BPM4:あざとい幼馴染と天才音楽家
堺星高校は部活動がとても盛んな学校だ。
部活動見学をこんなに大々的に開催しているのも、この学校ぐらいなものだろう。部活の数も多い。
そのせいもあってか、部室棟と教室のある本校舎は棟が分けられており、かなり離れた場所にある。吹奏楽部や軽音楽部、そんな部活が大音量で練習しているのだから、この立地に文句はない。
「つかさ、これ見て!」
部室棟へ向かう最中、奏はスマホでとある画面を見せてきた。その画面には某大手動画投稿サイトが表示されている。
「……サユ、誰だ?有名なのか?」
よく画面を見ると、どうやらサユというアーティストのミュージックビデオらしい。再生回数は三百万回も再生されている。
「私も昨日知ったんだけど、とにかくすっっっごくいいの。歌声がほんと綺麗で、歌詞もノスタルジックな感じで……」
「ヘエ、ノスタルジックデイイカンジナノネ」
「なんで棒読みなのよ」
嬉しそうに話してくる奏を少しだけ弄りたくなったのだ。先ほどの仕返しである。
「本当にいいのに……ほら、一緒に聴こ?」
ガサゴソと取り出したイヤホンの片耳を司に渡してきた。
男が一度でいいからやってみたい、女の子と、片耳ずつ分け合ったイヤホンで一緒に同じ音楽を聴くという伝説のシチュエーション。
奏はにやにやしている。すごくにやついている。幼馴染ともなると、どうすれば司が恥ずかしがるのか手に取るようにわかるらしい。仕返しをしたのに秒で仕返しされた。
「……」
黙って、渡されたイヤホンを、司は耳につける。頬が自分でもわかるくらい赤くなっている。仕返しはもうやめようと誓った。
奏が再生ボタンを押すと、動画と音楽が流れはじめた。
ピアノ、ストリングスから始まる前奏。穏やかなリズムをピアノの伴奏が刻む。そしてボーカルがゆっくりと、歌い始める。
「……おぉ」
思わず声が漏れる。透明感溢れる凛とした声。
失恋の曲だった。大切な人が、今にもどこか遠くへ行ってしまうような、そんな錯覚さえ感じてしまう切ない声色。サビに入った途端、鳥肌がった。三百万回再生も頷ける名曲だ。
奏が隣に居ることすらも忘れてしまうくらい、司は聞き入ってしまった。
「わっ、司、なんで泣いてるの?」
「え?」
頬に触れる。温かい水滴が司の頬を流れていた。
涙が出た理由はよくわからない。切ない歌詞に感動してしまったのかもしれない。ただ妙に懐かしいような、不思議な感覚だったのは間違いなかった。
「そんな感動しちゃったんだ。なんか嫉妬」
「なんで奏が嫉妬するんだよ」
「私の曲じゃ泣いてくれないくせに」
「そういうことね」
頬をぷくっと膨らませる奏の頭に、ポンと手をのせ撫でる。
「僕を泣かすことができたら、奏も一人前になれるってことだな」
「なにそれムカつくぅ~、いいもん、サユより良い曲、いつか絶対作ってやるんだから」
ぐっと拳を握り、奏は決意表明を述べる。ぜひ有言実行してもらいたい。
「聴かせてくれてありがとうな。家帰ったら聴き漁ってみるよ」
「どういたしまして。でもサユ、最近全然曲出してないみたいなのよね。休止中なのかな?」
見せてくれた動画の投稿日を見ると十ヶ月前となっている。
「そうなのか?」
どのアーティストやバンドでもそれぐらいのペースではないのかと、司は首をかしげる。
「うん、それまでは二か月ペースでミュージックビデオを公開してたみたい」
二ヶ月ペース。それなら十ヶ月も更新が途絶えているのは、確かに不思議に思う人もいるかもしれない。
「まぁ、もっとすごいペースで曲作ってた人もいたけど」
奏がそっと呟く。
「え?なんて?」
「制作期間に入ったとかそんな理由でしょ、って言ったのよ」
そう言った奏の顔は少し強張っていた。
「どうした?」
「別になにも。あ、つかさそろそろ着くわよ!」
そう言った奏の視線の先を見ると、本校舎と部室棟を繋ぐ連絡通路に、いつの間にか着いていた。
つづく。
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