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元殺し屋の異世界転移  作者: 南無
第一章 異世界で最初の仲間は災厄の魔物でした
12/19

冒険者デビュー

アディスティナ教皇国の首都パレスは丘の上にある

丘の頂上に教皇の座す宮殿がありそこを中心に蜘蛛の巣上に街が広がっている

上の方には上流階級の人間が住み下に行くにつれて位は下がってゆく

最下層と言えば聞こえが悪いがもっとも低い街の門付近が一番活気が高い


理由は簡単、冒険者ギルドがあるため宿屋や商業施設が充実しているからだ

ホムラはそんな賑やかな場所で行われているマーケットで謎の肉の串焼きを頬張っていた


クインに案内された部屋は丘の上の方にある教会に付属している寄宿舎だった

例の依頼を受けている者は基本この寄宿舎で寝泊まりをしているが流石は教会の付属施設

質素な食事に騒げず酒もないという事で冒険者達は全員街へ繰り出していた


クインに同じ依頼を受けた冒険者へ挨拶をしておいた方がいいと助言されてとりあえずエントランスに顔を出したが誰もいなかった

そのあたりからトバリが本当にうるさくなったので街の様子を見に出てきたのだ


「街に行くならついでに冒険者になっておいた方がいいってクインが言ってたけどどうするか」

『ホムラは今のところ傭兵という扱いらしいが汚れ仕事を請け負う連中が多いとも言っていたからの、印象は悪いんじゃろうな』

「なら冒険者の肩書は持っておいた方がいいよなー、俺苦手なんだよね組織に組み込まれるの」


元の世界での経験から組織が苦手だ、もちろん普通で問題の無い組織の方が多いのだろうがトラウマとはそういうものだ

しかしアルマドフからも冒険者ギルドに入っていた方がいいとも言われたので名前だけでもとギルドへ向かう


ごちゃごちゃしたマーケットを抜けて宿屋が多い地域を過ぎ、門の近くまで来たところで冒険者ギルドを発見した

コンクレスタの街で勝手にお邪魔した建物と大体同じような建造物だ

ホムラは意を決してギルドの入り口をくぐる


中は酒場の様になっており奥に受付のカウンターがあるのも前と同じだ

受付をしている制服の男の元へ歩きだす


「ようこそ、冒険者ギルドへ。依頼ですか?」

「いや、冒険者になりたくて」

「そうですか、では担当の者を呼びますのでお待ちください」


男がカウンターの後ろにある扉へ消えて少しすると次は制服を着た女が出てきた


「お待たせしましたー、冒険者への申請ですよね? まず手数料として銀貨1枚を頂きますがよろしいですか?」

「はいはい、銀貨一枚ね」


手慣れた様子で書類やペンを引っ張り出している受付嬢にクインから貰ったお小遣いもとい先立つ物である銀貨を手渡す


「はい、確かに。ではお名前と貴方の長所を教えてください」


この質問ににホムラは言い淀んだ

名前は問題ない。しかし自分の長所とはなんだ

誰とでも仲良くできます、とかそういったことなのか


『お主の長所なぞ丈夫で怪力ぐらいしかなかろう』


そういうことか と元の世界でよく聞かれるけれど答えにくい質問についての自問自答を止めて

名前とトバリの言葉をそのまま伝えた


「それでしたら前衛が合いそうですね魔法などは使えますか?」

「あー、少しだけ。魔法は苦手で」


質問に答えてそれを受付嬢が書類に書いていく

そんな問答が十分ほど続いてようやく一通りの作業は終わりその他の説明を受ける


「では、今日からホムラさんは冒険者という事になりますが一定期間はこのギルドの依頼しか受けることはできません。一週間後から試験を受けていただきそこで初めて冒険者タグをお渡しします」


一通りの説明を要約すると冒険者申請を出すとまず仮冒険者になり一週間後から試験を受けられる

その試験に受からない限り受けられる依頼は最低ランクだけでこの街のギルド以外からも依頼を受けることが出来ない

試験の内容は単純な戦闘能力やサバイバル能力などで大抵の人は問題なくクリアできるらしい

試験に受かれば冒険者になれるがランクは最低位でそこからは実力をつけて昇格試験を受けることで冒険者としてのランクを上げていき高ランクの依頼を受けられるようになる


下のランクから、ブロンズ五級で始まり四級、三級と数字が上がっていき次にランクでシルバー五級になる

最上位は到達者(マスター)と呼ばれるらしいが世界に未だ三人と二チームしか存在していない

ランクもソロとパーティーで分けられているらしくトバリの見えない人間の方が多いこの世界ではホムラはソロ冒険者で申請されている


「それでは一週間は簡単な依頼を受けてギルドのシステムに慣れてくださいね」


そう最後に告げて受付嬢はさっきの男と交代した

やるべきことも終わりトバリも暇すぎたのか消えてしまっている


「帰って寝るか、夜になれば同業者も戻ってくるだろ」


そう結論付けホムラは教会への帰路へ着いた




        #



『ホムラ、エントランスに呼び出されておるぞ』


トバリの言葉に目を覚ますどうやら深く眠っていたらしい

廊下からは複数人の足音が聞こえる


『クインからの呼び出しだ、依頼についての会議と顔合わせじゃと』


トバリの説明を受けながら部屋を出てエントランスへ向かう

そこには総勢40名ほどの人間がいた

決して狭くは無いエントランスだが体格のいい人間が多い所為かエントランスに降りるのは避けて階段付近でホムラは立ち止まる

エントランスの奥にある一段上がった場所にはクインがおりいつもの大きくよく通る声で挨拶をした


「お集まりいただきありがとうございます、聖騎士クイン・ル・ダノワです。まず教会の騎士団の準備が終わった事を報告します、これにより魔王討伐の最後の準備が整いました。作戦も依頼時にお教えしたとおりになっています、残るは作戦決行日の指示だけになりました」


クインの登場に場はどよめきだしている

どうやらクインは相当な有名人らしい


「ちょっといいか」


どよめきの中ではっきりと声を上げた人間に目を向ける

漆黒の鎧を着た黒髪の男、周りには仲間だろうか四人の女性が立っている


「あれって『雷迅』か?」

「嘘だろ!? 参加してる勇者ってアイツなのか」

「こりゃ勝ったも同然だな」


此方も中々の有名人らしい


「何でしょうカズマさん」

「俺はセシリアを助ける為にここに来た。勿論、魔王は倒すが彼女を最優先にしたい」

「ええ、聖女様はカズマさんにお任せします、アルマドフ枢機卿も了承しているので」

「………すまない、あの子と約束したんだ」


どうやらこの依頼には裏があるらしい

そういった事には鼻が利く元の世界じゃ嵌められたのも二度や三度の話じゃない

勇者の名前も違和感がある、ホムラやトバリと言った日本語のような名前があるのは分かっているがもしかしたら元の世界を知るあの時の学生の一人かもれないからだ


カズマは用は済んだと部屋へと続く階段の方向へ進み始める

周りの冒険者は道を開けカズマ達が階段の傍にいたホムラの傍を通ろうとした時だった

カズマの仲間の一人、柔らかな若草色のローブを来た耳のとがった金髪金眼の女がホムラに杖を向けたのだ


「なんだよ? 別に足引っ掛けようとか思ってないぞ」

「カズマ、この男はマズイわよ」


冗談を言ってみるが女はこちらを無視してカズマの指示を仰ぐ

カズマも腰から真っ白な両刃の剣を引き抜き、それに遅れて盗賊のような恰好をした獣耳の女と長い黒髪の弓使いが短刀を出す

一番奥の黒いローブに身を包み顔も仮面で隠している女はピクリとも動かない


『何事じゃ騒々しい』


トバリが欠伸をしながら現れる、消えている間は睡眠と似たような状態なのかと聞きたいがそんな事をする余裕はなさそうだ

トバリが出現すると杖を構えた女はより一層顔を険しくして杖の先に光が集まり始める


「何をしているんですかッ!?」


そこまで事態が進んで大きな声が響き渡った、クインだ

クインは杖を持つ女の前に立ち視界を遮る


「聖騎士様がなんでそんな奴を庇うのかしら? 少しは状況を見たらどうなの」

「それはこちらのセリフです。アーグラムの賢者の弟子にしては判断が軽率すぎますね」


なんですって! と女が声を上げたときカズマがクインの脇を抜けてホムラへ斬りかかった

防御魔法を全開にして剣を掴む

素手で剣を掴んだことに驚いたのかカズマが大きく目を見開きホムラを見据える


「貴方は何なんだ? 見えない何かの声に凄く強い闇の気配を感じる………こんなのはあの時戦った魔王以来だ」

「はぁ? お前そんな気配だけで斬りかかってきたのかよ、犬でも噛みつく前に臭い嗅ぐぞ」

『む、妾の所為かこの状況』


一触即発の空気がこの場を支配していたそんな中で間の抜けたのんびりした声が響き渡った


「はいはい、勇者様がそうそう剣を簡単に抜くものじゃ無いですよー。しかもここは神の家、書類作って報告するの誰だと思っているんですか面倒臭い」


寄宿舎の入り口にアルマドフが眠たそうな目のまま眉間にしわを寄せながら立っていた


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