忙しき日々編1/?
この辺から書き方が若干変わってきます、当時の私は何を考えたんでしょう?。
「……見慣れんなぁ」
寝起きの石橋を迎えたのは昨日と同様、真っ赤な天井だった。目が覚めれば今までの事は全て夢、なんて事は無く少し落ち着く。バッグに入っている時計を見ると今は五時半、現世とここの時間の流れは違う様なので宛にはならないが。こういう時に役立つ自慢の愛機達は皆充電が心もとなく、あまり使う気にならない。取り敢えず棚の上に置いといた地図を手に部屋から出る事にした。館の構造を覚える為にも歩き回ろう、全部は間に合わないし同じ階層だけでも。そうしてふらふらと歩き回っていると、食堂辺りでお嬢様と鉢合わせになった。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、割と早いわね」
お嬢様は朝から館の主に相応しい格好であった。髪や服装には一切の乱れが見えない。それに対し、石橋は寝癖もそのままでかろうじて目やにを取った程度である。これって失礼に当たるんかな、と考えていると、お嬢様の声が掛かった。
「今日の夕方は空いてる?」
「はい、多分……」
「幻想郷の奴らにあなたを紹介するのよ、私の従者としてね、だから格好を整えておいて」
格好を整えて、と言われても服は今着ている一着しか無い。
「服……他に無いんですけど……」
「あぁそれは気にしないで、こちらで用意するわ」
じゃあ不安は無い、堂々と紹介されようじゃないか。しかしそれより今日、庭に呼び出された理由の方が気になる。お嬢様は知っているのか、まぁ聞いておいた方が良いのだろう。
「お嬢様、今日僕がやる事ってご存知だったりします?」
「勿論、咲夜から聞いているわ、確か戦闘力を見るのよね、今日」
戦闘力、なんとも幻想的な響きだ、しかし喜んでもいられない。相手が誰であっても中学のときに習った柔道だけでは勝てる気がしない。ここで時計を探し見てみると、現在の時間は五時四十五分。そろそろちょうど良いだろう。
「それではお嬢様、行って参ります」
「えぇ、頑張って、ここでは力が全てだからね」
お嬢様の声を受け、庭に向かう。相手が誰であれ手加減は出来ない、でも弱いに越した事はないなぁ、と思う。ルール次第では殺される事もあり得るのだ。俺は未だこんな異世界に骨を埋める気は無い。
「やっと来たわね、まぁ十分前集合位守れるようで安心したわ」
「はぁ、ありがとうございます」
心なしか咲夜さんの態度が少し軟らかくなっているように感じる。昨日の解体が評価されたのだろうか。
「じゃ、今から倉庫に行くわよ」
「倉庫?、何故ですか」
「武器を取りに行くのよ、あなたも何か武器使うでしょ?」
武器選びか、これこそロマンだ、ファンタジーだ。やはり男子としてはテンションが上がる。これから使うって事はそれで戦えるという事なのだろう。これから命を預ける相棒となる奴をこの目、この手で選べるのか。やっぱり嬉しい、楽しみだ。
石橋が一人でにウキウキする事五分。倉庫らしい場所が見えてきた、ここからでも走って行きたいが咲夜さんの前だ。自らを奮わせる衝動を必死に押さえつけ歩く、こっちに来てここまで心が躍るとは、異世界生活も捨てたものでは無いのかもしれない。
咲夜が鍵を差し込み扉を開く。
「この中から選んで良いわ」
咲夜さんが何か言っているが知った事では無い。
石橋は餌を前に、待てを解かれた犬の様な勢いで整備された武器庫に滑り込む。ここにはロマンが詰まっている。メジャーな刀、剣、槍に始まり、マニアックなボウガン、ククリナイフ、鎖鎌まである。昔からこういった武器を振るって敵を倒したいと思っていた石橋にとってここは天国であった。しばらく恍惚の表情で武器達に見とれていたが、背中に刺さる冷たい視線を感じて、相棒を探し始めた。
「さてさて、ああライフル類は無いのか……、ここはいっそ鎌でも……いやいや、やっぱランスを……」
昨日の分まで独り言を爆発させて素人なりに頑張って目利きを始める。
「はぁ……どうしょうも無いのね……」
後ろで咲夜さんが呟くのが聴こえる、止めないだけ優しいな、と思うが。手に持ったり軽く振ってみたりして相棒を探してみるが手に馴染む物は見つけられない。ここで妥協したくは無いのだが。そのとき部屋の隅、雑多に積まれた箱の山に紛れて埋もれていた刀を偶然発見し、魅入られたように手がその刀に吸い寄せられた。手にすると毎日使いまくってきた愛機達と同じ様な感覚が体を駆け巡った。眺めて見たところ刀は柄から鞘まで黒一色で渋みがある。そして刃を鞘から抜くと刃には少しも刃こぼれが見られない、朝露に濡れた様な刀身はまさに危険なまでの美しさ。これはヤバい、何がヤバいのか少しも説明出来そうに無いがヤバい。それにしても何故こんなものが埋もれていたんだ?。
「見つけました、行きましょう!」
「良いの有った?、じゃ行きましょ」
閲覧有難うございました