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紅魔の館の拾われ執事  作者: 夜に生きる中途半端
序章~幻想入り~
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石橋小話~買い出し~

※この話は外伝の様な話ですので

一気に本編を読んでるよ、って方は

飛ばして頂いても構いません(○○編ってなってるのが本編です)

今日の俺の特殊任務──もとい、頼まれ事は人里での不足した物資の買い出し。急に必要な物でもないし、急ぐ必要は無いらしい。

 「取り敢えずこれに書いて有る奴をお願い、支払いはこの分で足りる筈、それと時間があったら好きな物買っても良いわよ、あくまでも自腹でだけど」

 麗しのメイド長に言われた事を胸に刻んで、俺は単身人里に向かっていた。無論、今までやっていた仕事は投げ出してである、これも立派な仕事だ。能力は──使わずに行こうか、春の暖かな日差しを味わうのも悪くない。

 しかし、風も冷たくなく長袖の執事服を着用したままなので、十数分歩いた辺りでじっとりと汗ばんできた。まぁ脱げるからまだましか、現世ならもっと酷い事になっただろうし。現世では春と呼べる様な気候でいる期間は短い、なかなか暖かくならないと思っていても少し経つとすぐに夏の様な暑さが襲い来る。五月なんかはもう夏と言って良い。春らしい陽気なんて感じる暇も無いのだ。

 ──しかしまぁ、暢気だなぁ、妖怪も出ない、山賊も出ない。ついでに誰にも会わない!。本来春は余り好きではないのだが、幻想郷の風景の美しさの前にはそんな好き嫌いは些細なものだった。今までに見たことの無い程の雄大な自然を感じ、日光を浴びて、欠伸の一つでも漏らそうものなら、目的なんて放っといて木陰で昼寝としゃれこもうか!と思ってしまう。サボりは駄目だ──うん、駄目だ。他に仕事してないし。自制心効かせて行こう。

 それから暫くふらふらと歩いていると前方に、木製の建造物群が見えた、人里だ。そうなればこの何気無い散歩も終わりだな、ちょっとだけ名残惜しいかも。また今度、気が向いた時にやってみよう。

 さて、無事に人里入りを果たせた訳だが──咲夜さんが指定していた店は何処だっけ?覚えていなかったな。しかし問題無い、こんな事になるだろうと思い、頼まれた品々と共にメモしておいたのだ!。どれどれ……ああ、入り口近くの万屋か、だったら話が早い。俺は目の前の店に入った。よし、とっとと済ませて自分の買い物をしよう!と少々ずれたやる気を出して、目的の品を探す。

 ──いつ使うか分からないロープ、聞いたことも見たことも無い調味料、保存食等。これらの統一性のない品を買って、俺は店を出た。勿論全て目的の品である。これを持って帰ると今日の仕事は無事終了だ。

 これからは──うーん、特に欲しい物も無い気がする……まぁ様々な店を物色しまくれば何か見つかるだろう、そう思い直して里をふらつく事にした。

 手始めに軽く見渡して、目についた古本屋に寄ってみる。軒先から既に大量の本が積まれていて、他の店とは少し違った雰囲気がする。面白そうだ。ちょっとあわよくば暇潰し用に読みごたえのある小説が何冊か欲しい。ターゲットを絞って暖簾を潜ると、何処かで見たことの有るような漫画本が目に入った。ドラ◯もんにサザ◯さん……?いわゆる漫画黎明期の作品じゃないか!、一体どういう基準で幻想入りしているのだろう、最近の作品は見当たらないし……古いものからだろうか。しかし、二作品とも今や国民的アニメとして老若男女問わず愛されている、そんなものの原作かぁ、少しばかし読んでみたいかも。そうは思ったが、使える金額には限りが有る。それに漫画はその他の本より割高な値段設定であった。──また今度余裕が有るときにまた来よう。

 気を取り直して小説を探すか。ひとまずは厚さ等は気にせず、タイトルで選ぼう。そう考えて気に入ったタイトルのものを手に取り、パラパラとめくって中身を覗く──ハズレだ。本文が全て文語体で書かれている。そっち方面には明るく無いため、読むには少々キツい。じゃあこっちは?といった感じで違う小説に手を伸ばし、中身を確認したがやはり文語体だ、しかも一部が漢文である。漢文の読み方は授業で習ったけれど終始苦手であった、内容は充分面白いものも多いのだが──どうにも上手く読めない。読めないものは流石に勘弁。

 その後も懸命に、慣れ親しんだ口語体の文章を探し続けたが一向に見当たらず、店を出た。しょうがない、小説は次の店で買おう。しかしさっき古本屋から出たばかりなのにまた本屋に行く、というのもなぁ……一旦服でも探そうか、結局買う必要はあることだし。正直服に拘りは大して無い、ちゃっちゃと選んでしまおう。

 俺は近くに服屋を見付けると、すぐに飛び込んだ。そしてサイズを適当に確認して、長袖で無地のシャツを三着、夏に向けて半袖では無い程度に袖短いTシャツを二着。ついでに通気性の良さそうなズボンを買った。半袖と短パンだけは着ない事以外に拘りの無い俺の買い物は二十分も掛からなかった、デザインすら気にかけてはいない。着れれば良いのだ、着れれば。

 さてと、リベンジ行ってみよう、まぁ続けて小説を探さなかったのは単純に気分の問題だったのだが。今度は古本屋では無くちゃんとした本屋に行こう、そこそこに大きい店が良いな。そして中央の通りを進み、探し当てた店は事前に探った古本屋の二倍以上の大きさを誇っていた。俺は早速入店する。店内はゆっくりと仕事をしている店員が十数名。そしてそれより三割位多い客が居て、客層は若者が多めだった。まさか俺と同い年か、年下に見える少年達があんな渋みのある文語体の書物を読めるとは思えないし、期待大かもしれない。

 ──それは俺が新作の棚を漁り初めて僅か数分、冊数にして三冊の本を手に取り、パラッとこれめくってみた時だった。貢数五百と少し、そして口語体で書かれた小説!まさに願い通り!。五百貢ならそこそこ読みごたえもあるだろう、少なくとも大体三百貢ぐらいの文庫本を読むことが多かった俺には充分だ。しかもシリーズ物ときた、今持っている最新作は十二巻で、刊行数は十二冊。結構面白そうだしこれに決めてしまおう。一応一万円は越えないだろうけど、大分痛い出費だ。元々は十二冊も、ましてやシリーズ物を買うつもりは無かった、せいぜい五冊程度に収める筈だったのに……。まぁ一ヶ月以上はもってくれるだろう。

 会計を終わらせて、ずっしりとした紙袋を提げて店を出た。後何かあったっけ?基本的に必要な物は大体買った筈だ。コンセントが部屋に無い以上、電子器具を手に入れても仕方がないし──あっ、そもそも電気屋の様な店を一度も見なかった。幻想郷じゃ取り扱いが無いのかも知れない。とくれば人里に用事も無いし帰るか?まだ夕方には早い、夕飯には言わずもがな。今日は当番では無いから、夕飯ギリギリでも文句は無い筈。とは言えど、暇を抱えて人里をうろつくのも気が進まない。うーん、こうして楽しそうに通りを歩いている人里の人々をしり目に悩んでいると、自分が何故か場違いな気がしてくる。

 まぁ場違いでも場を移せば溶け込めたりするかも、何て考えて歩き出した。

 「痛っ」

 歩き始めてすぐだというのに早速肩がぶつかってしまうとは……、人里にヤバい人間、もしくは妖怪がいないとは限らない。逃げるのも得策とはなり得ないだろう、ここは真っ先に謝っておく。

 「すいませ──」

 「舐めてんのか?ああ?」

 ヤバい、めっちゃ口悪い、しかも低音でとてもドスが効いている。カタギの人間じゃ無いかも……。

 「俺が誰か分かるだろ?なぁ凛穏?」

 「何故俺の名を……!って伊吹かよ……脅かすなし」

 自身が狼藉を働いたのが幻想郷では(現世でも)貴重な知り合いであったことに多少ならざる安心を覚えた、しかし肝心のその知り合いが選りにも選ってこの暴力装置だという事実に戦慄する。

 「しかしまぁ、お前も偉くなったもんだなぁ」

 まずい、軽く言ってもぼこぼこにされる!。

 「こんな所で立ち話も何だし、ほら、行くぞ」

 「うげぇぇ……」

 思い切り首根っこを掴まれ、連行される。何が有ろうと買った物達は守らなくては──!。

 「この辺で良いだろ」

 連れてこられた場所は人里の外れ、魔法の森と呼ばれる曰く付きの森の近くである。伊吹は手を軽く揺らし、ボロい木製のベンチに腰掛けた。

 「よし、ここなら話易い」

 「ここならって、一体どんな話をするつもりなんすか?肩の事なら謝りますよ……?」

 不安から少しおどおどしてしまう。しかし伊吹はそんな俺には一瞥もくれずに神妙な面持ちのまま、じっと地面を見つめていた。そんな伊吹の様子に不安が募る。

 「こいつを見てくれ、こいつをどう思う?」

 伊吹は右手の先から炎を出した。魔方陣も詠唱も無く、自然と。

 「魔法……だと!?」

 「お前は出来たりせんのか?」

 そう言われても……俺はこの前習ったばかりだしなぁ……。

 「出来るけど、そんな出力無いよ」

 俺も右手に魔力を集中させるが、伊吹の炎の十分の一程度の弱々しい火しか出せない。

 「そうか、じゃあこれは?」

 伊吹はベンチの肘掛けの部分を包む様にして握った。あっという間に肘掛けにヒビが入り粉々に割れる。握力か?だとしたらもうゴリラ位じゃないか!?。

 「お前どんだけ握力ばっかり鍛えたんだよ……あっ!触んなよ!?俺まだ死にたくないからな!?」

 「違う!、鍛えてねぇよ、少し触っただけだ」

 どういう事だ?遂に触れただけで物を壊せるレベルに達したのか?それとも人間辞めた?。

 「妹紅さんによると能力が目覚めたってことらしい」

 何も言えなくなった俺に自白してくれた伊吹。正直助かる。

 「能力ねぇ、それなら俺だって有るぜ?」

 「あぁ、やっぱあんの?」

 さて、やたら抽象的な俺の能力をどうひけらかすべきか、インパクトは薄いだろうが物真似でもしてやるか。

 「よーく見てろよ……」

 伊吹に注目させ、無事な方の肘掛けを軽く握って、さっきの衝撃的なシーンを脳内再生する。集中して――能力発動。

 「よっとぉ!ほれ、どうよ?」

 伊吹に破壊された肘掛けと全く同じ末路をこの肘掛けも辿った。

 「お前も同じ能力なんか?」

 「多分違うぞ、俺のは何かイメージを実現出来る奴っぽい」

 まぁ我ながらえげつないチート能力だと思う、しかし難点が無い訳では無い。俺の想像力は正直な所、並の人間よりかは強い。そんな俺の想像力にこの能力が結びつけばどうなるか――答えは暴走だ。何かを考えた瞬間、それが実現されてしまう。そしてこの能力は実現させた際に魔力を消費する、なので余計な物、事を勝手に引き起こした挙げ句、俺の魔力はすっからかんとなるのだ。何回か魔力欠乏によって死にかけた身として言わせて貰うと、こんな能力、使い難い事この上無い!。

 「俺が出来たのは左手から炎を出す事、それと右手で触れた物を壊す事」

 割りと強力な能力じゃん、こいつの力にそんな能力が加わったらと思うと肝が冷えるぜ。

 「それが勝手に発動すんの?やばない?」

 「いや、しない、そうしたいと思った時だけだ」

 羨ましいな、目に見えない魔力の残量に気を使う必要も無い訳だ。ん?まてよ?。

 「お前の能力って魔力減ってる?」

 「魔力……わからんけど、使い過ぎたら変に疲れる」

 じゃあ一応消費されてはいるのか、能力を使った際に零細な魔力しか感じ取れなかったし、消費無しで使えるのかと思った。まぁ個人的には自分の保有する魔力の事が分からないって方が驚きだ。

 こうして俺は順当に能力に対する考察を進めていたが、伊吹にはこれ以上下らん会話を享受する余裕は無いみたいだった。伊吹は腕時計を眺めると急に立ち上がる。

 「あっ、やっべ、この後予定あるんだった」

 「ほーん、どんな用事?」

 「知らん、何か能力に関する重要な事──らしい」

 能力に関する重要な事……講習でもあんのかな、俺は受けた覚え無いけど。

 「まぁお前にも能力有るって分かって安心した、じゃあな」

 「どうもー、行ってら」

 俺は手をヒラヒラと振って、勢い良く駆け出す伊吹を見送った。

 しっかしまぁどうしようかねぇ、これでめでたく暇人に逆戻り……時間的にはもう少し余裕有る。でもこれ以上浪費してもしょうがないし、帰るか。ここは習ったばかりの転移魔方陣の出番だな!──と思ったけど何か怖いし時間も有るから歩いて帰ろう。

 ──夕焼けに見守られての帰路は冬の隠し子と呼ぶべき風を伴っていた。……つまりは四月下旬とは思えない程冷たい風に吹き付けられながら俺は帰宅した。実際に館に帰り付いたのは時刻にして四時五十分、夕飯には充分に間に合ったと言えよう。

 「お帰り、ちゃんと買ってきた?」

 「こちらになります」

 「うん、これで良いわ、お疲れ様、夕飯までは好きに過ごして貰って構わないから」

 任務完了!。

二週間の遅延誠に申し訳ございませんでしたぁぁ!!

うぅ……許してつかぁさい……。

閲覧有難うございました!

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