BPM1:記憶喪失と恋物語
音坂司は十四歳までの記憶を無くしている。
交通事故による記憶障害。
外傷はなかったものの、心臓が一時的に停止してしまった為、脳にダメージを負ってしまった。
病院で目覚めた時、二人の女性が司の顔を覗かせていた。
ひとりは、司の母親。もうひとりは、司の幼馴染だ。
自分が記憶喪失になったことを、そのふたりを見てスッと納得することができた。するしかなかった。
自分の為にこんなに泣いてくれる目の前の人間のことをなにも思い出せなかったのだ。
思い出そうとしても、自分の名前すらわからない。
まるで知らない世界に十四歳の身体のまま生み落とされたような、奇妙な感覚に襲われた。言葉や社会の常識は理解できるが、思い出と呼ばれるものが頭からすっぽり抜け落ちてしまったらしい。
自分のこと。
すきな食べ物。
趣味はなんだったのか。
将来の夢は?
自分はなにを目指していたのだろう。
そもそも今いる自分は、一体誰なのだろうか。
そんなことが、入院の間、頭の中を駆け巡っていた。
『人生を色付けるのは、いつだって、ひとつの恋物語なのだ』
幼馴染から、入院中暇だろうからと貸してもらった、青春恋愛漫画に出てきた言葉。
まっさらな司の心に、希望という彩りを添えてくれた言葉でもある。
自分という不確かな存在を、心の底から認めてくれる、そんな人に出会いたい。
できれば、この漫画にでてくるような、誰もが振り向くような美少女と、運命的な出会いを果たしたい。
あの頃、病院のベッドから見える空に、そんな物語を描いていた。
記憶喪失の少年が、女の子に心を救われる、そんな恋物語を。
――そんな入院生活から一年後。
高校生になった司は、逆立ちをしたパンツ丸見えヘッドホン美少女と出会った。
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