表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元殺し屋の異世界転移  作者: 南無
第一章 異世界で最初の仲間は災厄の魔物でした
2/19

冷たい湖

サブタイトルはけっこう適当

暑い、寝苦しい、汗が気持ち悪い


俺は暑さに苦しみ目を覚ました


「今度はどこだよ」


気を失っていたがまたもや外気温の高さのせいで起こされる

寝起きが悪い性分のせいかめぐるめく状況が変わるせいか若干の苛立ちを抱えて周りを見渡す


赤い岩場の上に寝転んでいたらしい、どうりで体の節々が痛むわけだ

頭上に太陽はなく夕焼けなのか朝焼けなのか分からない不思議な色の空が広がっていいる

赤い岩山の頂上からは黒い煙が上っており火山の中腹でぶっ倒れていたいようだ


文化祭中の学校の門から白い空間そして火山活動真っ最中の山に放り出されて半ば思考を放棄し始めていたとき比較的近くから女の高い叫び声が聞こえた


なんにせよ状況の把握が一番大事なこの時に自分以外の人間が近くに居るというのは助かった

叫び声を上げている時点で碌な状態ではないだろうが贅沢は言えない

足早に叫び声の発生源へ向かう


5分ほど走ると女の声と共に犬の鳴き声のようなものも聞こえてきた

とはいっても飼い犬の様な可愛い声でなく野犬のそれに近い唸り声だ


その音に眉を顰め大きな岩の裏からそっと顔を半分だけ出して場をうかがう

そして信じられない光景が目に入った


女の正体は最後に黒い魔法陣に包まれていた女子学生だ

だがそんな事は頭に入ってこなかった

その女子学生を襲っているのは一見すると赤い毛並みの狼だ

だがその口は溶鉱炉の様に光り涎の代わりに溶けた鉄の様なものが地面へ滴っている

地面に落ちたオレンジ色の涎は少しすると輝きを失い冷えて固まる


5匹いる狼の内一番大きな狼が女子学生の足に噛みついた

するとこちらまでジュゥと肉の焼ける音が聞こえてきたと同時に肉を噛み切るようには思えないほどあっさりと彼女の足を食い千切った


それを皮切りに残りの狼が彼女へ殺到する

何か喚いていたがその声がこちらに届く前に頭を丸齧りにされてしまった


そっと岩場の陰に入り深呼吸をする

狼たちはこちらに気が付いていない風下のようだ


足音に細心の注意を払いながらゆっくりとその場を離れる

ゆっくり、静かに、息を殺して………


だがそうはいかない。

そんな声が聞こえたような気がした


岩場のすぐ脇に先の女学生の腕が飛んできた

どうやら餌の取り合いをしていた狼たちが取り合いの弾みでこちらへ飛ばしたらいい


マズイそう思った瞬間腕に狼が飛びつく

そしてこちらに気が付いた様だ


目は爛爛と光り新しい獲物を見つけた事に喜んでいるのが見て取れる

その狼が仲間に知らせるために大きく遠吠え上げる

その時には俺はもう走り出していた


何度も躓き、時には転がるようにして山を駆け下りる

遠吠えのせいで出遅れたのにすでに直ぐ後ろに5匹の狼が追従している

何度か足に噛みつかれそうになりながら必死で赤い岩場を走り続けるがその時は来てしまった


狼が足に噛みつこうとして大きく跳躍するがタイミングはズレておりひたすら動かしていた足の間に滑り込む

そのあとは簡単だ、狼を両足で挟んで転んだ

元々急な下り坂だったので一度転んでしまえば体勢を立て直すのは不可能だ


ゴロゴロと転がり続けて急に体が浮いたような気がした

自分に何が起こったのか理解したのは眼下を見た瞬間だ

宙に浮いているどうやら崖から飛び出したらしい

崖の下には綺麗な森と大きな湖が広がっている


足で挟み込み一緒に転がっていた狼もあんぐりとそのオレンジ色に輝く口を広げて同じ光景を見ている

そして内臓が逆さになるかのような不快感と共に落下が始まる


死を覚悟して目をつぶり衝撃に備えるが体を襲ったのは地面に叩きつけられる痛みでも木の先端に突き刺さる痛みもなく感じたのは冷たさだ

驚きと共に目を開くとそこは水中だった、碌に呼吸も整えていなかったのですぐに苦しくなり酸素を求めて水面へ向かう


真冬の水道よりも冷たい水から顔を出し口内や鼻に入った水を吐き出し大きく息を吸う

隣からもざぱんと先ほどの狼が顔を出し必死に呼吸している

この普通でない湖の冷たさに強張った体を浮かせるに必死でお互いには目もくれずに一番近い岸へ何とか泳ぎ出す



        #



岸に上がり荒い呼吸を整える

何とか溺死する前に岸にたどり着けたのは奇跡に近かった


「はぁ……はぁッ……ごほッ………クソが」


何とか喉の奥まで入り込んだ冷水を吐き出し言葉を出す

隣ではぐったりとして動かず煌々と光っていた口は木炭が赤く光っている程度までになっている狼がいるがこの調子ならとりあえず放っておいても問題ないだろう


実際、溺死しなかったにせよ自分自身もこの狼と変わらず凍え死にそうだ

周りを見渡しても大きな湖を囲むように森が広がっており背後には落ちてきたであろう切り立った崖があるだけだ


火を起こす様な物も無ければ枯れ枝一本見つからない

弱々しく息をしている狼の口で暖をとろうかと考えて始めていた時にゾクリと背筋が怖気立った

寒さからでは無い


夜にふと窓の外を見たら誰かがこちらを見ていて目が合ったとか

夜中に何となく目が覚めたら枕元に誰かの足が見えたとか

撮影したビデオに謎の笑い声が入っていたとか

そんなホラー映像を見た時の様な何とも言い難い感覚


ナニかがこちらをじっと見つめている

狼もそれに気が付いたのか何とか立ち上がろうと体を動かし始めている


一刻も早くこの場から立ち去りたい気持ちが膨れ上がり危険と分かっていても森の中へ入ろうと思い一歩踏み出した時だった


「なんじゃ、逃げる事はなかろう」


女の声がすぐ後ろから聞こえる

ゆっくりと振り返る、こんな動作したらその後には殺されるのがホラー映画のお約束だがそんな事よりあんな感覚を感じさせる存在がまともな形をしているのかの方が気になったからだ

恐怖を必死で抑えながら振り向くと呼吸をするのも忘れる程の美女がそこに立っていた


黒よりも深く光を吸収してるのかと思うほどの黒く長い髪

目は(あか)(あか)(あか)い、この世の全ての赤い色を混ぜたような不思議な色の瞳

白いドレスともワンピースともとれる洋服に身を包み胸は大きすぎない程の乳房が二つ、黄金比というのだろうかこの大きさこそがこの女性にはもっとも相応しいと思えるそんな大きさ

太陽の存在など知らずに生きてきたかのように肌は透き通るほど白い


「ん? どうした人の子よ妾に会いたくてこの地まで来たのであろう」


その言葉にハッと意識を引き戻す


「い、いや、そうじゃない」


ぎこちなく声を絞り出す

この女性と言葉を交わすのすらおこがましいと感じてしまうほどの格の違いを感じる


「ふむ、でなければ何故にこの地へ来たのだ。妾がいること以外にこの地には価値ある物などないぞ」


少しムッとして聞き返してきたが怒りよりも何故俺がここに居るのかが気になる様子だ


「元々は別の場所に居たんだ、そしたら急に白い空間に移動したと思ったら魔法陣みたいな物に囲まれて気を失った、そして目を覚ますとあの山の中腹で目を覚ましたんだ」


色々端折ったが大まかに状況を説明する

その言葉を聞いて女性は顎に手をあて何かを思案するように俺を眺める


「ふむふむ、ここに来たのは本意では無いか………時にお主もしや名のある魔法使いか何かか?」

「は?」


この女性は何と言ったのか

いやまあ魔法陣に囲まれて口が溶鉱炉の狼を見た時点で何となく普通の場所では無いとは思っていたがその言葉でその考えは確信へ変わった


「俺は恐らく此処とは別の場所。いや世界すら違うかもしれないが少なくとも魔法が存在しない場所で生きていた」


今度はこちらの言葉に驚いたように女性は目を見開く


「それはまた信じがたい………とは妾に限っては言えぬな」

「それってどういう意味だ?」


タメ口でいいのか迷ったが下手に舐められてるよりマシだろう

最悪、向こうが嫌がったら本気で謝って敬語を使おう


闇の帳(やみのとばり ) は異なる世界から来たのだからその保持者たる妾が知っているのは自然じゃろうて」

「闇の帳?」

「ああ、すまぬ。そもそも世界が違うのだから全て一から教えねばならぬか」


黒髪の女性はふむ と一呼吸置いて語りだした


「幾星霜も昔、古の神々が人と共に在った時の話じゃ――――――――」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ