激情編5/?
ギリギリセーフ、危なかったぁ……。
そっと目を閉じると謎の水晶が浮かぶ宇宙チックな空間が見えた、これが運命だろうか。以外と俺が自分でそういった想像をしてしまったのかも、と恐る恐る目を開ける、しかし空間はそのまま存在していた。無論水晶もそのままである。内心ビビりながら足をだしても見た目と違いしっかりとした足場があり、宇宙チックだからと言って真空であったり無重力ではなかった。落ち着いた所で、正面に浮かびこの小空間において莫大な存在感を発している三つの水晶を見据える、左から大、中、小と規則正しくサイズが異なる事に何の意味があるのやら……。
「触って大丈夫かね……?」
最も大きい水晶にそっと手を触れる。手がほんのりとした暖かみに包まれ、脳内に明確な映像が流れ込む、これは……!。
「はぁはぁ、愛してるよ、咲夜……!」
「私もよ」
見たことの無い豪邸の豪奢なベッドの上、咲夜さんとクアロが激しく愛し合っている。それを見た俺は殺意に溢れたのだが、残念ながらこれは脳内再生されるだけの映像であり、奴を殴り飛ばす事も咲夜さんから引き剥がす事も出来ない。しかし複雑にやきもきしながら観察していると、あることに気が付いた。咲夜さんをどれだけ眺めようとその言動に心を感じられないのだ、ちょうど十二日前の手合わせの際みたいに。映像は、行為が終わりしばらく経つと自然と頭から抜けていった、何とも不思議な感覚である。
しかしまぁ、あの複雑な映像にも意味はあった、それはこの謎の水晶の正体を暴けたからだ──間違いない、あれは運命そのもの、運命の結晶体であろう!。まだ推測の域を出ないし、格好つけて『運命の結晶体だ!』なんて言っても分かりづらいことこの上無い、と言ってもまぁ結構のところあれはそのまんま運命そのものと言うしか無いのだが。確かな事はあれに触れると映像として運命が見れる……という事のみである。そのサイズ差に関しては目下調査中。
という事で次、いってみよー。さっきまでの映像の残滓を頭から振り払い、一息吐いてから中くらいの水晶に触れる。やっぱり映像が頭に流れ込んで来るが不安定だ、所々映像にノイズが混じっていたり時たま音声が途切れてしまう。水晶が小さいからか?でも見れない程ではないので映像に集中する。
「これで……十六……も終わり……」
途切れ途切れに聞こえる声の出所は勿論咲夜さんなのだが様子がおかしい、いくら何でもぼろぼろ過ぎる。髪は薄汚れて元の銀色をすっかり忘れてしまった様で、服も穴だらけ、身体は生傷まみれとは……みすぼらしいを超えている。三日間何をしていたんだろう、そう思っていると咲夜さんは消え去っていた。何処に行った!?と驚きはしたがすぐに見つかった、咲夜さんは大穴の中に身を投じていたのだ、月光をも拒絶する闇を湛えた大穴の中に。まさに自殺だな、これは。
それにしても、一個目も二個目もろくな運命じゃ無い!咲夜さんの運命には幸せも安心も無いじゃないか、一体どうなっているんだ!。そう怒りを覚える。どう考えてもまともな運命とは思えないな。残りの水晶は最小の一個しか無い、もうこれにかけるか。
という訳で最後の運命に手を合わせる、しかし特に映像という映像は流れない。おかしいなと思って色々考えて見るも浮かび上がる物は無い。半ば投げやりになって水晶を包みこんでみる、すると頭の奥底で一つのイメージが引っ掛かった。意識してイメージを合わせイメージを補足してみる、これは画像か?紅魔館の全員が写っている。どちらかと言えば写真かな?。若干揺らいだイメージを引き締めて隅々まで凝視する。
「俺も居るのか……」
俺や鈴君までしっかり写っている、咲夜さんだって満面の笑みだ。あの映像とは真逆と言っても良い。一応過去に撮った集合写真ではないだろう、とすればこれこそが運命か。
最小、でも最良、俺が目指すべき運命。目標がはっきりした所でふと気付いた事がある、水晶のサイズ差=その運命となる可能性の大きさでは無かろうか。クアロは既に三日間捜しているらしいしお嬢様の力添えもある、まぁ最有力でも頷けるな、次は自殺の線だがこれも充分に有り得るだろう。そして最後にあの写真、紅魔館サイドからは誰も捜索に出ていないのでこれも妥当。こうして考えると割りと現実的な推測じゃないだろうか。
しかし未だに不明瞭な部分が有る、ここからどうやって現実に帰るんだ?。でも言っておいてなんだがこの点に関しては問題は無い。何故なら俺は創造の能力者、思えばそこは見覚えの有る紅の中だ。
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