冒険者試験 ~出会い~
殺しの依頼があったあの日から五日が過ぎていた
アルマドフとはあれ以来顔を合わせていないがクインが魔王討伐の作戦予定は想定外の事態により未だ結構予定はついてない
仕方がないのでホムラはちょうど一週間経ったので冒険者試験を受けることにしたのだが………
「このところずっと付け回されてるな、そのくせ五日間何もしてこないし本当なんなんだ」
『最初は単に監視かと思ったが居ないときは居ないし一目惚れでもされたのではないか』
黒い仮面に外套を常に付けている変人の上に魔物とのハーフに一目惚れされるなんて事があるのだろうか
たしかにスタイルはいいのだろう、外套に包まれているというのに女と分かるほどの主張の激しい胸の割に足は細い
「ストーカー退治はしたことあるがまさか自分がストーカー被害にあうとは」
『お、いなくなったな。この時間だと昼食でも取りに行ったのかのう』
それにしては少し時間が早いが黒仮面が居なくなった隙を生かさない手は無い
ホムラは急いで冒険者ギルドへ向かう
ギルドの受付にはこの前の女性の受付係が立っていた
ギルド内にある酒場では何やら宴の真っ最中のようで斧を背負った大男が他の冒険者に酒を奢っている
ホムラはそんな騒ぎを一瞥して受付嬢に声をかけた
「仮冒険者なんだけど、試験って受けれます?」
「あ、ホムラさん。今日でちょうど一週間なので来るんじゃないかと思っていたんですよ」
どうやらキッチリ一週間で来る奴は多いらしい
受付嬢はお辞儀を一つすると書類とペンを差し出した
「この契約書を読んで問題がなければお名前と了承の所にマルを書いてください」
『うむ、特に問題は無いじゃろう』
トバリに契約内容を確認してもらい契約書に諸々を書き込む
最後に一番下に受付嬢の名前を書いて終了の様だ
すると受付嬢が背中に背負えるバックを手渡す
「こちらが今回の試験で使用するサバイバルアイテムです、中に地図が入っていますのでそれを確認して目標地点に向かいそこにある貴方の冒険者タグを回収して四日以内に帰ってきてください」
「要はお使いか、四日以内ってのはそれより早くても構わないんだろ?」
「はい、問題ないのですが。不眠不休で進んでも丸一日掛かるので急ぎ過ぎない事をお勧めします。魔獣との接触の可能性もゼロではありませんし」
バックを受け取りホムラはざっと中身を確認する
地図に火打石、ナイフはもちろん縄や小さな鍋など一通りのサバイバルアイテムは入っていた
不備がないか疑ったことに何か言われるかと思ったがそれくらいの警戒心がなくては冒険者なんてやっていけないと受付嬢に笑われてしまった
ギルドを出てまず向かうのは門と反対方向、神の家だ
一応、アルマドフに報告しようと来た道を引き返す
「これだったら初めから伝えてくればよかったな」
『アルマドフもここ最近多忙なようじゃし仕方あるまい、本人ではなく教会の者に伝言を頼む程度でいいじゃろう』
「そうだな、でも一回戻ったらまたあの黒仮面に付けられるかもしれないんだよなぁ」
そんな話をしている間に神の家に着いてしまった
黒仮面が居ないかを警戒しながら進んでいると教会からアルマドフが出てきた
アルマドフもホムラを確認して驚いているが背負っているバックを見て事情を把握したのか向かおうとしていた方向を変えて近寄ってくる
「試験を受けるようですねホムラさん、頑張ってください」
「ああ、それだから長くて四日間ぐらいここを離れるからその報告をな、つーかいつになったら魔王討伐に出るんだ?」
「本来なら昨日に作戦を実行する予定だったんですけどね、この前の報告のお蔭で無期限延期ですよ」
アハハとアルマドフは笑うが金色の瞳はくすんでおり笑い事ではないのは容易に察せた
しかしこの前には詳しいことは離せない上にソマリ様とやらがアンデットになった事は伏せていてくれと言われてしまった
今の様子から見てもただ事ではないのだろう、そんな中ほぼ居候に近いホムラの報告に直接顔を見せてくれたのだから此方も余計な口は挟まない
アルマドフに別れを告げてもう一度ギルド方向にある街の門へ歩き始めてからすぐに黒仮面のストーキングは再開してしまった
街中では目立ちまくる黒服で隠れているつもりなのか路上に置かれている木箱や露店の陰に身を隠している
そもそも女の割には背が高い所為でほぼほぼ一番目立つ仮面部分が隠せていない。その視線の先に居るホムラに視線が集まる始末だ
ホムラは門を出た所でバックから地図を引っ張り出す
パレスから南に森がありそこを抜けて小さな山を目指すその山の麓が目的地だ
森は大きく魔獣が縄張りとしている場所も丁寧に記されており目的地までには二、三回の回り道が必要になりそうだ
「そういえば前から思っていた事だけど魔物と魔獣と魔族ってどう違うんだ」
『魔獣は知能の無い文字通りの魔力を持つ獣、魔物は知性を持つ、魔族は分からんな妾の世界ではいなかったが〝族”というあたり文明を持った魔物かもしれぬな』
取りあえず森までは馬車で行けるそうなので門の付近で客引きをしていた御者に銅貨を四枚渡して馬車に乗り込む
流石に馬車で移動すればあの黒仮面も追ってこれないだろうと考えながら改めて持ち物の確認をし始めた
御者の客引きによってホムラの他に四名の人間が馬車へ乗り込んできた
貸し切りにするだけの金は持っているがそんな事をする理由もないホムラは残りの四人に軽い挨拶をして地図を見ながら目的地へのルートを考えていた
その地図を見た隣に座った青年が目を丸くすると躊躇いがちに声をかけてくる
髪は長くは無い、茶髪で垂れ目だが声はハッキリとしており中々の好青年だ
「あの、その地図もしかして冒険者試験を受けるんですか」
「ん? ああ、そうだけどアンタもか」
「ええ、僕はナッシュって言います、あっちがメリアでこっちがタルバル。あの大きいのは弟のニッシュです」
どうやら乗り込んできた人間は全員彼の関係者らしい
改めてナッシュや他の人間の格好を眺める
ナッシュとニッシュは恐らく戦士だろう、盾と片手剣がナッシュで両手剣がニッシュだ
メリアと呼ばれた杖を持った女の子は活発そうな印象を受ける日焼け肌の金髪だ
タルバルは斥候の様だが小太りで温和そうな青年だ
「俺はホムラだ」
「よろしくホムラさん、ホムラさんは一人なの?」
メリアがそんな事を聞いてきた
するとメリア以外の男連中は焦ったようにメリアの口をふさぐ
「すみません、この子考えたことをそのまま言葉にしちゃうタイプで、なんで魔導士なんて出来るか分からないくらいでして」
「あー、いや気にすんな。魔法主体の癖にアホな奴は知り合いにいるから」
「ありがとうございます、でもホムラさん。ソロで冒険者を始めるなんて元軍人か何かなんですか」
ホムラの砕けた口調に親しみを感じたのかナッシュは結局全員が気になっていた事を聞いてしまう
トバリはさっきの『アホな奴』に反応してかホムラに声をかけようとするが声をかければ少なからずアホな奴の自覚があるという事に繋がるので捨て台詞と共に消え失せてしまった
後で謝った方がいいかと考えながらホムラは馬車が動き出した事で意識を引き戻し答えを待っているナッシュに気が付く
「軍人ではないがそこそこ強いと思う、旅をしてたんだけど知り合いに冒険者になっておいた方が何かと便利だと進められてな。ちょうど暇な時期も重なったから試験を受けに来たんだ」
「そうなんですか、僕たちは同じ村の出身で皆でパーティーを組んでいるんです。パーティー名はまだ決まっていないんですが」
パーティーメンバーとそれぞれ挨拶を交わし目的地までの他愛のない雑談に興じていると騒がしさに釣られてきたのかトバリが姿を現す
話を聞いているだけで楽しいとトバリは黙ってホムラ達の雑談を聞いている
森の前まで来たところでもう御者が声をかけてくれた
「じゃあ、目的地は同じですしホムラさん一緒に行きませんか?」
「いいのか? 助かるけどお前らも始めてのパーティーデビューだろ」
「いいんですよ、むしろデビューの時に人を置き去りにしたなんて思いで嫌ですから」
ナッシュはそう言って他のメンバーもうんうんと頷いている
こうして冒険者試験はナッシュ達と共に行動することになったこの広大な森を抜けるのが最初の目標だ
さて上手く話を回せるか
自信無くなってきた