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紅魔の館の拾われ執事  作者: 夜に生きる中途半端
序章~幻想入り~
24/75

忙しき日々編12/?

久しぶりにこんなに叱られた気がする、どうやら幻想郷には義理人情に厚い人が多いようだ。こんなに殺伐とした(?)ルール無用な世界でも、良い人は居るもんだな。現世出身の俺的には常識に縛られ冷たくなるなら、これくらい常識を外れても人らしく生きている方が良いと思うのだが──まぁ外れた結果が屍では笑えない。そこは新常識として覚えておこう。

 「はいっ、以後気を付けます」

 場の空気を整える様に霊夢が大きく息を吐く。

 「ふぅ……足止めして悪かったわね、宴は始まったばかりだし、楽しんでいって」

 中に促される、確かに場違いで実に下らない説教もどきを説いただけで宴会チックな事は一個も出来ていない。会話も食事も苦手だが、なるだけ楽しもうじゃないか。さっきまでのいざこざを一旦忘れ、座敷に上がる、少女達の笑みが咲く素敵な宴会に踏み込もう、そしてあわよくば非リア充の脱出を──と意気込んだ辺りで俺の体が仰け反った。

 「あなたはこっちよ」

 咲夜さんに襟元を掴まれていた。結構な力で引っ張られ、だんだんと宴会の光が遠ざかって行く。あぁハーレムだって夢じゃ無かったのに、と自らの不細工加減とコミュ力の無さを棚に挙げて惜しむ。

 「どこに行くんです?」

 「さぁね、働いては貰うけど」

 仕事かぁ、まさか宴の途中でも仕事があるとは。そうとは夢にも思っておらず、少々驚く。てか、何気に初仕事じゃないか?、初仕事が宴会とは何とも言えないな。掴まれたままの姿勢で後ろ向きに歩いていると、やがて咲夜さんが動きを止めた。後ろ向きな時にいきなり止まられるもんだから思い切りつんのめる。危ないなぁ。

 「ここよ」

 咲夜に離され、襖の向こうを覗く。そこは台所で、一人の少女が驚異的なスピードで料理をしていた。特にその包丁さばきは速度、精度共に咲夜さんに並ぶ程であった。

 「妖夢ー、手伝い連れて来たわよー」

 「手伝いですか、それは有難い!、早速ですいませんが宜しくお願いします!」

 妖夢と呼ばれた少女は顔をこちらに向けているが、その手は狂う事無く働いている。素晴らしい腕だ、咲夜さんとどちらが凄いのだろうか。

 「あなたの仕事はこれよ」

 咲夜さんの指先にはテーブル一杯の料理が、持っていけという事か。

 「こっちの席、料理足りてないわよー」

 ぼさっとしていると誰のか分からない催促が聞こえる。早く、と咲夜さんからも催促。このままでも埒が空かない、取り敢えず一番大きい皿を持ってみる。ピザ二枚を重ねずに乗せられそうな巨大なこの大皿、見た目を裏切らず重い……。片手では持つことも叶わないだろう。並々と注がれた何かの肉を溢さない様に慎重に持って行く。台所から会場まではそこそこ距離が有り、料理の重さが腕にくる。いい加減きつくなってきたので廊下を足早に進み、料理を会場に持ち込む。料理を呼んだ女性はあそこだろうか、女性の前のテーブルに今持っている位の皿が乗っているが、中身は綺麗に無くなっている。女性一人の食べる量じゃ無いだろあれ……。

 「ありがとーね、食べたら余計お腹空いちゃって」

 「空いたお皿をお下げしましょうか?」

 「えぇ、頼むわ」

 大皿を置き、代わりに普通のサイズの皿を重ねて持って戻る、こんな事ならファミレスとかでバイトしとけばなぁ。見渡せば他の席でも空いた皿が目立ち初めていた、急ぐか。さっきの女性はおしとやかに、しかし休まず肉にかぶり付いている、大皿が空になるのも時間の問題か。今後の行動方針を決め、廊下を小走りで駆け抜ける。そして台所に着くや否や口を開く。

 「下げた皿はどうすれば」

 「空いてる所だったらどこでも良いから、とにかく置いておいて」

 的確な指示に従い皿を置き、代わりの料理を手に会場に戻る。会場の少女達は料理が着いた瞬間から、やれこっちが足りてないやら、料理のバランスが悪いだの、嫌いな物しか無い、とかもう好き勝手、口々に催促してくる。

 「御待たせしましたぁー!」

 滑らせる様にして皿を近くの席に置き、ひったくる様にして空いた皿を下げる。体裁も何も無い、回転効率が全て。そんでもって廊下を全力疾走。うかうかしてられない。なかなかの激務だが、数でも数えれば気晴らしにはなるかな。

 そうして俺は正確では無いにしても、会場と台所の往来を百回以上、時間にして約二時間。時にはゆったり歩きながら、またある時には全力で走りながら初仕事を一応滞りなく終わらせる事が出来た。

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