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大事なことほど忘れやすいよねって話

待機してた人はどれくらいいたんだろうか。


お待たせしましたぁ!!


コメント、ポイント評価をお願いしまぁあす!!

その噂は驚くほど呆気なく飛び込んできた。


「…え、入院?この前の不良な人たちが、全員?」


翌日、数学の授業が終わった後の昼下がり。


今日の授業は残り二科目、と、午前中に疲れた頭を癒すために持参したコーヒーを飲もうとしたときにそんな話を奏からされることとなった。


「うん、なんかいろいろ大変らしいわよ。かなりこっぴどくやられてたみたいで、何ヵ月かは学校に来られないって。」


そこで話が途切れ、微妙な空気が流れる中。僕の右側面にべったりくっついて来ていたアンジュが口を挟んだ。


「あら?そんなことがあったんですのね。でも別に良いのではなくて?彼らは死ぬことすら生温いほどの大罪を犯したのですから何ヵ月かの入院程度で済むこと自体に感謝をするべきなのですわ」


「頼むから僕にくっつきながら殺気を放つのはやめてくれ頼むから…」


どんどん生気が失くなり真っ暗に染まってく瞳に周囲の空気まで凍り始めてるから。ほら目の前の席に座ってたアーベル君が堪らず出てっちゃったから。顔面蒼白だったの見た?可哀想すぎだって…。まだマトモにこのクラスの皆と話してないのに…。


スイッと周囲に視線を巡らすと、こちらをチラチラ見ていたクラスメイトも全員勢いよく目を逸らした。


…なんかもういろいろ絶望的みたいだけどボッチだけは回避できるヤッター…。


心の中で乾いた笑い声を上げていると、真剣な眼差しのアイナが疑問点を口にする。


「……誰が、それをしたの?」


そう、話を聞くにあの不良グループのリーダーは権力者の息子だとか言っていた。当然、手を出すような輩はまずいない…はず、なんだが…。


「それにも噂があるわ」


眉間にシワを寄せながら奏が続ける。


「病院に運び込まれたあいつらが口々に言ってるらしいわ。『黒髪の日本人にやられた』って…」


それを聞いたアイナは首を捻る。


「日本人、ですの?それだけじゃ特定は出来ないですわね。この地域だって日本の方はそれなりにいらっしゃいますし…」


「……多分、この地域に住んでる人間じゃない」


何気なく膝の上に滑り込んでくるアイナが続けた。


「……あいつに手を出すような人間はまずいないはず…そうなると実行者は限られてくる…確実に部外者…」


「あ、そういえば服装も言ってた…ブレザーにスカートだったって。」


彼らはしきりにそれらの発言を繰り返しているらしい。


…なんか引っ掛かるような…。なんか忘れてるような気がするけど…なんだったっけなぁ…。


僕の心の中に何かがつっかえてる気がするがどうしても思い出せない。


「なんにせよ、警戒するに越したことはないですわね。お二方も、気をつけて下さいな」


ニコニコと奏とアイナにそう言うが…僕としてはアンジュの方が危ない気がするんだよなぁ…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その夜


「和様、和様の御父様からお電話です」


浴場にて、無理矢理にでも侵入して来ようとするアンジュと攻防を繰り広げた後。自室でアンリが何やら携帯電話を手渡してきた。


「…え、父さん!?なんで!?」


「知りませんよそんなこと。私はただ電話を取っただけですので。早く出られた方がよろしいのでは?」


鋭い視線を放ちながら厳しい事を仰る彼女の手から携帯電話を受け取った。


「父さん!?ちょっと言いたいことが凄い沢山あるんだけどいいかなぁ!?いいよねぇ!?なんだよあの書類は!!さすがにあれは親としてどうなのよ!?」


開口一番にそう捲し立てる。何かしゃべろうとしてたが知ったことか。とりあえず文句言わせてくれ。


しばらくの沈黙の後。


「おお和!元気そうだな!!」


「これを元気そうで終われることに驚きを隠せないけどね僕としてはぁっ!!」


はっはっはと笑う父さんに軽くイラッとする。


まぁそんなことより、と父さんは仕切り直す。


「すまん和。ちょっとしくじった。」


「??なにが?」


唐突すぎてなにがなんだかわからない。


が、気にせず父さんは続ける。


「いや、そのな。説明はしたんだ。ほら、最近仲良くなかったみたいだし、普通にしてたから大丈夫かなって思ってたんだけどな。いや本当にすまん。止められなかった。これに関しては本当にすまない。」


…なにやら要領を得ない喋りだ。何を…というか誰を止められなかったんだ?


「父さん、ちょっと話が見えないんだけど。」


「…あー…その、な…」


「なんだよ、煮えきらないなぁ…何?今さら大抵のことで驚かないから早く言ってくれよ」


「…灯雅がそっちに向かった」


僕は絶句した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


とある一室にて、モニターを見つめる女性が一人。


その映像を早送りしたり巻き戻したり再生したり眺めたりと、ずっとその映像を見続けている。


そこに写っていたのは和だった。


「…お兄ちゃん…」


濃い隈ができた眼でその映像を見続けるその姿は、なにも知らない人が見れば恐怖を抱くことだろう。


そのまま彼女はモニターを抱き締める。


「…大好きだよぉ…お兄ちゃん…」


そのまま夜は更けていく。


理不尽に家族を奪った「女」に憎悪を燃やしながら。

コメントくらさい…くらさい…

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