冒険者試験 ~迫りくる死~
「俺が意地でも食い止める、だから後ろの二体だけに集中しろ。最悪逃げて構わねぇから死ぬな」
ホムラさんの僕たちを気遣う言葉に嬉しさと共に不甲斐なさがこみ上げる
恐らくホムラさん一人であればオーガ達から逃げる事は容易いだろうしかし僕たちの為に残って戦ってくれているそれも七体の内の五体の相手を押し付けて
「分かりました、なるべく早く倒すので踏ん張ってください」
だからこそ僕は背後で凄まじい闘気を撒き散らすホムラさんに背中を合わせてこう答えた
彼のオーガに囲まれても勝気な所を真似してみたが上手くいっただろうか?
最初に感じた絶望感を紛らわし背後に回っていたオーガ二体を見据え盾と剣を構える。ニッシュも両手剣を握り準備は出来た居る様だ
僕がこのチームのリーダーだ、ホムラさんの背中から勇気を貰い一気に加速する
「ニッシュ達は左だ右は僕が相手をする!」
右側に居たオーガに接近し振り上げられた棍棒を見つめる
オーガが僕の頭を狙った振り下ろしに合わせて盾を斜めに構えていなす
盾の表面に打ち付けられている金属性のプレートの表面が削れ腕は痺れるがどうにかオーガの初撃は防ぐことが出来た
頬を冷や汗が垂れるが伸びきっているオーガの腕を右手の剣で斬りつける
オーガの対処は攻撃は基本的にいなすか回避し隙の大きい攻撃直後にダメージを与えるのが基本だ
冒険者になる為にそして仲間の命を預かるリーダーとして一通りの魔物・魔獣の勉強をしていて良かったと今までの自分を褒めたいくらいだ
オーガは斬りつけられた箇所から血を流しながら棍棒を握り直し距離をとる
斬り込みは浅かったようだが戦いの主導権は握ることが出来た
ニッシュ達の戦いはどうかと視線だけを向けた
ニッシュは盾を持っていないため基本は回避をしている
それでも回避を出来ない攻撃はタルバルがかく乱をしてその攻撃を不発に持って行っている
見事な連携でオーガを封じ込めてそのボサボサの硬い毛に覆われた体の至る所から血を滲ませている
あっちも致命傷には至らないが主導権は握っている、これなら勝てる
「メリア、まずはニッシュたちのオーガをお願い」
「うん! ニッシュ!タルバル! い~く~わ~よ~」
メリアに指示を送ると待ってましたと言わんばかりに今まで見た来た中でも一際大きな火球を作り出す
今にもその場で爆発ししそうなほどの熱量にタルバルは慌ててポーチの中に常備している油瓶をオーガに投げつける
小気味良いガラスの割れる音と共に中に詰まっていた油がオーガを黒く染めた
ニッシュからタルバルへ向いたオーガの注意を見逃さずニッシュがオーガの足に剣を突き刺して固定するそして二人は剣はそのままに一気にその場から離れる
「今だッ! メリア!!」
タルバルがニッシュと一緒に自身の外套に顔を覆いながら叫んだ
その言葉を聞きいれたメリアが渾身の火炎弾をオーガへ叩き込む
迫る火炎弾にオーガはその場から離れようとするが足に突き刺さったニッシュの剣がそれを邪魔する
閃光と爆音
耳がキーンと耳鳴りを響かせとっさに瞑った目を少しずつ開く
そこには仁王立ちしたまま動かないオーガの燃え盛る死体が松明のように立っていた
「相変わらず後先考えないな! こっちのオーガはどうするんだ」
ナッシュは一撃に全てをかけたメリアがフラフラとへたり込むのを見ながら眼前のオーガに意識を向け直す
オーガも仲間の黒焦げた姿に慄き固まっていたがメリアがへたり込んだ事で火炎弾がもう来ないと判断したのか目に闘志が宿る
それに違和感を覚えた戦いの主導権を握っていたはずでメリアが行動不能になってっも数の有利は揺らがずタルバルが来て実質不利な状況に拍車がかかっただけだ
なのにオーガの闘志が蘇る、理由をいくつか考えていると寒気を感じた
それは最悪の可能性、あり得ないと考えるが目で見なくては判断できない
僕はタルバルに警戒を任せてゆっくりと顔を半分だけ背後で戦っているはずのホムラさんへ向ける
そこにはただ無慈悲な事実が転がっていた
地面に倒れ伏しているホムラさん
それを手に持った棍棒で二体のオーガが殴り続けている
他の三体のオーガのうち二体は目を潰され足の健を切られて身動きが取れない様だ
残りの一体はホムラさんを殴るオーガの後ろで顔面が爆発したかのようにグシャグシャになって死んでいた
一体を倒した上に二体の無力化を出来た時点で十分な戦果だむしろ援護が遅れた僕たちに否があるだろう
しかし心ではこの状況に文句と責任を擦り付ける言葉が浮かぶだけだった
そんな自分に嫌悪感を抱き負のスパイラルから何とか抜け出すことが出来た
「どうにか、どうにかしなきゃ。最悪一人でも逃がさなくちゃ」
今、動けるオーガは三体、メリアを捨てていけば残りのメンバーは逃げ切れるだろう
しかも後ろに二体は何故か死んだはずのホムラさんの死体を殴り続けているチャンスは今しかない
初めてのリーダーとしての決断がこんなものになるなんて考えもしなかった
「タルバル、ニッシュと二人でメリアを連れて逃げろ殿は僕がやる」
僕は馬鹿だ、だけど可能性は低くても少しでも皆が助かる道を選びたい
「何を言ってんだ兄さん!?」
「ニッシュ、メリアを捨てて逃げろと言ってお前は絶対に頷かないだろ?」
「当り前だろ! だけど、だからって!」
「これは命のやり取りなんだ。皆が助かる道は限りなく低い」
ニッシュが顔を歪めて僕とメリアを交互に見る、我が弟ながら分かりやすい奴だ
「………行くんだ、みんなを頼むぞニッシュ」
「兄さんこそ絶対に返って来いよ」
ニッシュはメリアを抱えてタルバルと共に黒焦げたオーガの死体の横を抜けて森へ消えて行く
他のオーガはそれを追おうとはしない、格下だと思って襲った相手に逆にやられたせいだろう正面のオーガに限っては僕しか見ていない
「ホムラさん、すみませんでした。僕たちがもっと早く―――――」
背中を預けて頼りすぎてしまったが故の犠牲を悔やむがオーガはそんな暇すら与えてくれない
最初のようにオーガは大きく踏み出して棍棒を大きく振り上げる
それは見た攻撃だ、盾を斜めに構えて対応する
「がッ!」
腹部に凄まじい衝撃が与えられ僕は数メートル後ろに吹っ飛んだ
蹴られた事に気がつくまでどれだけの時間を要したのか、強烈な吐き気と痛みに立つことすらままならない
横にはホムラさんを囲んでいるオーガ、正面からはゆっくりと先ほど蹴られたオーガが歩いてくる
僕はここで死ぬのか
ニッシュとはあんな別れ方したくなかったな
タルバルにはニッシュの案外感情的な所を注意していて欲しいって言い損ねたし
メリアが二人を支えてくれるだろうから大丈夫だとは思うけど、けれど―――――
オーガの足が僕の頭を踏みつぶそうとするのがやけにゆっくりに感じる
走馬燈は見なかったけれど思い残したことはいくらでも湧いて出てくる
「死に……たく、な………い………」
遅れました
すみませぬすみませぬ