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信用と鍵

 そんなこんなで団長との会話ののち、二人で外へ出ると、そこにはレンの姿が。

 長い間喋っていたわけじゃないから待たせたってほどではないけど、そもそも待っているとも聞いていなかったわけで。

 ……まあ、なんとなくそんな気がしたから、急いだのはあるけど。

「ええと……もしや送っていただけるのでしょうか」

「なんだ敬語で。まずかったか?」

 小走りに近づいて声をかけると、当然のように返されたので、首をふっておく。

 でも、約束してるわけでもなんでもないんだから、待ってる義理はないんだけど。

 まあ今日の店番の話とかは必要だろうから、あり……なのかな?

 そのまま、途中までは団長と一緒に歩いて行く。団長はさっきの赤面が嘘のように落ちついた様子だ。

 私の出身の話しとか、益体ない話題を続けるうちに、大通りに出る。

「では私はこれで失礼する。キィカ君、いつでも見学にきてくれ」

 団長は颯爽とどこかへ行ってしまった。その方向は……領主館とかのあるほうだ。

 まだなにか仕事があるんだろうか、大変だなぁ。

 そこからはレンと二人で歩いていく。いつもどおり、私の歩幅に合わせてくれているから、歩きやすい。

「……それで? 店番は問題はなかったか?」

「うん、特には。ああでも確認のために、いったんレンの家に行く?」

 お金とかはちゃんとしまったけれど、一緒に見てもらうほうが安心だろう。

 そう考えたのだが、べつにいい、と返された。

 信頼されているのは嬉しいけど、ちょっと不安にもなるというか……

 あ、そうだ、白虎が様子を見にきてくれたことも伝えておかないと。

「わざわざ連絡しておいてくれて、ありがとう」

 お礼を続けると、レンはいや、と口ごもる。

「大丈夫だって言葉を信じてなかったわけじゃねェんだが……多少、血の気の多いのもいるからな」

 なるほど、だから万一を考えていたってことか。

 たしかに大きな種族に殴りかかられたら、ちょっと大変だ。

 身を守ることはできても、店の備品とかを壊しかねないし。

 うまく外に誘導できればいいんだけど……

「いや、そういう時は気にしないでいいから、とにかく逃げろよ」

 声に出ていたらしく、軽くたしなめられてしまった。

 けど、そこそこ珍しい薬草もあるみたいだから、無駄にするのは気が引ける。

 こちらから手を出さないかぎりは大丈夫だろうとは言われたけど。

 あとは白虎がそろばんに興味津々だったことや、今日きたお客の話……といっても顔は覚えてないけど、などを伝えておく。

 それから、団長から石をもらったので、明日加工をお願いすると伝えると、

「なら、明日は店番しなくてもかまわねェぞ」

 案の定、そう告げられたので、ううん、と首をふった。

「でもレンがいいなら、やろうと思うんだ、午前中だけになるけど」

「そりゃ、俺は助かるが……」

「じゃあ決まり!」

 明日はみんなとごはんだから、私がいたら逆に邪魔になってしまう。

 レンは観光もできないんじゃと心配してくれてるようだけど、それはあくまでついでだし。

 午前だけなら午後に見て回ることもできるのだから、そんなに気にすることじゃない。

 渋るレンに強引に約束をとりつけると、苦笑いする音が漏れた。

「……あ、でも鍵どうしよう」

 戸締まりしたあとの問題を忘れていた。

 午後の用事がどれだけかかるかわからないから、練習を見に行けるかは微妙なところだ。

 その旨を話すと、なんだそんなこと、と返ってくる。

「スペアがあるから、問題ないだろ」

 あまりにもあっさり言われてしまうと、大分困る。

 そりゃあ毎日のように顔を合わせるけど……

 よっぽど困った顔をさらしていたんだろう、レンは少しだけ声の調子を改めた。

「前も言ったが、俺は見た目で信用されないことが多い」

 楽団員として在籍していても、少なくない島民の中には知らないひとも多いだろう。

 そういうひとにとっては、珍しい種族のひとびとは、ちょっとおっかない存在かもしれない。

 たしかに見た目だけで言うと、お世辞にも正義寄りではないけれど……

「それは仕方ないことだと思ってる。でもキィカを見ていたら、他方からは歯がゆいものもあるんだなと……今まで知らなかったわけじゃねェが、ことさら考えるようになった」

 私はわたしで、冒険者という身分上、信用してもらえないのが当たり前だという感じかたで。

 たしかに、似ているといえばそうなんだろう。

 レンの優しさに対して、同じようなもやもやも抱いているわけだし……

「──だから、キィカを信用するのは、俺の勝手でもあるんだ」

 気にするな、と告げられても、難しくはあるけれど、でもここはうなずいておくところだろう。

 だから笑って、ありがとうと返すことにした。


 次の日もレンが出かける前に店に行き、昨日のチェックをしてもらった。

 出納帳もちゃんと書いておいたし、金額に間違いもなかったので、問題なしと褒められて嬉しくなる。

 行ってらっしゃいと送りだしたら掃除をして、お店を開ける。

 今日もお客はそんなにこなかったけれど、多分もともとこんなものなんだろう。

 その証拠に、検算を頼まれた過去の出納帳を見ても、お客の数は大差ない。

 途中で白虎が遊びにきたりしつつ、無事に昼までが過ぎた。

 今日は待ちあわせもないので、昼すぎよりもう少しだけ店を開けておいて、それから片づけをする。

 レンから預かったスペアキーは、長く使われていなかったらしく、ぴかぴかだ。

 剥き身でもらったのでなくしそうだから、どうにかしないとなぁ……

 しかもこの鍵、私の手でも十分持てるほどで、小さめだ。レンの手ではやりづらいだろうに、と心配になるくらい。

 うっかりなくすと恐いので、とりあえず紐で結んで、財布などを入れている腰のポーチにしまっておく。

 閉店の札をかけて、白虎に一声かけたら、むかうのは装飾品の加工場だ。

 団長が話しておいたらしく、指定された店に行けば、すぐ奥に通してもらった。

 高くつくなら自分でも出さないと、と思っていたけど、あらかじめつくってある枠に填めるだけというのもできると言われて、迷わずそっちにした。

 領主が手遊び(すごい趣味だけど)に時々つくって卸してくれるので、枠はそこそこの数を用意しているのだという。

 大事な輸出品でもあるそうで、なるほど、と納得した。

 さて、どれにしようかと枠を眺める。

 土台に石を填めるわけだけど、周囲の細工は色々だ。

 動物、植物……指輪やブローチ用などなど、思いつくかぎりが用意されているみたいだ。

 ここにないものもつくれるそうだけど、そこまでしてもらうのもなぁ。

 巡に見ていると、ちょうど、私好みのものを見つけた。

 色々なものに流用可能な土台部分だけで、そこに金具をつけるものらしく、そうだ、と思いつく。

「あの、これに鎖をつけてブレスレットみたいにできます?」

 私の問いに職人はすぐこのあたりはどうか、とチェーンを出してきてくれた。

 いくつか見て、結局、音譜の形をしたパーツのおたまじゃくし部分に石を填め、両端にチェーンをつけてブレスレットっぽくしてもらうことにする。

 簡単な加工だからすぐできると言われたので、隣の店舗を覗いて時間を潰すことにした。

 小さいながら色々な鉱石がとれる場所もあるし、ダンジョンからも出るらしく、お手頃価格のものから、魔法の封じられたものや大きな石など、色々そろっていた。

 今度イヤリングを買うのもアリかなぁ……指輪、も悪くないけど、ぶつけて壊しそうだし。

 つらつら悩んでいるうちに加工は終わり、支払いは団長からもらっている分で十分だからと断られた。

 団長も時々魔力を入れた石を卸しているそうで、だから持ちつもたれつなんだそうだ。

 今度なにかしらお礼をしようと決意しつつ、ありがたくブレスレットをもらう。

 腕につけてもいいけれど、なくさない大事なものということで、鍵を代わりに通して袋にしまいこんだ。

 これなら、うっかり落とさないよう二重に注意するからちょうどいい。

 落としても音はあんまりしないだろうけど……いや、落としちゃまずいけど。

 鍵も小さいから、このまま腕につけていても、そんなに変ではないだろう。

 これから、練習を聞きに行く時は腕につけることにして、それ以外はしまっておこう。

 付近は同じような装飾品の店や工場が並んでいたので、ついつい吸いよせられてしまった。

 買いはしなかったものの、見て歩いたら夕暮れになってしまい、その日はそのまま帰宅することになった。 

 ラブコメのつもりだったんですけど、シリアスになったのはなぜでしょう……

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