忙しき日々編6/?
「いってぇ……ここどこだよ、クソがっ!」
畳に石橋の同級生である少年が畳に刺さっていた。さっき急に現れ、畳の中から叫ぶ少年には寺小屋の教師もほとほと困り果てていた。
「どうしたら良いんだこれは……」
「とりあえず抜いてやったら?」
教師の横でもんぺを着た少女も提案する、その顔には少年への呆れが全面に出ていた。
「誰かいるんですかー?」
少女達の声が聞こえたのか、少年が豹変し一気に落ち着く。
「あっ、ああ、居るとも」
「引き抜いてくれません?、これ」
見た目が可笑しくとも提案はまともな少年に教師が近づく。少年は頭が丸ごと埋まってしまっていて畳を壊すしか手段は無さそうだ。
「燃やそうか?」
そう言って、見た目は普通だが提案がおかしい少女が、半笑いで手に火を灯してみせるが教師は見向きもしない、やがてその顔には覚悟が浮かんだ。
「痛いかもしれないけど、我慢してくれっ」
教師が畳に手を掛ける、全力で力んでいるようだが少年の頭全てが出られる穴は作れない。そこに少年の腕も加勢する。
ゆっくりと床が軋みを上げ、少しずつひびが入っていき、やがて──
「良しっ!抜けたぁ」
派手な音をたて、床が割れる。教師は嬉しそうだが少女は呆れ顔でやれやれだぜ、と呟くだけだ。
「ありがとうございます」
少年が部活のときと同じ様に頭を下げ、礼を言う。それは深く、純粋な感謝の響きが有った。
「どういたしまして、君は礼儀正しいな、名前は何て言うんだ?」
「赤蓮伊吹です」
そうか、良い名だな、と教師が頷く。そこはかとなく大人の余裕が感じられる。
「あなた方の名前は?」
「私は上白沢慧音という」
「おれは藤原妹紅」
再度礼を述べ伊吹が寺小屋を去ろうとする、しかしそれを慧音が止める。
「ちょっと待て!、お前宿はどうするんだ!?、ここには初めて来たんだろう?」
あー、と伊吹が呟く、頭から抜けていたらしい。
「寺小屋に泊めるのか?あいつらが五月蝿いだろう」
「何言っているんだ、そんな場所無いぞ」
伊吹の事で臨時の職員会議が行われるが肝心の伊吹は置いてきぼりになっていた。
「じゃあこいつはどこに泊めんだよ?」
「こいつを助けるとき、お前は何もしてないだろう、お前の家でどうだ、ちょうど人助けになるだろ?」
それを言われた妹紅が真っ赤になり黙る、その隙に慧音が間髪入れず止めを差す。
「まさか、今日出会った男といきなり一つ屋根の下、ってのが恥ずかしい訳じゃないよな?」
「そっ、そんな訳有るか!」
じゃあ決まりだな、と慧音がにやけながら去る。妹紅は真っ赤なまま呼び止めようとしたが間に合わず、慧音は授業に戻ってしまった。
「しっ、仕方なくだからなっ!明日になったら出ていって貰うぞ!」
真っ赤なまま妹紅が告げる。
「よろしくお願いします」
それでも礼は言っておく、伊吹のようなスポーツマンにとっては当たり前の事だ。
今ここにまた、現世から幻想郷に入った少年の移住が決まった。