大丈夫。読む小説は間違えていないから。(なお短めの模様)
「疾ッ!!」
鼻っ面に迫り来る踵を僕は右手でいなす。
「やるわねっ!」
彼女、奏はそう言いながら今度は左ストレートと見せかけての中段蹴りを半歩体をズラして避けた。
それでもなお攻防は続く。
っと、こんなバトルシーンから失礼。
三上和です。
どうしてこんなことになってるかって?まぁ、普通にやりとりをしていたら急にね。
しかし、これは「いつものこと」。
彼女なりの挨拶だ。
なら、僕も答えなければならないだろう。
「奏!久しぶりとはいえ、見違えたな!」
「当たりっ!前っ!でしょっ!ここ十年、あなたを倒すためだけに鍛練してきたっ!!」
左からの手刀。金的。足の甲への踏みつけ。人中への刺突。目潰し。掌底。肘。裏拳。回し蹴り。
急所を狙うエッグい技を次々と繰り出す。それを僕は悠々と捌く。当たったらヤバいけど、当たらなければどうと言うことはない。
「いやいや、そうじゃなくてだな。」
「何っ!戦いの途中で!!余裕ねっ!?」
「だぁから、キレイになったなって!」
「えっ」
リズムが狂った。目が揺れ、体幹がブレる。
「ここっ」
その隙を突いて、彼女の襟首と左袖を掴むと遠心力を利用して投げた。
が、背中が地面に着かないように加減する。
「はい、また俺の勝ち」
目を合わせてそう宣言すると、みるみるうちに顔を赤くする奏。
そして、
「…ばかっ」
と、一言だけ言うのだった。
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もはや空気と化していながら、オロオロと見つめていたアイナの他に、影から見つめる少女がひとり。
「…ぇえ~…まさか、奏様まで…?あぁあ…どうしましょう、ライバルがドンドン増えていってしまいますわ…!!」
しかもまさかの武闘派と名高い南條奏と来た。
「…そういえば昔、和様の幼なじみで一緒に武術をやっていらした方の話をセバスから…っ!てっきり男の子かと思って安心していましたのに…!」
実際の写真まで持っているが、その中の奏は男にしか見えなかったアンジュ。さりげなく失礼である。
しかしそこはアンジュのこと。
「…闘っていらっしゃった和様も、素敵でしたわぁ…うふふ…」
不安もすぐに忘れ、先程の光景を思い出してトリップしていた。
ちなみにこれだけで彼女はご飯三杯は軽くいけるそうだ。
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「…ねぇ和。あそこにいるのは?」
「…気にするな。いつものことだから。」
二人はその不審すぎるアンジュをバッチリ目撃していたとさ。めでたしめでたし。




