大人しい子ほど内側に秘める熱量はすごいよねって話
…土下座でもなんでもするんで許してくださいなんでもしますから!!!!
お待たせしましたあああああああ!!お納めください!!!
…五歳の頃、両親と日本へ旅行に来た私は初めて見る景色に舞い上がってしまっていた。
それは、暑い夏の日だった。
幼い私の目には東京の街はとても大きく、輝いて見えた。
両親とはぐれてしまっていても、しばらくの間気づかないほどには。
「…Mom…?」
気づけば周りは薄暗く、あまり人通りのない道に入ってしまっていた。
「……Was soll ich tun……」
当てもなくさ迷う私は、不安に押し潰されそうで、心細くて、泣いてしまいそうだった。
まばらに見える大人達は、私の方をチラチラ見るものの声はかけてこない。
物珍しさもあるのだろうが、面倒事には首を突っ込まない気質だったのだろうと今になれば分かる。
そんなとき。
「あっれー?お嬢ちゃん、一人??お父さんとお母さんは?」
一人の男のひとが声を掛けてきた。髪を染めており、柄のあまり良くないような…怖い雰囲気の人だった。
「何人?日本語通じる~?んー?ダメっぽいか。」
しゃがんで目線を会わせてくる。その目の奥には、一握りの好奇心と、汚い下心。
「はぐれちゃったんだね~?いいよ、お兄ちゃんが一緒に探してあげるよ」
ニタリ、と男の人は笑った。言葉が分からなくても、何かを企んでいるだろうことは分かった。
「M、Mir geht es gut(だ、大丈夫です!!)…!!」
そう言って駆け出そうとしたら、男のひとに手を掴まれてしまった。
少し痛いくらいの力で握られて、どんどんパニックに陥っていく。
「おっとっと!!どこに行くんだい?一緒にお父さんとお母さんを探してあげるって言ってるじゃん!!」
そう叫ばれ、体が硬直して動けなくなる。
周りの大人たちはそんな私を見て、どう判断すればいいのか訝しげな視線を向けるばかり。
「U、Unangenehmッ!!Hilf mir(い、いやっ!!助けて!!)!!」
「だあから、わからねーって!ほら、行くぞ!!」
叫ぶのに、周りの大人たちはそれでも助けてくれない。
引きずられるようにして、近くに停めてあった車に向かって連れていかれる。
抵抗しても、全く歯が立たない。
私に構わずどんどんと進んでいってしまう。
車はもう目の前。抵抗は無意味。もう、ダメ…。
そうして諦めかけたとき。
「お巡りさーん!!こっちです!!早く来てくださいっ!!」
同い年くらいの男の子が、誰かを呼ぶようにして私の方を指差しているのが見えた。
「っ!?」
ビクリ、と男のひとは硬直した。同時に手に入る力が緩み、私の手が男のひとの手からすり抜けた。
その瞬間、私は、男の子の方に駆け出した。
「あ!?くっそ!待て!!」
数瞬遅れて、男のひとも駆け出す。
そして私の方へ手を伸ばし…服の襟を掴もうとした瞬間。
「っあいたぁあ!?!?!?」
いつの間にか駆け寄ってきていた男の子の拳が、男のひとの顔に直撃していた。
片目を押さえて倒れ込むのを尻目に彼は、左手で私の手を取る。
「ほら!行くよ!!走って!!!!」
言葉は分からなくても、何が言いたいのかは分かった。無我夢中で走り出す。
力が上手く入らず、何度も倒れそうになったが傍で走る彼が支えてくれた。
いつまで走っただろうか。
すっかり辺りは暗くなって、本当にどこかもわからない場所に来てしまっていた。
「はぁっ…はぁっ…ご、ごめんねっ!疲れたでしょ…!!でも、もうっ、大丈夫だからっ…!!」
「ハッ…ハッ… Es ist okay(大丈夫…!!)…!!」
そう答えると彼は、目を丸くした。
「ご、ごめん…!僕、英語わからないんだっ!」
申し訳なさそうにしているが、私にも彼が何を言っているのか分からない。
住宅街の中にあった公園に入り、ベンチに腰かける。息を整えた彼は、躊躇いがちに言葉を発する。
「あー…えっと、君の名前は…名前…ネーム?ゆー、ネーム!」
私を指差し、拙い英語で聞いてくる。
どうやら私の名前を聞いているようで、彼の焦ったような顔をみていたら笑みが溢れてきた。
「な、何が面白いのさっ!」
むうっ、と頬を膨らませる彼。そんな姿も面白くて、クスクスと笑ってしまう。
赤面した彼はベンチから立ち、
「ぼ、僕は三上和!なごみだよ!」
「…ナゴミ?」
「そうっ!君は?」
「Ich、Ich…(私、私は…)」
…思えば、私はこの時から彼の事が…
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「…許さない。」
ポツリと呟く。
あの女は許さない。
和をモノみたいに。
何度も何度も独占しようとして。
許さない。許さない。許さない。許さない!!
停めてあった車に三人で乗り込む。
真夜中、人も車もいない道路を猛スピードで進んでいく車内で、私はどうやってあの女を始末するかをだけ考えていた。
皆さん、どのヒロインが一番好きですか!?




