日常(非日常)編6/?
慌てていたのも少しの間で、先生は持ち前の冷静を取り戻していた──良かった、これで少なくともナイフからは解放される。
「私が呼んでくるけど……まず咲夜は服を着る事!あんたはそのまま待機、あっ、こいつに襲われた時は容赦しなくて良いわよ」
そう言われて始めて状況を正しく理解したのか、咲夜さんはそそくさと服を着始めた。そりゃ会って三日の男と一緒に更衣室で裸で居るというのは無理があろうな、襲われても無理はない──俺の場合は襲ったら死ぬだけだけど。
「きっ、着替えるからっ!こっち見ないでよ!?」
はーい、と適当な返事を返して大人しくそっぽを向く。この場合見てしまっても殺されそうだし。
「ふぅ、もう見ても良いわよ」
何をどうしたかは分からないのだが相当の素早さで着替え終わる咲夜さん、見ても良いってどういう言いぐさなんだと問いたい気もするが置いておこう。
「……ねぇ、この前の事、誰にも話して無いわよね?」
はて?、と昨日以前に思いを戻す、あぁそうか、婚約の話か。なかなか館の関係者以外には出会えていないので話しようが無いといった方が良かろう。
「はい、誰にも話してませんよ、と言うか話す理由が無いです」
「そう……それだったら良いのだけど」
「友人とか お嬢様の知り合いとか、それについて打ち明けれる人はいないんですか?」
返答を待つと、静かに首を振られた。という事は全て一人で抱え込んで──さぞ辛いだろうに。と知ったふうに宥める勇気は俺には無い、一人で悩みを抱え込む辛さは少々知ってはいる 、でもそれでは咲夜さんの力には足りないだろう。敬愛する人物からのこんな仕打ち……それに比べれば俺が悩んでいた事なぞ取るに足らない、些細だ。
「俺に出来る事って有るんでしょうか……」
「……私の式を祝う、これくらいかしら?」
これは些か自虐が過ぎる、しかし考えてもこれくらいしか出来る事が無いというのも現実であり、場の空気も手伝って俺の無力感は募る一方だった。
「ほら、レミィ呼んで来たわよ──って何でこんなに空気重いのよ、まさか本当に襲われた?」
「そう出来たらどれだけ良かったかな……」
ひっそりと吐き出された独り言には幸い誰も気付かず、これをもってこの空気感も終わりである。
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