忙しき日々編4/?
主人公以外のオリキャラが初登場なんですがネーミングセンスが……
「咲夜ーっ!、咲夜ーっ!、居ないのかー!?」
今はまだ微かに聴こえるだけだが間違いない、これは男の声!。幻想郷に来てから初めて聞く男の声ににわかにテンションが上がる。未だに幻想郷の住民は二人しか知らないし、二人共女子なのだ。そろそろ異世界の男子にも会ってみたい。一体どんな奴なのかワクワクする。どんどん声が近づいて来る、初対面というのはどんな場所でも緊張するものだ、友達になれたらいいなぁ、と自らの姿を失念しつつ思いを馳せる。
「咲夜ーっ!、さくっ……、誰だ君は、見ない顔だね」
堂々と叫びながら庭に踏み込んで来たのはイケメンだった、それも超弩級の金髪美少年。声も格好よく、俗に言うイケボだ。しかもスタイルまで良い。神よ、二物、三物を与えすぎじゃないか?と僻みに満たされる。既に仲良くしようとは思えない。
「紅魔館の執事の石橋です」
イケメンはふーん、と空返事を返してくる、聞いといてなんなんだろうその態度は。先ず自分から名乗れ。と心の中に邪念が溜まる。
「名乗って貰ったし、一応こちらも名乗ろう、僕はクアロ・アヴァール、幻想郷に名を馳せる大貴族、そしてこの館のメイド長、十六夜咲夜さんのフィアンセさ」
うん、俺こいつ嫌い。それ以外の感想が出てこない。だいぶ聞き捨てならない事を聞いた気がするがあんまり耳に入って来ない。まさか幻想郷で初めて会う男子が俺の最も嫌うジャニーズ系統の男子──主に自信に満ち溢れていて重度のナルシストの様な発言が鼻に付く男子、不細工の天敵。だったとは。それを知っていたら絶対に会いたくなかった。とりあえずムカつくし、ずっと生暖かい目で対応する事に決めた。
「所で、咲夜はどこにいるかい、会いたいのだが」
「いえ、存じ上げません、フィアンセなら心当たりも有るでしょうし自分でお捜しになられては?」
嫌味をたっぷり効かせて答えると、奴も何か感じ取ったのか多少ムッとしている。
(ムッとしたいのはこっちの方だ、この糞ったれの坊っちゃんめが)といった感じの罵詈雑言を脳内で浴びせながら考える。さて、どうしてやろうか。このままで居れば咲夜さんが戻って来る。こいつの要望通りの展開は見たくないが、咲夜さんも会いたがっているのなら邪魔するのも野暮に思える、うーん、何処までも人生経験の無さが悔やまれる。こういうときどうしたら良いのだろう。
こうして石橋が悶々としていると、恐れていた事態が起こった。
「まだ生きてるー!?、お嬢様とパチュリー様を連れて……」
「咲夜ーっ!会いたかったよ咲夜ーっ!、嗚呼今日も美しいね、そういえば前に言った約束覚えてる!?、一緒にティーパーティーしよって言ったの覚えてる!?」
フィアンセの剣幕に咲夜さんは引いている様に見えた。
「あら久しぶりねクアロ、いつぶりかしら」
「二週間ぶりですよ、レミリアさん」
咲夜さんの後ろから登場したお嬢様とクアロが親しげに話す。これはお嬢様公認なのか。これでは一介の従者に過ぎない俺は手を出せないではないか、もの凄くもどかしい。自らの無力を噛み締めていると、クアロの背が咲夜さんに近づき、咲夜さんと重なった。ハグか、ハグしてんのかこいつら。俺はいつまでナイフをそのままにしておけば良いのか、イチャイチャを見せつけるより普通こっちの方が先だろ、俺死ぬぞ。
(それにしても咲夜さんさんは良い身分ですなぁ、死にかけの一般人をほっといて、現世に行けばジャニーズの頂点に立つ事も可能な程のイケメンにあれほどのラブコールを受け、挙げ句このハグだ。)と罵ってみる、無論脳内でだが。とりあえず考えていても傷は治らない、咲夜さんに声を掛ける為顔を上げると──奴の肩越しに咲夜さんの顔が視界に入った。
咲夜さんは死んだ様に無になっていた、別に本当に死んでいる訳では無いが、俺にはそうとしか思えなかった。俺以外の誰にも見えていないが確かに無表情で目は遠いどこかを見ている、少なくとも喜びは感じられない。この様子では俺も視界には入っていなさそうだ。やがて奴が離れる、咲夜さんに注視すると張り付けた様な笑顔、何でだ?フィアンセなんじゃないのか?。
「ねぇクアロ、盛り上がってる所悪いけど、咲夜これから用事があるのよ」
「えぇ!?どんな用ですか」
「こいつに幻想郷を案内しなきゃならないの」
「なっ!……こんな奴に咲夜が案内してやる必要無いじゃないですか!」
「まぁこいつが働ける様になれば咲夜に休みも与えられるしあなたの所にやっても良いようになるし、今日は辛抱してちょうだい」
「くっ、よくも……、貴様〜、僕と咲夜のデートを邪魔しやがって!、覚えてろよ!……」
がっつり指を指される、動けないし不細工がやっても凄みは出ないのだがせめてもの意思表示で睨んでおく。
「じゃ、デートも出来なさそうだし、もう帰ります」
「えぇ、さようなら、気を付けてねー」
随分と呆気なくクアロが帰っていく。やっと傷を治してもらえそうだ。するとお嬢様の隣辺りから紫の服の女性が現れる、それもまるで魔法を使ったように忽然と。あれも館の住民なんだろうか。
「パチェ、なんで出て来なかったの?」
「私あいつ苦手なのよ」
現れた少女がお嬢様と話している、パチェと呼んでいたということはあれが咲夜さんの言うパチュリー様か。とてもメイドには見えないし、どういう立場の人なのか分からない。
「それで咲夜、怪我人っていうのは?」
「……」
「咲夜?」
お嬢様とパチュリーの二人から呼ばれても反応が無い、お嬢様が惚けちゃって、とにやけながら呟くがあれを見てしまった俺からすると非常に複雑だ。頑張って後で本人に聞いてみようか。そんな咲夜さんも、もう一度呼ばれると、はっとなった、何を考えてたんだか。
「怪我人というのはあいつです、私が模擬戦でやり過ぎちゃって……」
「なるほど、見ない顔ね、新入り?」
質問しながら近づいて来る、案外専属の医者だったりするのだろうか。
「新入りの石橋です」
「ふーん、これが傷ね、結構深いじゃない、本当に模擬戦だったの?」
パチュリーが傷を眺めながら呟く、結構で済むのかこれ。
「咲夜、包帯有る?」
「はい、こちらに」
咲夜さんがパチュリーに包帯を渡し、パチュリーが良く分からない言葉を包帯に吹き込む。魔法の詠唱とかだろうか、なんて言っているかは分からない。
「痛いけど耐えて」
何故、と聞く暇も与えず、パチュリーはナイフに手を掛け一気に引き抜く。
「……っ!」
声にならない程の痛みが石橋を襲う。なかなかの量の血液が勢い良く噴き出し、目眩がしてくる、貧血気味にはきつい試練だ。そしてパチュリーが急いで包帯を巻き、固定する。
「ふぅ、これには治癒の魔法掛といたから、多分十分位で治ると思うわ」
「……有難う御座います……」
傷はまだ焼ける様に痛い、これ程の傷がたったの十分で治りきるというのはとても凄いのだがどうも実感が湧かない。こんな状態ではあまり出歩きたくないがこの後にも予定はある。せいぜい部屋でゆっくり養生しよう、たった十分で済めば良いが。
閲覧有難うございました。