異世界でする事は
白い光に包まれて視界が真っ白になったになったかと思うと抱き着いていたトバリの感触がだんだんと無くなっていく
トバリがいなくなる。その感覚に恐怖を感じた瞬間視界を覆っていた光が収まった
広い空間に規則正しく並んだ木の長椅子、上の方には大きなステンドグラスの窓が並んでおり太陽の光を様々な色に変えている
そして背後には大きな両開きの扉がありそこが出入り口の様だ
その反対には祭壇があり壁には大きな絵画が一枚飾ってある、恐らく教会か何かの建物中に転移したようだ
「トバリ……だよな」
驚いたことにその大きな絵画には黒い布を踏みつけ光り輝く門を開けているトバリの姿が描かれていた
『ふむ、どうやらこちらに来た者達が信仰の対象にしたのは妾だったか』
背後からトバリの声が聞こえた
振り向くとそこには半透明になった全裸のトバリが腕を組んで興味深そうにさっきの絵を眺めている
『どうやら上手く転移は出来たようじゃがやはり予想通り妾はこうなってしまったか』
俺の視線に気が付いたのかうっすらと向こう側が見える存在になった自身に視線を向ける
「いったいどういう事だ?」
『あの世界で妾が最初に行ったであろう、あくまで妾は闇の帳と共にお主の中に入り込んだ存在なのだ。言わばお主に憑りついた幽霊に近い』
そんな事を言ってトバリは腕を軽く振る
そうすると全裸だったトバリをいつもの白いドレスが包み込んだ
「あの世界でお前は肉体を持ってたよな」
何度も抱き着いてきたのだ、確かに体温を感じたし心臓も動いていた
『あの世界には闇があったじゃろ? お主が最初に気を失っている間に制御を離れていた闇を固めて肉体を作ったのじゃ、最初に闇の帳が果ての狼にした事の応用じゃが上手くいって妾は肉体を手に入れた』
「だったら、なおさらその体を引き継がなかったのはおかしいだろ」
『こちらの世界にはお主の体だけしか転移させれなかったのは妾の作った肉体はあくまであの世界で闇の帳が残した闇を使ったからじゃろうな、お主の中にある闇の帳には妾は手を出せぬから必然的にあの肉体を失ったのじゃろうて』
何でもないようにトバリはそう話す、しかし彼女の性格を知る限りトバリ自身が一番辛いはずなのだ
けれどなぜそんなに重要なことを早く話してくれなかったのかと少し腹が立つ
「じゃあ、どうするんだよ。一緒に旅をしたいってしつこかったのはお前だろ」
『おや? なんじゃ、寂しいのか? お主にしては珍しいが凄く嬉しいぞ』
トバリはそんな風に茶化す
どうやらまともに取り合う気はないらしい
「いつかお前の体はどうにかするからな」
『うむ、楽しみにしておるぞ』
これ以上追及すると喧嘩になりそうなので渋々会話の方向を曲げる
「んで、トバリが信仰の対象って冗談だろ?」
『素の妾の状態を知る者は3人しかおらぬからの、あの状況ならばこうなるのも分からなくもないが……というかホムラそれ喧嘩売っているのか?』
いつも通りの掛け合いが出来てきたのでお互い今の環境には一旦の整理はついたようだ
ホムラが大きな門を開けようとするとトバリが歩いていないのに少し宙を浮きながら追従するように動いた
『ほほう、これは中々便利じゃな。お主を中心に動ける範囲が決まっているようじゃ。範囲を出ると勝手にお主について行くのか』
新しい発見にトバリははしゃぐが、ホムラはトイレとかどうしよう とこれからの生活に一抹の不安を覚えるがそんな不安を追い払うべく両開きの扉を開く為に急ぎ足で扉を向かい勢いよく扉を開く
予想通り今までいた場所は街の高台にある教会だった、視界は開けており辺りを一望できる
大きすぎないが小さすぎず大きな建物が多い所を見るとよく発展した街の様だ各地で煙が上がっていなければそれ以上の感想が出たかもしれないが目の前の階段で血の海を作っている死体にすぐに視線を奪われてしまった
中世の騎士のような恰好をした死体がざっと見て二十、どの死体も体に大きな穴が開いている
壁に叩きつけられて潰れている者もいるが大半は巨大な槍か何かに刺し貫かれた様な死に様だ
「なんで俺が行く先々で最初に見る物は死体なんだ」
ホムラはなかば呆れながら死体に近づき、トバリと話していた転移後の計画が思いのほか簡単にいきそうだと死体を物色し始める
『一切の躊躇なくまずソレを行うのは流石元の世界で人を殺していただけはあるの』
「まあな、服装がボロボロのジーパンとTシャツなのはマズイし」
『死体を漁る方に対しての言葉だったのじゃったが……』
そんな会話をしているうちにちょうどいい死体を発見する
斥候兵の様な装備をした死体だ、皮で出来た比較的軽そうな装備を中心としているが選んだ一番の理由は鎧に穴が開いていないところだ
頭を踏み潰されたようで血もそこまで付いておらず理想的だ
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鎧の着方はトバリに教えてもらい何とか着る事は出来た
少しサイズが小さいが大きいよりはマシだろう
今二人が居るのは教会から続いていた階段を下りて一番近い場所に見えた門へ向かって伸びている広い道だ
街の至る所に死体が転がっている時点でこの街に長居はしない方がいいと結論付けた二人は足早に進んでいる
「にしても生きてるやつが居ないな、戦争か何かだと思ったんだけど」
『賊が攻めるにはこの街は防壁もしっかりしているし、倒れている兵士たちの装備を見る分にも練度は高いはずじゃ……少なくとも面倒な状態なのは確かじゃろう』
門に向かいながらも裕福そうな死体は漁って小銭や宝飾品は頂いていると閉じられている大きな門が見える広場に出た
どうやってこの門を開けるかを考えている所でトバリに呼び止められる
『この建物は覗いておいた方がいいじゃろう、後々役に立つはずじゃ』
そう言ってトバリは大きな建物を指さした
「なんなんだこれ? デカい看板掲げてるけど文字読めないんだよ」
『ギルドじゃ、妾の知っている文字だけで判断すればな。中には地図ぐらいあるじゃろ』
地図があるだけでもこれからの身の振り方が大分変わるはず
そう思ったのでトバリの勧め通りギルドの半開きの扉を潜り家探しを始めると地図はすぐに見つかった
その他にも先ほどかっぱらった軽鎧よりも質の良い鎧や使い勝手よさそうなナイフにバック、トバリ曰く解毒剤らしい液体の入った瓶などかなりの儲けものだ
こんな事をしていても一度も襲われ無かったのでトバリがついでに知識も少し頂こうと提案したのでトバリが選んだ本をホムラがペーシを捲って読んでいたが
「そこの貴方!いったい何をしているのですか!?」
頭まですっぽりと覆う白い重鎧に身を包み、これもまた真っ白なタワーシールドと大きなランスを持っている騎士が扉の外から此方に向かって叫んでいた
完全に火事場泥棒をしている場面を見つかった形になるがその大きなランスが目に入った時点でホムラとトバリは臨戦態勢に入っていた
「あれ、死体に空いてた穴と同じぐらいの大きさだよな」
『それにあの重装備ならば人間の頭など簡単に踏みつぶせる上にタワーシールドで壁に叩きつけることも容易じゃろうな』
「何を一人でブツブツ言っているんですか!ここは現在アディスティナ教会によって封鎖されています!すぐに避難して下さい、私は今手が空いてないので自分でッ――――」
そう白騎士が捲し立てていた時横から同じく重鎧とタワーシールドにランスを装備した黒い重騎士が白騎士にタックルを当てて吹き飛ばした
その黒い鎧やランスには乾いて黒っぽくなった返り血と思しき物がベッタリと付いている
『まずいぞホムラ、あの黒いの此方に目標を変えてきておる』
白騎士を吹き飛ばした黒騎士はゆっくりとギルドのカウンターで本を捲っていたホムラを見据える
「流石にあんなのに勝てる気がしないんだけど」
そうホムラが呟いた瞬間、黒騎士が自身よりも小さなギルドの入り口破壊しながらタワーシールドを構えて突っ込んできた
やっとそれっぽくなってきた………かな?