転入。そして着替え。(ぽろりはないよ)
「学校にいきましょう!!」
そうだねまだ高校生だからね何を当たり前な事を言ってるんだねこのお嬢様は。
っていうか。
「僕の元々通っていた学校はどうなってるの?」
そう。拉致られたとはいえ始業式含めてここ三日間学校を無断欠席しているのだ。今さら登校したとて確実に怒られる。
「あ、それはもう転校のための手続きを済ませてあるので大丈夫ですわ」
どこも大丈夫に聞こえないのはどういうことなんですかねお嬢様。
「あー…そうだったんだ。だよね。それは当たり前だよね。」
そうじゃなきゃこんな犯罪まがいのことしてただで済むとも思えない。
というか今考えたらそうとう慎重に行われたんだな、僕の拉致。
ちなみに今は例のティータイムの翌日、朝の7時である。
昨日は僕が起きている間に彼女は帰ってこなかったのだが、いつの間にか帰ってきていたらしい。
食堂でちょこんと座って待っていた。
「ちょっと離れた学校ですが、私が元々通っている学校で理事長とも仲がいいのですわ。和様のことをお話ししたら快く許可を頂けましたわ!」
全く用意周到なことで。
しかしドイツの学校かあ。でも僕…。
「ドイツ語話せないんだけど、大丈夫?」
そう。今まで生きてきた16年間、海外旅行など一度も行ったことがない。
「そこは問題ありませんわ。和様が編入なさるクラスの皆さんは日本語学を幼い頃からまなんでいますの。不自由はしないかと。それに、アンリをつけますから大丈夫ですわ!」
なんと。このお嬢様の学校では日本語学を学ぶ生徒がそれほどまでに多いらしい。
聞くところによると教師にも日本人が多いとか。
…そういえばアンリさんも外国人(どこの国の人かは聞いてない)のに日本語が流暢だったし、わりと日本語はメジャーなのかもしれない。
「うん、わかった。…んで、学校はいつからなんだい?流石に今日からというのは急すぎr」
「今からですわ!!」
はいまさかの予想通り!!このお嬢様は話が早すぎる!!もっと歩くような速さでお願いしたいところだけど…無理なんだろうなあ…。
「いやいやお嬢様。それは急すぎない?第一に制服とかどうなっているの?あるとしても、用意してないんじゃ…」
「ご心配なく!!ちゃんと用意してありますわ!」
彼女の後ろにいつの間にかいたセバスが制服を持って立っていた。
うん。準備がよすぎて怖くなってきたよ君。
ここまで来たら覚悟を決めるしかないようだ。
「わ、わかった。とりあえず今から準備するから待っててほしい。」
「わかりましたわ。ゆっくり準備なさっても構いませんわよ?」
ゆっくり準備をするかはともかく、僕は自室に戻り着替えることにした。のだが。
上着を脱いだところで違和感に気づいた。
「…なんか、誰かに見られてる感じがする…」
なんだ。ねっとりとなめ回されるような視線が…。
ドアの方をみたら半開きになっている。…まさか。
ガチャッ
「きゃーっ和様のえっちぃー」
「なぁにしてんだおじょうさまぁ!?」
鼻息荒く顔を真っ赤にしたアンジュお嬢様がそこにいた。
てか覗いてたのかよ!!
全く油断ならないお嬢様である。
「あーん、いけずぅー」とか言うお嬢様を追い払い、ドアに鍵をかける。
これで安心して着替えられ…ない。
まだ見られてる感じがする。
「…どこだ…?どこにいる…?」
あのお嬢様は追い払った。でもまだ感じる。
キョロキョロしていたらある一点に目が止まった。
クローゼットだ。
例によって半開き。視線を向けた瞬間、ビクッとクローゼットが反応した気がするがきっと気のせいだろう。
近づいて耳を澄ますと中からハアハア聞こえる。
ガラガラッ
「…いや何してるんですかアンリさん」
そこにはビデオカメラを持ってしゃがみこんでいるアンリさん。
「何って。お嬢様のご命令ですが何か?」
何かじゃないよ全く!!
相変わらず視線は鋭く、少し怖いがここだけは譲れない。
丁重にお引き取り願うことにした。案外すんなりとアンリさんは出ていってくれたのだが、なんとなく耳の辺りが赤くなっていたのは気になるところだった。
「…しまった。ビデオカメラ回収するのわすれてた。」
朝の着替えだけでどっと疲れてしまう僕であった。
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「アンリ。例のビデオは。」
「はい、ここに。ですが申し訳ありません。お嬢様が追い払われてしまった直後に私も…ですが、上半身まではバッチリ撮れました。お納めください」
「よくやりましたわ!次もお願いしますわね!」
「はい、お嬢様」
そんな会話が廊下でされているとは露知らず、和の受難はまだまだ続くのであったとさ。