

 もう泳いでも問題ない時期だものなぁ……楽しそうだ。

 パラソルの下でくつろぐひともいるし、日焼けに精を出しているらしきひとも。

「……レンって日焼けするの?」

 ふと聞いてみると、しばらく考えこんでから、多分しない、とのこと。

 皮膚の色も違うし質感も異なるから、納得ではある。

 となると、ああいうのもひとに近い種族の特権……なんだろうか。

 暑さは感じるし種族的に鬼が混じっているから汗もかくらしい、見たことないから、基本的には気候の変化に強いんだろう。

 濡れてもいいような服装だし、タオルも持ってきているけど、とりあえず砂浜を歩いて行く。

 海の家近くには屋台も出ているし、監視員らしきひともいる。

 あとで聞いたら、水棲種族が海の中でもちゃんと見守ってくれているらしい。

 泳げる範囲内には囲いがされていて、その中には危険なサメなどが入れないようにしてある。

 至れり尽くせりだから、子供でも安心して泳げるんだろう。

 そのままどんどん歩いていくと、やがて遊泳禁止エリアになる。

 こっちの砂浜はビーチバレーなどに使うためのものらしく、練習風景が見られることもあるのだとか。

 今日は練習はないみたいで、それでも何組かの一団がいた。

 砂遊びに熱中する子供や、まったり過ごしていたり、思い思いにしているようだ。

 本当はこのへんで私ものんびりするつもりだったんだけど……

「ねぇレン、もうちょっと先に行っていい?」

 あっち、と指さした先は岩だらけの場所で、とても小さい子は通れそうにない場所。

 レンは先を見て、それから私を見て、少し眉を寄せた。

「……危なくねェか?」

 たしかにスカートだしサンダルだし、あまり適しているとは言えないけど。

 だてに冒険者はしていないので、あれくらいなら余裕で越える自信がある。

 だから大丈夫! と断言すると、渋々といった様子で、でもついてきてくれた。

 岩の手前まできたところで、あー、と言いづらそうに口を開く。

「覗くつもりはねェけど、転んだら危ないから、後ろにつくぞ」

 ……ああ、スカートだからか。

 下に短パン着用済みなんだけど、さすがにそれを堂々と宣言するのは憚られる。

 多分引く気はないだろうから、わかった、とうなずいて先に岩場に足をかける。

 コケがたくさんついているわけじゃないし、岩も大きいから崩れることもない。

 それに一応、この先も行っていい場所だから、立ち入り禁止の柵などもついてないんだし。

 ただちょっと、転んだら海に落ちるか頭をぶつけるかだから、推奨はされないだろうけど……

 よいしょ、と一番大変そうな大岩をのぼれば、すぐ平らな部分になるので、難易度も低い。

 少し高い位置に落ちついて、ふと、後ろをむけば、ほとんど同じ位置にレンの顔がある。

「うわ、新鮮!」

 思わずはしゃいだ声をあげてしまう。

「……そうだな、普段は目線が合わねェから」

 なにせ50cmくらいの身長差だ。すわっていてもなかなか視線は合ってくれない。

 日常生活でわざわざ段差の上に陣取ることもないので、こういうふうにレンを見るのははじめてだ。

 アラハキさんはそこまで差がないから、まだ顔を見ていられるんだけど……

 まじまじ見ていると、レンが居心地悪そうに咳払いをした。

「穴が開きそうだし、先に行こうぜ」

「あ、そうだね、ごめん」

 さすがにガン見しすぎたと反省して、方向転換。

 いやだって、ちゃんと見たらレンの瞳の色って、綺麗な金色だったから、つい。

 平らな岩の部分を少し進むと、遅れてレンが上がってくる。

 ぱっと見ると岩場だけで途切れているように見えるけど、実は先に続いているらしい。

「行ったことある?」

 聞いてみると、いいや、と首をふられる。

 官吏のひとに聞いたくらいだから、知ってるひとは知ってるくらいのものなのかな?

 わざわざこっちにこなくても、さっきまでで十分遊べるからってのもあるんだろうけど。

 そこを抜けて、再び岩場を降りていくと、ちょっとした入り江に到着する。

 誰もいなくて私だけの独占状態だ。

 ただ、泳ぐのは危険らしく、一番目立つところに遊泳禁止の看板がかけてある。

 監視の目は感じないけど、ルールを破るつもりもない。

 泳ぎはあまり得意じゃないから、突然深くなったりしたらちょっと恐いし。

「タオルはあるから、縁を歩いてくるね!」

 一番やりたかったことをすべく、私は返事も聞かずに走って行く。

 砂をさわってみると結構熱いし、なにが落ちているかわからないので、サンダルのまま波打ち際を歩きはじめた。

 予想しないタイミングで打ちつける波が気持ちいい。

 レンは、と見ると、ぎりぎり波がこない場所からこちらを見ていた。

「余分のタオルはあるから、濡れてもいいなら大丈夫だよ?」

 とはいえ、私みたいに遊ぶ気があるかは謎だけど。

 一応声をかけてみたら、とりあえずいい、と言われる。

「滑らないように気をつけろよ」

「ありがと!」

 でも、止めたりはしないでくれるらしい。

 から、うずうずする気持ちに耐えきれず、行儀が悪いのを承知で波を蹴り上げる。

 ばしゃん! と音を立てて飛沫があがり、かけていた眼鏡にかかってしまった。……外そう。

 でもそれ自体は楽しいので、子供っぽいのは承知で水遊びを楽しんでしまう。

 ランダムな音と色だけど、他に雑音がないせいで、みえてしまってもさほど気にならない。

 これくらいなら日常の音に比べればいいほうだ。

 むしろ、波の高さで色が少しずつ変わるので、途中から実験気分になってしまった。

 当然というか青い色なのだけど、単純な青じゃなくて、色に関する言語がもっとも多いとされる言語でいうところのどの色だろうとか、ついつい考えこんでしまう。

「……ごめん! 退屈させ……た?」

 そのためすっかりレンのことが頭から抜けていて、はっと気づいてふりむくと、なぜかレンが微妙に視線をそらした。

 やっぱり長時間放っておいたから、ちょっと困らせただろうか。

「……とりあえず、スカートを下ろしてくれ」

 困ったトーンで呟かれ、はたと気づく。

 水に濡れないように、裾を持ちあげていたんだった。

 つまり、膝から下はむきだしなわけで……

「ご、ごめん!」

 そりゃあ紳士な面のあるレンにしたら、視線を外すよね。

 慌てて謝りスカートを下ろすと、砂浜にもどる。

「さすがにおとなげなかったよね……」

「いやまあ、ついてきたいと言ったのは俺だし、そこはいいんだけどな」

 低めの岩場に腰かけて一休みすることに決めて、サンダルは脱いで横に置く。

 もう一回くらい遊びたいので、タオルは出さず、足をぶらつかせて自然乾燥でなんとかしよう。

 私は足がつかないけど、レンにはちょうどいいらしく、身長差……となってしまうけど。

「いつ転ぶんじゃねェかとヒヤヒヤしたがな」

 くつくつと笑いながら言うから、気を悪くしたわけではないようだ。

 さっきはちょっと様子が変だったけど、今は……ものすごく微笑ましく思われているような。

 ちょっと子供っぽかった自覚はあるから言い返せないんだけど。

 鞄に入れておいたお菓子をとりだして二人で食べながら、とりとめのない話をする。

 当たり前なんだけど、レンの顔は私より上で、視線は合うけど、高さは合わない。

 ──それがちょっとだけ、つまらなかった。

 そのうちレン視点を書きます、たぶん。

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