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時を重ねる

 贅沢な時間を過ごした翌朝は、とてもご機嫌で店番につく。

 浮かれている私を不思議そうに眺めていたレンだったけど、理由を話したら困惑気味に視線を左右にさせていた。

 なんでもいい、と言われたので自分で買ったエプロンを結んで、支度のすんだレンにいってらっしゃいと送りだした。

 さて、と店番を開始してしばらくすると、白虎がやってきた。

 つくってもらっていたそろばんができあがったようで、私の手には余る大きなものを見せられた。

 職人技だけあって、つくりには問題がなさそうだったから、即席のそろばん教室をはじめる。

 ……といっても、教えたことはないので、大分手探りだ。

 とりあえずやりかたを教えて……あとは計算問題をつくっておかなきゃ駄目だなぁ。

 でも白虎も慣れてない私に気にすることもなく、根気よくつきあってくれる。

 大きな手がせっせと珠を弾く姿は、こう言うとなんだけど、結構かわいい。

 ……レンがそろばんをしても、こうなるのかなぁ……ちょっと見てみたい。

 レンの手も大きいんだよね、当たり前だけど。

 笛を吹くためだろう、爪は短くしていて、でも大きな手が繊細な音を紡いで……ああ、昨日を思い出すと気持ちが飛んでしまう。

 ほとんどお客はくることもなく、穏やかに時間がすぎていった。

 そうしてお昼になったので、戸締まりをして看板をかけ、待ちあわせ場所の広場へ行く。

 そこは別名屋台広場というだけあり、出店、それも食べ物関係が多いところになっているらしい。

 ざっと見ただけでも片手で足りない数の店が出ていて、一度では制覇できそうにない。

 このためにおかみさんから荷物を入れやすいバスケットやらも借りているので準備万端だ。

 主菜、副菜、おやつを買って、みんなで食べようということに決めてある。

 多少量が多くなっても、よく食べる二人がいるから大丈夫だろう。

 なににしようかなぁ、と、時間帯もあって賑わう通りを進んで行く。

 混雑しているとどうしても雑音が目に入るので、少し疲れてしまうのだけど、どの店もできたてを提供しているから、やっぱり今が一番いい。

 結局、焼き魚、色とりどりのサラダ、フルーツゼリーを選んでバスケットにしまう。

 あらかじめ決めていた、少し離れた公園入口に行くと、まだ誰もいなかった。

 音を頼りに探すことも考えつつしばらく待っていると、まずレンが、次にアラハキさんがやってきた。

 挨拶をしながら中へ入り、適当なところで持ってきた敷き布を広げる、これもおかみさんが持たせてくれた。

 ベンチもたくさんあるし、テーブルつきのところもあるけど、どうせならこっちのほうが気分が出るというものだ。

 レンが選んだのは安定の肉のバーガーとがっつりしたポテトとかの盛り合わせ、デザートの代わりに飲物だった。

 アラハキさんは米を使ったおにぎり、というものと、煮物にクッキーみたいなもの。

 見事に趣味が別れるので、これはこれで面白い。

 ここまで違えば、それぞれのものに対しての感想も出やすくて、わりと会話が進んでいく。

 結構な量があったけれど、やっぱりというか、私が食べきれなかった分はレンのお腹に消えていった。

「そうだ、キィカさん、団長が話があると言ってましたよ」

 そのまま練習にお邪魔するべく一緒に歩いていると、アラハキさんからそう言われた。

 なんだろう? もらった石は問題なく使えてると思うけど……そうだ、腕につけておかなきゃ。

 ひっぱりだしたブレスレットを腕にはめてみる、うん、特に問題はなさそうだ。

「気楽な調子だったので、そんなに身構えなくても大丈夫そうですよ」

「あ、そうですか、でも団長相手だと、どうしても背筋が伸びません?」

「たしかに、ぼくも最初は、楽団だったよな……と思いましたよ」

 見た目はみんなが思い浮かべる、線の細い透き通るようなエルフなんだけど、中味は全然違うからなぁ。

 そのギャップも魅力のひとつな気がするし、口調とか態度が軍人みたいなだけで、無茶なことをするわけでもない。

 そんなことを話しながら練習場につくと、視線を感じたが無視をする。

 ちらっとレンを見ると、微かにうなずいてくれた。

 アラハキさんはそういう意味では一般人なので、気配に勘づくことはなかったようだ。

 色からして……二人かな? 少ないけど、交代なんだろう。

 そこそこいいとこのお嬢さんが、毎日何時間もはりついてはいられないだろうし。

 とげとげしい視線を感じたので、わざとそのままアラハキさんの隣を歩き、世間話を続行する。

 休憩時間も大分差し迫っていたので、団長の話を聞くのは後回しにして、練習室の隣へ直行した。

「──じゃあ、今日はここまで」

 団長の声に我に返る。

 混色があると言っても、全体のレベルは高いから、聞き惚れてしまってた……

 龍を癒やすための音楽らしく、緩い旋律は眠気を誘うくらいで。

 眠るのはもったいないとがんばったのだけど、最後は落ちてたかもしれない。

 呼んでいたとは聞いたけど、たくさん団員がいる中に入る度胸はないので、しばらく待つ。

 やがてノックが響き、団長が入ってきた。

「アラハキさんから呼んでるって聞きましたけど、なにかありました?」

 椅子から立ちあがって挨拶もそこそこに問いかけると、いや、と微笑まれる。

 その感じからしても、たしかに差し迫ったことではなさそうだ。

「キィカ君さえよければ、皆での食事に混じってくれないかなと」

「みんなで……って、お昼ですか?」

 団長と団員何人かでの食事のことかと確認すると、そうだ、とうなずかれる。

 なんでも、団員のみんなも私の興味津々らしい。

 そりゃまあ、遠路はるばる訪ねてきた人間は珍しいから、同じ立場だったらそう思うだろう。

 なので、三人での昼食のない日にどうか、ということだそうで。

「とはいえ毎日では、キィカ君がのんびりできないから、時々で構わないよ」

 食事すること自体は特に問題ないし、知りあいが増えるのは嬉しいことだから、私に文句はない。

 閉店時間をちょっと早めてここにくれば、待たせることもないだろう。

 お客さんたちは大体昼前にきてくれるから、そんなに迷惑にもならないと思うし、看板に書いておくのでもいい。

 私には得しかないけど、中には気にくわないひともいるんじゃないかな、とちょっと不安になるけど……節度を守って適度にして、仲良くなったらそのひとたちと食事をするようにすればいい、かな。

 なにより団長に頼まれると、断りづらいというか……うん。

 私は顔を覚えられないから見た目にこだわりが少ないけど、それでもエルフの美形に見つめられれば、絆されるわけで。

 たまになら、と返答すると、団長はにっこりと、それは綺麗に笑うのだった。


「……あれは卑怯だと思うんだよね」

 恒例となったレンとの帰り道。

 思わずこぼすと、そうだな、と笑い声が降ってきた。

「普段かっちりしてるのに、笑うと案外砕けた印象になるからな」

「やっぱり団員のみんなも思うんだ」

 ギャップ萌えってやつだよね、多分。

「でも、あんまり私が出しゃばるのもって悩むんだけど……」

 レンになら言ってもいいかなと、つい漏らしてしまう。

 甘えているのはわかってるんだけど、他に言える相手もいないし。

「出しゃばるってほどじゃねェだろ、それに……アラハキがキィカの話をよくするからな」

 なんで、と思ったけど、自分の過去を話したくない彼にとって、話題にしやすいこととなると、三人で出かけることになるわけで。

 レンとはまだあんまり喋っておらず、私がどっちかと話す、というのがほとんどだから……そりゃあ、ネタは偏るか。

 私は旅の間の話で結構ネタがあるし、他の楽団のことも話題に出る。考えれば納得だ。

 あまり打ち解けなかった団員がよく口にする、わざわざ離島にやってきた旅人。……うん、興味出るな。

 じゃあまあ、せいぜいお昼の時は愛想よくしよう、と思いつつ、大通りへ出る。

 まだ少し早い時間帯なので、一杯飲むひとなどで通りは賑わっている。

 ちょっと気を抜くと、色が溢れてみえてしまいそうで、何度か目をまたたかせた。

「……キィカは、眼鏡持ってないのか?」

 その様子を見たらしいレンの声は心配げだ。

「持ってるけど、あんまり使えない……かな」

 うっすらと色のついた眼鏡は、全体的にトーンが落ちるため、周囲の色が鮮やかにならず、目に楽な仕様になっている。

 微量の魔力を流すことで、もっとよくなるんだけど……お金がかかるからね……

 普通眼鏡は、見えないひとのためのものだ、視覚に問題のあるひとが、まぶしいからとつけるものもあるけれど。

 でも私の場合は見えなくするためのものなので、外すタイミングが一般的なそれと逆になってしまう。

「ちゃんと見たい時に外すって、なんか変でしょ? だからつけづらくて」

 近視なら眼鏡を外しても違和感はないが、私の場合は偵察を請け負うことが多い。

 だのにかけていた眼鏡を外して、その上さっきよりものがよく見えるとわかれば、音がみえることまでバレなくても、なにかあると察するには十分だ。

 だからいつも持ち歩いてはいるんだけど、使う時間はごくわずかだ。

「俺は事情を知ってるから、俺といる時は遠慮しないでかけとけ、疲れるだろ?」

「……うん……ありがとう」

 お言葉に甘えて眼鏡をかけると、灯りがあっても視界が悪くなってしまう。

 とはいえ見えなくなるわけじゃないんだけど、滅多にしないから、ちょっとだけ不安が出てしまう。

「なんかあったら遠慮なく捕まっとけ」

 歩く速度を合わせて横に並んでくれるレンは、私がちょっと体重をかけてもびくともしないだろう。

 ありがとう、ともう一度お礼を口にして、ゆっくりと帰路についた。

 サブタイトル考えるのしんどい。

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