就職編3/?
そう思い直したとき咲夜から声が掛かった。地図を投げ渡される。館の全体図は軽く目でさらってみても分かる程のとてつもない広さだ。
「なるだけ早く覚えて」
事も無げに咲夜が言う、いきなりの試練。必死に地図を眺めていると直ぐに前方に足音が鳴る、ここで見させてはくれないようだ。足早に咲夜が行く、それに俺が後れ馳せながら付いて行く。
館全体を回るのにかれこれ二時間もかかった。この館は驚くべき事に何から何までが赤く、長い廊下を通る度に軽い錯覚に襲われるわ目が痛くなってしまうわ、散々な職場巡りだった。そしてまだ目が慣れず目を擦る石橋にまた指示が飛ぶ。
「仕事の内容を教えるわ、先ず料理ね」
そう宣言し咲夜はキッチンに急ぐ。料理とかろくにやったことないんだけど、と固まる石橋に拒否権はやはり無いようだ。キッチンに着くと直ぐに石橋によるムニエルの調理が始められる。理由は簡単、これしかレシピが分からなかったからだ。これが今日の昼飯になる。これからの為にも失敗は出来ない、ガチガチになりながら調理を始める石橋にまたろくでもないことが告げられる。
「失敗したらあなたの昼食無いから、私は食べるけど」
「えぇ~理不尽……」
「なんか言った?」
魚を焼く音に上手く紛れさせたつもりが聞こえていたようで、少しびびる。体を竦めながらも調味料を振りかける。入れ物が普段の物と違う為、掛けすぎるがそもそも家で料理などしなかった。軽く失敗した方を自分のにして新聞を眺める咲夜に差し出す。
「出来ました」
「そう、見た目は普通ね」
咲夜が新聞を畳む。テーブルにはいつ用意したのか、フォーク等の食器が並んでいる。この辺の気配りが流石メイド長と言ったところか。
「頂きます」
「いただきます」
咲夜がナイフとフォークを見事に使いこなす、全ての動作が優雅で美しい。この人を初めて見るのであれば確実に見とれていた。視線を無理矢理魚に戻すと胡椒の振りすぎが目につく。
「まずまずね、他には?」
「いや、これは学校の授業で習ったり、スマホに作り方入ってただけで……これ以外は正直あんまり……」
スマホ?、と咲夜が首をかしげる。そうだった、異世界にスマホがあるのはかなりのレアケースだった、どう説明したものか。取り敢えず実物を見せる。
「スマホってのはこれのことで……うーん、まぁ何でも出来る奴です」
言い終えてほっと一息吐く。
「あぁ、それ?、確か河童が持ってたわね」
「有るんだ……」
一体この世界はどんな世界なのか、全然判断できない。驚きにまた食事の手が止まってしまうが咲夜は既に食べ終わっている、急がねば。
「食べ終わったらあの部屋に戻って、ベッドメイクのやり方教えるから」
それからは夜までずっと館を世話しなく動き回り。咲夜の講習を受けた。清掃、紅茶の淹れ方、それらしい立ち振舞い、レミリアの機嫌の取り方、etc、その講習は多岐に渡り石橋の元々少ない体力を削った。