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元殺し屋の異世界転移  作者: 南無
第一章 異世界で最初の仲間は災厄の魔物でした
8/19

聖騎士の矜持

その状況を見て私は目を疑った

コンクレスタの街が教会によって封鎖されて二週間は経っていたはずなのに冒険者ギルドの中で男の人がのんきに本を読んでいたからだ

反射的に彼へ注意の言葉を投げかける


「そこの貴方!いったい何をしているのですか!?」


そう叫ぶが男はこちらを見ながらひとりで何かを喋っているのでより明確に状況を説明する必要がありそうだ


「何を一人でブツブツ言っているんですか!ここは現在アディスティナ教会によって封鎖されています!すぐに避難して下さい私は今手が空いてないので自分でッ――――」


正体不明の魔族の襲撃によって街の人間はことごとく殺され、生き残った人はアルマドフ枢機卿が直々に避難誘導をしていたのだから余計に驚いて眼前の脅威から気が逸れてしまった

その瞬間を待っていたと言わんばかりにここ三日間戦い続けている黒い重騎士が持つタワーシールドの突進をくらってしまう


衝撃の瞬間に此方もタワーシールドを間に捻じ込み身に纏っている聖鎧に魔力を流しこむ

装着への衝撃を大きく軽減するという単純な能力を持った鎧だがこの鎧のお蔭で何度も命を繋いできた

しかし中身は怪我をしなくても吹き飛ぶものは吹き飛ぶ

黒騎士の尋常ではない力に体は浮き道沿いの家を幾つか貫通して吹き飛び瓦礫の中に埋もれてしまった


(追撃が来たらまずい)


常に最悪の場合を想定して動かなくては聖騎士(パラディン)などやっていられない

負荷が大きいが仕方がないと筋力補強の聖法術(シャーリア)を使う

体に神の奇跡が起きた事を確認すると通常の倍ほどに上がった力で瓦礫をどかしながら慎重に周りの様子を伺うが追撃してくるはずの黒騎士がどこにも見当たらない

三日間戦い続けていた中でようやく出来た決定的な隙だというのに奴は現れない


「っ、まさか」


理由を考えた時に先ほどのギルドの中で本を読んでいた男性が脳裏に浮かび上がる

あの黒騎士がここにいないならどこに行ったのかは単純明快だった

三日間戦い続け遠くに吹き飛んでいったた私より近くに居た民間人を標的に変えたのだろう

そちらの方が近いからという理由で


あの黒騎士の強さを考えていくら冒険者といえど奴に襲われたらどうなるか、それを考えただけで深い自責の念が全身を襲いその場で膝から崩れ落ちそうになる

すると広場の方から大きな衝撃音が聞こえてきた。何度も聞いた黒騎士が全力で突進して壁か何かにあたった音だ


さっきほどの彼は今の音とともに原型すら分からなくなってしまっているだろう

その責任は私にある、あの時注意でなく黒騎士をその場から引き離すようにしていれば。彼を守るように立ち位置を変えれば。そもそも三日も戦い続ける事無く最初に奴と対峙した時に仕留めていれば……

全ては自身の弱さが招いた結果だ、聖騎士(パラディン)という人々を護ると神に誓ったというのにこの様はなんだ


「………未熟ですね」


鎧の中で呟くがそんな弱音を聞いてくれる神などいない

今、自身がなさねばならぬ事はあの黒騎士を一刻も早く仕留める事だ


自分の招いてしまった尊い犠牲を胸に刻みつけながら広場へ戻る

ギルドの窓や扉から土煙が吹き出しドッカンバッカンと硬いものがぶつかる様な音が響いてくる所を見ると黒騎士はまだギルドの中で暴れているようだ


「マネキンでもあったんでしょうか………理性の無い化け物ならあの騒ぎには納得です」


中で物言わぬ人形に攻撃している黒騎士を想像しそんな化け物を倒せない自分が歯痒く思っているとこれまた予想外の出来事が起こった


「っしゃオラッ!!これでどうじゃボケぇ!?」


そんな男の叫び声と共に黒騎士が半壊したギルドの扉から吹き飛ばされて出てきたのだ

目の前で起こっている事を理解できずにいると扉の奥から人影が出てくる

背は少し低いが普通の範囲内だろう、目つきは悪く黒い髪に不思議な赤い瞳を持った軽装の男性だ

よく見ると右腕が雑巾を絞ったようにひしゃげており赤い血が地を濡らしている


先ほど殺されたと思った男性が生きていた事に驚く事も忘れてギルドから飛び出してきた黒騎士に目を向ける

重装で器用に受け身をとった黒騎士はランスとタワーシールドを改めて構え直す

しかし今まで私の攻撃の防いできて傷一つ付かなかったそのタワーシールドがほんの少し凹んでいる事に気が付く


「メンドクセェなお前………お互い決着つかないんだから帰れよ」


男が悪態をつきながらひしゃげた腕に魔力を込めた、すると時間を巻き戻したように腕が再生する

具合を確かめるために手を開いたり閉じたりすると男は黒騎士を見据え、おもむろに再生した右腕を盾のように構える

すると黒騎士は対応するようにランスを地面に突き刺しタワーシールドを構える



二人の間に流れる緊張感を私は知っている

騎士の決闘のそれだ、私はあまり好きではないが聖騎士(パラディン)として生きてきた以上そういった場面にはよく出会ってきたがこの空気を経験したのは一度きりだ

その決闘には普段の自分らしくなく興奮して魅入ったのを覚えている


その時と同じ感覚が私を襲う

実際の所、黒騎士は私には倒せない。それはこの三日間で嫌というほどよくわかった

守りに特化した自分が同じく守りに特化した相手と戦うと大体こうなる

だから攻撃が得意な同僚とチームを組むこともあるが今回はその余裕が無かった


しかし目の前の男は軽装で武器も構えずに黒騎士と相対している

彼ならば奴を倒してくれるかもしれない。そんな期待の眼差しを送っている事に己の都合のいい考えに罪悪感を感じ俯いた瞬間二人の膠着は解かれる



魔法がある世界での宗教の立ち位置ってどうなんでしょう

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