神代アンジュの場合~なんかこのお嬢様ヤンデレ気質満載だと思うのは俺だけか?~
これは、アンジュ=アルフォード…いや、神代アンジュが5才であった頃の話…。
彼女の両親は共働きであり、彼女の母、神代雅は多忙な時期を迎えていながら、自分の娘を大事に育てていた。
そして、アンジュの父は財閥の会長。世界各地を飛び回るような生活を送っていた。
雅が日本で会社を経営しており、それが「まだ」国内で収まっていたのが幸いしたのもあっただろう。
アンジュは母との二人暮らしであった。
厳密に言えば、セバス等の使用人が当時からいたので違うのだろうが。
父がいない生活は寂しかったが、母がいることにアンジュは幸せを感じていた。
母がいれば十分と思っていた。
その時までは。
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ある時から、母は家に帰らなくなった。
セバスは
「大丈夫です、お嬢様。お母様はお仕事がお忙しいだけにございます。故に、もうしばらくもすれば帰って参りますよ。お嬢様は、安心してお待ち下さい。」
そんな事を言ってアンジュを撫でた。
それならわたし、待ってる!
いい子にしてたら、お母さん、誉めてくれるよね!
そう言うアンジュを、セバスは微笑ましい顔で見つめていた。
寂しく思いながらも、母の姿に恋い焦がれながらも彼女は待ち続けた。
…しかし、アンジュは聞いてしまった。
聞くべきではないことを、聞いてしまった。
聞いてはいけないことを、聞いてしまった。
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「…奥様、残念でしたね…」
「…病気では、仕方がないことではありますけど…」
「…お嬢様に、このことは?」
「…いいえ、まだ。セバス様が時期を見て伝えると仰っていましたわ…」
「…そう、確かにそれがいいのかもしれないわね…」
そうメイド達の部屋で話しているのを、アンジュは妙に落ち着いた気持ちで聞いていた。
彼女は幼かった。だが、愚かではなかった。
だから、わかってしまった。
わかりたくなくても、わかってしまった。
母が死んだということがーーー
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そして気づけば外に飛び出していた。
誰にも気づかれていない、秘密の抜け穴から。
走って、走って、走って。
裸足であることにも構わず、駆け続けた。
子供の足で行けるところはたかが知れている。
だが、そんな事は知らないとばかりに全力で駆けた。
そして気づけば、見覚えのある公園に着いていた。
小さいながらも、母とセバスとの三人でよく来た公園。
アンジュは、セバスと一緒に遊んでいるのを母が近くのベンチから見つめてくれていたことを思い出した。
ちょこんと、母の座っていた位置に座ってみる。
何故だか、涙が溢れてきた。
なぜ、涙が出るのかはわかっている。
母は、もういない。
遠くに行ってしまった。
もう手の届かない所に。
どうしたらいいのかわからない。
何に当たればいいのかわからない。
悔しい。悲しい。寂しい。苦しい。
でも、それを近くで受け止めてくれる人はもういない。
いつまでそうしていただろう。
「…ねぇ、君。大丈夫?」
彼が彼女に声を掛けたのはある意味、運命であったのかもしれない
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…懐かしい、夢を見ていた気がする。
私は暖かな日差しに包まれながら身体を起こす。
隣で穏やかに眠る彼を優しく見つめる。
彼は、私のすべてだ。
彼は、私だ。
私は、彼だ。
私の痛みは彼の物。
彼の痛みは私の物。
そう、あの時から。
「愛してます、和様」
私はそう言って彼の頬にキスをした。




