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紅魔の館の拾われ執事  作者: 夜に生きる中途半端
壱章~十六夜咲夜の消失~
63/75

連続死編5/5(終)

今回長くなってしまい申し訳ないです。

勿論今回も読み辛いですよ♪(白眼)

訳の分からない男達だ、私が目的だと言っておきながら、その目的を尻目に戦いだすなんて。なかなかに理解し難い。しかし、変な兄弟に捕まったりはしたが、きちんと計画を実行に移せそうで良かった。少しの安堵を抱えて私は大穴へと向かう、『十六夜咲夜』では無くなった私を救ってくれる場所に。その大穴の場所は事前に把握済みだ、夜風がかき鳴らす空洞音も聞こえてきた事だしもうそろそろ着くだろう。

 「もう終わりなのね……」

 月光すら通さぬ大穴にたどり着いた時に自然と思考が漏れた、かつては「私は一生死ぬ人間です」だの「生きてる間は一緒に──」だの、実に綺麗な事を言っていたものだった。そう考えると私は随分と独りよがりである、自らを碧血丹心の忠誠の持ち主だと思い込み、それどころかその忠誠もどきに比例した信頼を得ているものと盲信した。周りの賛辞に浮かれ、妖精相手に技を誇った。

 所詮人の道を外れようと、人間だ。吸血鬼の元で『悪魔の犬』と言われて久しかろうとそれは変わらなかった。この程度の思考で感傷に襲われたり、紅い館の吸血鬼の事を考えたり。我が身には過ぎた願いだが、また仕えられたら、なんて願ったり。

 「もう少し……、もう……少……し」

 途端に涙腺が活発になった。大穴が夜闇に溶けて混ざる。あぁ、私はどこまで恥知らずなのだろうか!未だにあれが間違えだと、自分はまだ『十六夜咲夜』であると思い、死から目を叛け──生きたいと思っている。資格無き事を望むな、何でも無い只の人間が、生きる価値の無い無駄な人間が、生きていて良いなんて道理は無いに決まっているじゃないか──。

 「でもこれ位は……」

 涙を拭い、呟いて夜空を見上げ、夜風を感じ、夜の香りを胸一杯に吸い込んだ。どうせ最後だ、余すこと無く堪能したい。しかしこれが最後だと意識すると今まで何とも無かった世界が、急にいとおしく思えた。こんな人間にも存在を許し、優しく包み込んでくれた世界。名残惜しいなぁ……。

 「ああっ!いらっしゃった!間に合ったぞ!」

 草を分ける音に混じり、聞き覚えのある声が聞こえた。

 「咲夜……!!」

 二人共来たのか。面倒くさいなぁ。さっさと死んでおけば良かった、と少し後悔する。

 「良くたどり着いたわね、どうやって──って言うのは野暮かしら?」

 「野暮ですね」

 石橋は相変わらず何を考えているか分からなかった。気負った様子も無い。

 「なぁ咲夜、自殺なんてこんな、馬鹿な事は止めよう……!まだやり直せるさ!レミリアさんが居なくたって、俺が居る!館なら持っているし、好きに建てられる!まだ終わってはいないんだよ!」

 ご高説をどうも、決して心にくる内容ではないが。

 「誘いは嬉しいけど、応えられそうには無いわね、私あなたの言う『咲夜』じゃ無いもの」

 「一応聞かせてくれませんか……何故に?」

 「その名はレミリア・スカーレットに仕えるメイド長の名前よ?、私がそう、だなんて──ちゃんちゃら可笑しいわ」

 石橋は納得した様に頷く。止めに来たんじゃ無いのか。

 「なんでだよ!何でお前はそう、落ち着いているんだっ!」

 仲間割れか?。

 「そう言うなよ~だってさ、目の前の人は俺達が探す『十六夜咲夜』じゃ無いんだぜ?まぁ自殺は止めないといけないけど」

 「お前の目は節穴か!?……あぁ!もういい!俺が説得する!」

 勝手に言い放ったクアロは一歩前に出る。

 「よし、咲夜、二人きりで話をしよう、この前までの熱い愛を思いだそう、そしたら一緒に二人で過ごそう!心に負った傷はなかなか癒えないかもしれない……でも俺は側に居る、癒えるまで、癒えてからも、それこそ死ぬまで!」

 「はぁ……よう言うぜ」

 石橋の言うとおり、大層なラブコールだ。しかし今のクアロを笑い飛ばす事は出来る気がしなかった、あの自信が、あの大言壮語が、『十六夜咲夜』を彷彿とさせる。

 「貴方って私みたいね、自分勝手な愛情を好き勝手にぶつけて、自己満足、それに思い遣りはあるのかしら?相手の心情は?関係無し?それは愛情かしら、劣情かしら?一体どっちなんでしょう」

 クアロの顔には動揺が、少々強く出すぎたかな。

 「いや……でも……そんな俺を受け止めてくれるのは咲夜だけなんだ!」

 木にもたれ掛かっていた石橋が体を起こす。

 「さっきの演説も大層なものでしたが、そういえば、貴女は恋愛経験って有るんですか?」

 「失礼ね、無いけど、何か?」

 「えぇ……」

 「俺とのデートは!?」

 バレたか、まぁどの道バレただろうし、もう良いか。

 「ちょうど良いタイミングだし言うけど、私は貴方に愛情を感じた事は一度も無いわよ?、一緒に紅茶を飲んだ時も、お茶を飲んだ時も、パンを食べた時も、お茶菓子を食べた時も、ハグした時も、お姫様抱っこされた時も、料理を振る舞った時も、貴方が自分で用意したエキストラに私を襲わせ、自分で撃退した時も、貴方が自分の家の歴史を滔々と語っていた時も、貴方が自分の格好良さについて熱く語っていた時も、今だって」

 例を挙げるのに夢中になってしまった、以外と沢山あったし、思ったより止まれなかった。クアロの顔中に色濃い絶望が広がって行くのがはっきり分かる、ちょっとだけすっとした。

 「そんな筈は……何かの間違えだ……きっと」

 何事か呟いたクアロは唐突に顔を挙げた、いくら美形と言っても脂汗に纏われていては台無しもよいところである。

 「あぁ、忘れてたけど、そこの木より前に出たら刺すわよ」

 石橋のもたれ掛かっていた木に指を差し、テリトリーを決める。クアロは既にグレーゾーンだ。

 「何で──って言うのは野暮ですか?」

 「野暮ね」

 下らない会話の間にクアロに距離を詰められていた、ナイフを二本投擲し、牽制する。片方は狙い通りにクアロの太腿を貫いた。もう片方でおまけ程度に狙っておいたが、石橋には止められてしまった。

 「危なっ!?」

 三日経つとは言え、意外にもあんまり腕は落ちていない様だ。

 「咲夜ぁ……咲夜ぁ……」

 足を貫かれて尚クアロはこちらに向かって来る、狂気の影を感じずにはいられない。

 「もう降りるしか無いかしら」

 「えぇ~、早くないですかぁ?」

 緊張感も無いし、クアロの様に意地でも止めようという気概も無さそう。本当に何しに来たんだか。

 「まだまだ貴方に言いたい事が残っているんですがねぇ……」

 未練がましい口調ながらテリトリーを越える様子すら見えない。

 「こんな場面の雑な脅しを律儀に鵜呑みにする必要が有るかしら……?」

 「私は真面目ですので、それにその雑な脅しに則って貴方はナイフを投げた──という事は貴方だって脅しを鵜呑みにしていませんか?」

 「何をルールみたいに言ってるのよ……呆れるわ」

 気付けばクアロはあと数十メートルの所まで迫っていた、血走った目が何とも言い難い恐怖を煽る、私には通用しないのだが。

 「じゃあ死ぬけど、一つだけ言わせて」

 「はい」

 「レミリア・スカーレットをお願いね」

 「……」

 それを言うと石橋はいつになく神妙な表情になった、首を縦に降らなかったのは気になるが真面目を自称しといて職務放棄なんて真似はしない筈だ……ここは信用しとこう。

 「ご機嫌よう」

幕引き。

ここら辺は書いてて楽しかったですねぇ……。

閲覧有難うございました!。

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