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アンティークショップ  作者: 微睡 虚
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第三章 呪いの映し身人形

 ある少女がいた。名前は『大宮美香』。頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗。あらゆる才能に恵まれていた少女だった。しかし、上には上がいるもので、全てにおいて一番でないと気が済まない彼女は憤っていた。今回は才能に恵まれた、嫉妬深い少女のお話。


 私には、恨んでいる相手がいる。いじめてくる同級生であったり、説教する先生だったり、私の才能に嫉妬する生徒だったり……。枚挙に暇がない。

「あーあ、皆死ねばいいのに……ってあれ、ここどこだっけ?」

 気がつくと美香は木々が枯れた荒野にいた。しばらく歩いていると、そこには古い建物があった。お店のようだ。看板には『アンティークショップ』と書かれていた。

「アンティークショップ? 骨董品のお店ね……。道を聞くついでにちょっと見てみようかしら……」

 立ち止まっていても仕方がないので中に入って道を聞くことにする。『リンリーン』と、鈴の音がドアの開閉と共になった。

「すいませーん。どなたかいらっしゃいませんか?」

 外面だけは良い彼女が声を掛けた。しかし、返事はない。仕方がないので店内を見てみることにした。 店内には人の気配がなかったが、そこには綺麗な骨董品が数多く並んでいた。素人目にも、それがどれだけ価値がある物かは容易に想像がついた。

「うわー、きれいな骨董品。アンティークっていうだけあるわね。……もしかして、いわくつきのものとかあったりして……」

「ええ、ありますよ」

 突然、後ろから声がした。少女は「わっ!!」と驚いて振り返ると、老人がいた。どうやら、店員さんのようだ。さっきまで、人の気配もなく、足音もなかったのに……。

驚いてしまったが、少女は先程の店員の言葉に興味を持った。

「いわくつきのものがあるの?」

 彼女は興味を持った。彼女はオカルトに傾向していたのである。

「色々ありますよ。例えば、このポテンシャルカードなんて才能を買えるもので……」

 とそこで、少女が店主の言葉をさえぎった。

「才能なんて、どうでもいいの。私は天才なんだから。それより、人を呪う道具ってない?藁人形とか……」

 店主は暫く熟考し、何かを思い出したかのようにつぶやいた。

「ええ。そういう品でしたら、ありますよ。例えば、あの映し身人形とか」

 そういって、店主は店の窓際に飾ってある、西洋のお人形を指差した。綺麗な服で着飾り、可愛らしい顔立ちをした、実にリアルな女の子のお人形だった。美香は人形を持ち上げて言った。

「ふーん、この人形がねえ。どこにでもありそうだけど……呪い人形とは程遠いわ」

 疑わしげに、人形をつつく少女。しかし、店員は説明する。

「この人形は、呪いたい相手の顔を思い浮かべながら、人形の体を傷つけると、その相手の体の同じ部分が、傷つくのです。手を切れば、手に傷が出来、眼を貫けば、相手の目が失明してしまう。本当に恐ろしいお人形なのですよ。ですので、最後にこの人形をご購入されたお客様は10年以上前で……」

 その言葉を聞いて興味を持った少女は店主の言葉を遮り、言ってしまった。

「おもしろそうじゃない。買うわ。おいくらかしら?」

「値段は三万円でございます。しかし、よろしいのですか?……この人形はとても危険ですよ?」

 もったいつけて、忠告する店主はどこか嬉しそうだった。

「人を呪えるなら何でもいいわ。邪魔者を蹴落とせるならね」

そう言って、人形を3万で買ってしまった。その足で店を出る。入ってきたときと同様、ドアの開閉と共に『リンリーン』、と鳴り響いた。

「おもしろそうなもの、手に入れたわ……って、道を聞くの忘れちゃった。……まぁ、適当に歩いてたら、知った道に出るでしょう」

 ……と、道なりに歩いていると、濃い霧に包まれ、気がつくと、家の前だった。

「あれ? こんなに近かったかしら?」

 美香は不思議に思ったが、気にしなかった。部屋に戻ると、彼女はさっそく人形の力を試してみたくなった。机に人形と釘を持って、

「さぁ、この人形が本物か霊感商法の偽物か、みせてもらうわ」

 彼女は大きく宣言した。

 美香は、誰を呪おうかと思っていたが、いつも、いじめてくるグループの主犯格の女の顔を思い浮かべて「死ねー死ねー」と言いながら、人形の横腹に釘を刺した。翌日、学校に行ってみると、学校の中は騒然としていいた。聞くと、自分をいじめていた女生徒が、車にはねられて、おなかに、鉄パイプが刺さってしまって、救急車に運ばれていったらしい。女生徒は入院することになり、美香をいじめていたメンバーは主犯不在で自然解散となった。美香は呪いが本物だと確信し、喜んだ。

 次に、美香はピアノの習い事で自分より成績が良かった女の子に目を付けた。いつも自分より上にいた 彼女を蹴落とそうと思ったのだ。

「あの女、前からいけすかなかったのよ。発表会ももうすぐだし、丁度いいわ。あの女がいなければ、自分はNO1になれるはず……」

 美香にとって、邪魔な存在なのだった。彼女は呪いを実行に移した。最初にやった時のように、呪いたい女の顔を思い浮かべて、人形に今度はカッターナイフで人形の指を傷つけた。すると、ピアノの発表会にはあの成績NO1の女の子は来なかった。その発表会ではもちろん、美香が優勝した。後日、発表会に来なかった女の子に会うと、彼女の指に包帯が巻かれていた。どうやら、深いけがをしてしまい、しばらく指が使えなくなってしまったらしい。

「これは、いよいよ本物の呪いの人形だわ」

 調子に乗った美香は、次に、体育大会で一番活躍しそうな、運動神経の良い女子に目を付けた。今度は人形の足をトンカチで叩いた。すると、翌日に足に包帯を巻き、松葉づえで学校に来た。聞くと、彼女は階段で誰かに押されて、こけて骨折したという。体育大会で、呪いを使った美香が活躍したのはいうまでもない。

 次に美香がターゲットに選んだのはクラスで人望があり、頭脳明晰で美人と評判の女生徒だった。

「私より人気があるなんて生意気よ!! その綺麗な顔を傷つけてあげる!!」

 彼女は呪い人形の顔におもいっきり、針を刺した。その翌日、自分が呪った女生徒が、通り魔に銃で撃たれて、死亡したのだった。学校はまた騒がしくなった。しかし美香は怯えはじめた。

「……そんな……死ぬなんて……少し、顔を傷つけるだけのつもりだったのに……殺すつもりはなかったのよ……」

 しばらくは、罪悪感にさいなまれて、食事もできない美香だったが、罪悪感から逃れるために徐々に自分を正当化し始めた。

「……そうよ、あの女が悪いのよ……私は悪くない!!」

 もう、彼女は呪いによる人殺しすら厭わなくなった。一人の人間を意図せず殺してしまったことで、彼女の感覚がおかしくなっていったのかもしれない。彼女は、なりふり変わらなくなってしまったのだ。

「ふふふっ。呪いなんて科学で証明できない。私が捕まることもない。完全犯罪よ!!」

 暴走した彼女はもう止められない。気に入らない人間、自分よりも目立っている人間を呪った。ほとんどは軽傷ですんだが、中にはあの時の少女のように死んでしまう人間もいた。そんなことを続けて行くと、彼女の周りから人が減って行った。確信がある訳ではなかったが、彼女の身の回りで不審な怪我や事故が多発していたので、周囲の人間は気味悪がったのだ。美香は、そんな彼らを見ても、「自分を理解できない下等な底辺」と見下し、暴走を続けていた。

 しかし、受験シーズンになると美香は悩んだ。受験は全国から同レベルの人間が競い合うことになる。 美香は悩んだ。

「天才の私は難関校に受験しなきゃいけない。でも、ライバルが多すぎる。……そうだ!!皆、呪いましょう!!」

 彼女はとんでもないことに、その時、同じ志望校を受験する人間を綿密に調べ、その過半数を呪ったのだ。試験日当日、受験者が次々と謎の腹痛を訴え、後日受験となり、彼女と当日試験を受けた僅かな者たちは、定員割れで合格できた。彼女は神にでもなったかのように傍若無人となった。


 それからというもの、彼女は自分にとって、邪魔になる人物を片っ端から呪った。ある者は怪我をし、ある者は植物人間に、そしてある者は命を落とした。そうすると、彼女を気味悪がる人間がまた現れ始めた。彼女は変な噂を立てる人間も呪った。いつしか、彼女を批判する人間は居なくなり、良い所に就職し、人生を成功させていたが、彼女の周りから、人が消えていった。皆、彼女に関わって、怪我をするのが怖かったからだ。


 そんなある日、彼女が帰宅すると、自分の上司の顔が思い浮かんだ。

「……あいつ、むかつくわ。殺しちゃいましょうか……ふふふ……」

 美香は学生時代から、そうしていたように、人形を使って呪おうとしたが、人形が見当たらなかった。定位置にあるはずの人形がどこにもなかった。真夜中になっても見つからない。

諦めかけていたその時、ピンポーンとインターホンが鳴った。カメラには誰も映らない。おかしいと思って、扉を開けるとそこにはあの呪い人形がいた。美香の呪いによって、その体はボロボロに傷つけられており、かつての可愛らしい人形の面影はなかった。

「っひ!!」短く悲鳴を上げる美香。その人形は彼女に向かって歩き始めた。手にはカッターナイフ等の 刃物が握られている。

「……こないでよ!!」と美香は怯えてながら叫んだ。

 すると、人形が可愛らしい声で言った。

「……どうして?」

「……気持ち悪いのよ!!」

「ひどーい。私をあんなに可愛がってくれたじゃない。針で頭を刺したり、眼を刺したり、手足をカッターで切ってくれたりしたじゃない。……とっても痛かったけれど、私、愛を感じたの。だからあなたも同じことしてあげるね」

「――!!?」

 人形が女性に飛びかかった。

「キャー!!!!」

 その夜、辺りに女性の悲鳴が木霊した。近くに住む住民によると、1時間くらい悲鳴が聞こえていたらしい。


 翌朝、新聞にはOLが自宅で謎の惨殺死体で見つかったというニュースが載った。辺りは鮮血によって紅く染まり、被害者の女性は手足をもがれたり、目を潰されたり、捜査官が目を覆いたくなるほど、悲惨な現場だったという。


 ――アンティークショップで店主が新聞を読んでいた。あのOL殺人の記事を熟読している。ひと通り目を通すと、店主はため息をついた。

「ほんとうに馬鹿な人だ……昔から言うでしょう、人を呪わば穴二つってね。呪いの力を使えば、どうなるかなんて、容易に想像がつきそうなものですが……。人間とは、愚かなものです」

 そこに、リンリーンとドアの開閉と共に鳴るドアにつけた鈴が鳴った。店主が見ると、あの傷だらけの人形が立っていた。返り血で所々紅い。

「ただいま」

「おかえり。今回もひどくやられたものだね。また、綺麗に直してあげるから」

 そう言って店主は人形を抱えて、店奥に消えた。


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