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元殺し屋の異世界転移  作者: 南無
第一章 異世界で最初の仲間は災厄の魔物でした
6/19

最初の一歩

俺の事を家族と呼んでくれた半神ポンコツ皇女の手を取ってからどれだけの月日がたったのか太陽も月もないこの世界ではそれを確かめる術は無い


「いいぞ、いいぞ!愛し子よ闇の帳はお主とは相性が悪いようじゃが耐久力の底上げにはなっているの」


現在火山の頂上から飛び降りてマグマの中を泳がされています


鍛錬が始まって最初は魔法の使い方のレクチャーだったが俺には全く適性がなかった

できても精々肉体強化や補助といった内面に働くものばかりだった

皇女曰く外に魔力を出すのが苦手な体質らしい


「妾が知る中でも戦神や闘神連中もお主と同じだったから安心せい」


目が泳ぎまくっていたが信じるしかない

しかしこの皇女、魔法関連は強いらしいが肉体関連はてんで知識がなかった

仕方がないので皇女から異世界へのGOサインが出るまで筋トレの様な事をしようと思ったがどうせなら魔力を使いながら鍛えろと言われたので肉体の防御と耐久力を上げる魔法を使いながら灼熱のマグマと極寒の湖で大体1キロ泳がされている


一度魔力が切れて死にかけたがその度に皇女が助けてくれるので死ぬ事は無いのだろう

あの過保護な皇女がこんなことさせるのはひとえに俺が異世界で殺されることを防ぐためだと分かっていても少々粘つく溶岩の中を泳いでいると軽く憎しみがこみ上げてくるが我慢だ



                #



皇女は興味深そうに溶岩の中をバタフライいうらしい奇妙な泳ぎ方をしている男を見つめる

魔力が切れそうになったら助けるのが自分の仕事だがその仕事を忘れそうになるほど珍しい事をあの愛し子はしているのだ


体外での魔力操作が出来ない者は少ないが一定数存在する、そういった者達は揃って魔力を使った肉体強化が得意なのだが

愛し子の場合は全く別だ

そもそもいくら肉体強化が使えてもマグマの中で泳ぐなんてあり得ない


では何故目の前でそれが行われているのか、その正体を見極める為にここ数日は湖と溶岩の中を交互に泳がせている

そしてこの前ヤツが寝ている間に勝手に試した実験によってある考えは確信へ変わったのだった


愛し子は少なくともそう簡単には死ななくなった

ならばそろそろかもしれぬ


そう考えながらマグマの中で溺れ始めた大切な男を引き上げ始めた



          #



異世界へ行く

マグマから引き上げられ固まった溶岩を引っぺがしていると皇女がそう言ってきた


「やっとか、いったいどれだけの間こんな事してたのか分からんけどやっと終わるのか」

「時間的には約一年ぐらいかの」


はがれにくくなった溶岩は皇女が出すバーナーの様な灼熱の炎で少し溶かして剥がす


「一年ってその間俺体しか鍛えてないんだけど大丈夫なのかよ」

「魔法が使えぬのだから妾もどうしたらいいのか分からなくての取りあえず耐久力だけでも上げられるだけ上げていこうと思ったのじゃ」


そう皇女は告げるが内心は違った

そもそも肉体強化の魔法は半年ほど前に極みに達しているのだ

問題なのは現在も灼熱の炎で体を炙っているのに少しも熱そうにもしない所だ


「ところで愛し子よお主自身の力をどこまで自覚している?」

「あ?半神が出すバーナーで体炙ってもが何ともないんだから肉体強化は結構いい線いってるんじゃないのか」

「肉体強化は申し分ないのじゃが溶岩の中を泳げるのも鋼断ちと言われる鍛冶の神が使う業をその

身に浴びても問題ない理由はどうやら別にあるようなんじゃ」


どうやら今まで気軽に喰らっていたこのバーナー相当な代物だったらしい事に若干の驚きを感じながら

この皇女の実力がいかほどなのか興味がわいてきたがそれはまた今度聞いてみよう

まずは今判明したマグマを泳げる理由の方が気なった


「じゃあ、なんで俺はそんな代物喰らって問題ないんだよ」

「名前を使ってお主の体が作り直された時にどうやら別の力も混ぜ込まれたようなのじゃ」


体に異物が混じっている、そんな事をを皇女は話した

今までこんな環境に身を置いてきて問題があるなら既に体に異変が起きているだろうから問題は無いとは思うが今さらになって普通の肉体ではないと言われるとどうも実感がわかなかった


「いかような原理でそんなことがなせるのか、何が入り込んだかは分からぬがどうやらお主は炎に大きな耐性があるようじゃ」

「なんでそんな事分かるんだよ」

「マグマや鋼断ちは問題無い様だがこの前お主が寝ている間に色々実験してみての、熱や直接的な炎は一切を受け付けなかったが雷、冷気などその他は普通にその身を傷つけたのじゃ」


この皇女中々ブッ飛んでいる

寝ている間にされていた事を考えるのは恐ろしすぎるのでやめておいて抗議だけはしておこうと軽く皇女を睨む


「そんな実験するなら直接言えよつーかそんな事されても起きなかった俺も怖えよ」

「無意識下でもその力が起こるかも調べたかったのでな、それに冷気や雷を試しても起きなかったのはお主がそれを害と思わぬほどの肉体強化が出来ているという何よりの証拠じゃ。妾は嬉しかったぞ」



我が子の成長を喜ぶ母親の様に満面の笑顔で頭を撫でられるが謝らないあたりがこの皇女の性格を表している


「ついた傷もものの数分で完治したし実害はないのだからそうむくれるでない抱きしめたくなるではないか」

「はあ、もういいわこの一年間でお前の性格はよく分かったし。慣れた」


この皇女のポンコツぶりはよく理解した

同じことの繰り返しに近いこの一年間をこんなに楽しそうに過ごしている時点でどれだけ人恋しかったのかは流石に分かる

だからこちらも突発的に起こる皇女様のスキンシップをつっぱねることが出来ずにいたのだ


皇女に事前に見つけていたという世界の綻びへ連れていかれる

そこはこの世界で俺が倒れていた場所だった


「さてここから先は一方通行じゃ、もう後戻りはできない」


皇女は石を円を描くように二人を中心にして並べて指をパチンと鳴らした

すると円を描くように並べられた石の内側が白く光り輝く。最初に白い空間で俺以外の生徒たちが包まれていった白い魔法陣と同じ輝きだ


「そこで最後に妾から頼みがあるのじゃ愛し子よ」

「なんだよ急に改まって」


皇女は足元を見ながらモジモジと体をくねらせる


「お互いに名前を付け合わぬか?」


皇女は顔を赤くしてそんな事を言う

だがいつまでも「お前」「ポンコツ皇女」なんて呼ぶのも面倒だし

俺自身に至っては名前も無い

皇女様は愛し子なんて呼ぶから今まで問題なく過ごしてきたがこれから行く世界では名前はきっと必要になるだろう

だったら、どうせならこの半神ポンコツ皇女に名付けられるのも悪くない


「ああ、いいなそれ。俺に名付けのセンスあるとは思えないけど気に入らなかったら遠慮なく言ってくれよ」

「そ、そうか……そうか、そうか。うむ、ならば妾に対しても気に入らなければ遠慮なく言うがよい」


嬉しそうに笑いながらそんな事を言うがこのポンコツ気にいらないと言ったらたぶん泣く

変な名前でもこの皇女様が泣かないならいいかと決めてお互いに名前を考える


「実はな!妾はもうすでに半月ほど前から愛し子の名を考えておったのだ」


どうりで元の世界で主流な名前だとか偉大な人物の名前だとか言葉の意味とか聞きいたり

最近少し遠巻きからこちらを見てブツブツなにか一人で喋っていたりしたわけだ


「あ、あのな!……その名前はな……ホムラはどうじゃ?」


よっぽどその名前が気に入っているのか続けざまに皇女は命名の理由を説明する


「愛し子よ、お主は闇に閉ざされ孤独であり続けた妾の前に現れた一筋の光なのだ。

 いや、妾にとっては光以上。孤独によって凍てしまった妾の心を暖かくさせる灯……故に(ホムラ)

「なんで偶然現れただけの俺にそこまで気にかけるんだ、もっといい奴ならいるだろ」


つい言葉に出してしまった。今まで疑問に思っていたがこの皇女様と一緒にいたいと思っている自分自身が口に出すのを今まで避けていたが彼女の言葉についに口が滑ってしまった

すると皇女は慈愛に満ちた目で俺を見つめる、その眼が意外だった。もっと違う目で見られると思ったからだ


「いつかはその疑問を口にすると思っておった。じゃから答えはもう決めておったのじゃ

 お主なんじゃ、孤独に震え待っていた、幾時も幾星霜も待ち続けた、そして現れたのはお主なんじゃ よ愛し子よ」


皇女はいつもとは違う包み込むような優しい抱擁をしながら耳元で囁く


「お主しが妾の孤独を埋めてくれたんじゃよ、普通の人間ではなく異なる世界からの異邦人だからこそ孤独に死ぬのでは無くお主と共に今までの孤独をを埋められるようになった」


その言葉には若干の震えが混じっていた、恐らくは彼女は半泣きでこの言葉を紡いだのだろう


それに引き換え俺は何も考えていない、そんな自分が情けなくて仕方がない

そもそも他人に名前を付けるなんて初めてだ。彼女に似合うような素敵な名前を思いつく自信はこれっぽちもない


何も思いつかずに空を見上げる、朝焼けの様にも夕焼けのようにも見える不思議な空

闇の帳を制御した事によって世界にほんの僅かに残った光がアレだったらしい

まるで赤い空に黒く薄いカーテンを引いたかのような


そこでふとある言葉が頭に浮かんだ……


「―――――トバリ」


そう呟いた瞬間ハッっとして身を放して皇女の顔を見る

彼女は孤独に閉じ込めた元凶の名前の一つなことも忘れて無意識で呟いたにせよ彼女を傷つけたと思った


しかし彼女は嬉しそうに笑っていた

目尻に涙を浮かべながら笑っている


「トバリ………お主の口から聞くだけでこのように美しい言葉だとは気づかぬかった」


皇女様――――トバリはもう一度抱き着いてくる


「よい、よい名だ」


そう言いながらトバリはもう一度指を鳴らした


眩い閃光に二人は包まれ闇に飲まれた世界からかき消えた


そうしてホムラとトバリは異世界への一歩を踏み出した

名前を考えるのが一番難しいですね

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