日常(非日常)編3/?
紅魔館屋上、夜のとばりはすっかりおりていたというのにここを訪れる者がいた。
「The・夜って感じやなぁ」
大した事では無いのだが細やかな日課をこなしに来た、というのも部屋の壁に防音機能が有るのか分からず歌えそうな場所を探したところここまで来てしまったのだ。
「……にしても暗すぎんかね」
明かりの無い外は自称夜目の利く方である俺でさえもろくに見通す事の出来ない程の闇であった。しかしそんな夜空でも見上げてみれば逆に不自然な位に輝く星と三日月が浮かんでいる。俺の住んでいたところは結構な田舎なのだがこんなに綺麗な夜空は見たことが無かった。
「そういやぁ、外で歌った事無かったな」
カラオケか現世の自室でしか歌った事が無かった、反射無しの自分の歌声がどの様なものか、試してみるか。音楽プレイヤーの電源を点け、手頃な曲を探してリストを滑らせる。ファイルを一通り眺めた所で大いに悩んだ結果、若干バラードじみた小洒落たラップを選んだ。
「あー、いきなりでいけっかな、うん」
起きたばかりだというのに俺の舌はいつも以上に良い仕事をこなし、俺にしか聞こえない魔性のメロディと共に、難解で癖のあるリリックを辿っていった。一つ目のサビに達する頃には曲と高純度の夜が発する雰囲気に呑まれ、二つ目にはこの世の全てに溶けていく様な不思議な一体感を覚え──感情が爆発しようかと言うところまで高まった最後のサビ。そこで羽ばたきのみたいなノイズの近づきを感じ、一転、最高に不快な気持ちで周囲の気配を探った。
「それは歌なのか?」
音量を落としたイヤホン越しに聞こえて来る、少女っぽい聞き覚えの無い声。まさか聞かれていたのか?だとしたら無茶苦茶に恥ずかしいのだが……。
「聞いていたのか?──お前誰だよ」
そう言って振り返れば俺の前には金髪ロングの美少女の姿があった、なんとなく中学生位に見えるかな?まぁ俺の知る限りはこんなに可愛い(綺麗?)な中学生は見たことが無いが。
「ちょっと前からね、それにしても──その変なのは何なのだ?」
そう言うと両腕を水平迄上げて首を傾げる、変なのは俺の歌では無くあなたのポーズでは?と思うが、俗に言う『気にしたら負け』ってやつだろう。ほっとこう。
「変なの言うなし、これは歌だよ、歌」
「そーなのかー」
どこか得心した様子の少女、それでもポーズは解かない。
「うーん、変なのを歌う現世の人間……あなたは食べても良い人類?」
……何故俺が現世出身だと分かった?それに『食べても良い人類』とは?。突拍子も無く、不思議な発言だがどうも戯れ言では無さそうだ。理由としては発言した直後に少女の目が獲物を狙うそれに変貌した事と、少女を中心に何らかの力が集まり始めている事が挙げられるだろう。
しかも少女自身からもそれなりに強大な力を感じられる、変なポーズのせいで気付かなかったが。まぁ相棒無しの今の俺じゃ歯が立たないだろうな。
「そう言えば名前を聞いていなかったな、何と言うんだ?あと俺は食べれたもんじゃ無いぞ?何せ肉が少ないからな、それでも食うか?」
「そーなのかー……今は食料に事欠かないし無理して食べなくても良いかも、おやつにはちょっと美味しく無さそうだしね、あっ名前ならルーミアなのだー」
助かった──のか?
「美味しく無さそうって……まぁ良いや、ルーミアね、覚えとくよ」
俺の脳内名簿にまた一つ項目が増える、この調子で知り合いを増やしていきたいものだ。ガールフレンドが多いと言うのはリア充の代表的な特徴だしな、多いに越したことはない。
「ねぇ、こっちからも聞きたい事が有るんだけどさー、前にどっかで会ったっけ?」
どう考えても初対面だろ?、と言いそうになるのを堪える。宴の時は忙しくて参加者を探る事さえ出来なかったし、こっちが覚えて無くても案外覚えられていた──とかだろうか。それか人里に行った時か?、しかしその時は現世の服だったし分からないだろ。
「いやぁ、会って無いと思うけどねぇ……」
「そーか、じゃあ気になる事も無くなったし、もう行くね、バイバイ」
そう言ったルーミアは何処からか漆黒の翼を広げふんわりと飛び立った、幻想郷の少女には皆羽が付いているのかな。
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