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盾を刃に  作者: 暗殺 中毒
哀惜と憤怒に花束を
8/21

秘めた想いを夜に預けて

「おい出来損ない! 俺を置いて行くなんてどういうつもりだ!」

「僕は皆んなみたいに強くないから、だから大切な人を守れる様に強くなりたい。君を守りたいんだ」

「……この女(たら)し」


顔を赤くしながら、自分の事を俺と言った女性は目をそらす。青年はそんな様子を見て愛おしそうに目を細め、微笑みを浮かべる。


不意に女性が青年に近付き、顎に手を添えた。二人は幸せそうに目を閉じ徐々に距離を縮めて行く。唇と唇が重なり合い、女性を優しく抱き締めた青年は目を開いた。


「御迎えに来てあげたぞ、この悪魔」


そこに女性の姿は無く、代わりに白い鎧に身を包んだ騎士の姿。深い青の瞳に映るのはさげすみと喜びの感情。右手に握られた剣は血塗られ、後ろに広がる死体を斬り刻んだばかりの物。


騎士が何かを放り投げる。青年の足下に転がったそれは、先程まで目の前に居た最愛の人、その斬り取られた頭部。恐怖と苦痛に歪んだ表情をしたままのそれは、まだ暖かさを残していた。




おぼろげな月の光が差し込む部屋の中で、彼は跳ね起きる。全身ににじんだ汗が滝の様に流れ、荒い呼吸が静かな夜の闇に溶けて行く。


何度忘れ様としても忘れられない忌まわしい記憶。もう昔の事だと言うのに、誰であろうと負けない力を手にした今でも消えず付きまとう。この目の色の原因ともなったあの出来事。


彼が懐中時計を手にし時刻を確認すれば、今は深夜の三時。人々が眠り野生動物が活性化している時間帯だ。農耕作業が基本のこの村で起きている者は恐らく彼のみだろう。


彼は考える。何故今更になってこんな記憶が蘇るのか? 常に頭の片隅にあったものの、長い事こうして悪夢にはならなかった。なのに何故今?


あの死体の山を見たからか? それともこの村に戻った覚えが無いからか? 当てずっぽうに憶測はすれど答えには行き着かない。


雑に寝汗を拭き取った彼は部屋の隅に置いていた甲冑を装着し、最後にメットを被る。悪夢に出て来た騎士とほぼ同じ姿となり部屋を出た。


歩く度に彼と甲冑の重さで床が悲鳴を上げ、静まり返ったこの場所を騒々しくする。しかし彼は知っている。この家の持ち主であるストレングスとジアルは、夜中に絶対に起きて来ない事を。


足音を殺しもせずに突き進み、玄関の扉を開き粉雪の舞う外へ。雪は彼の心に溜まって行く哀惜の様に降り積もり温もりを奪って消え去る。


雪に足を取られわずらわしいと思ったのか、彼はそこにあった民家の壁を駆け上り木の板に指を掛けた。そして素早くよじ登り屋根の上に到達。


地上よりも激しい風に撫でられながら、懐中時計を握り締める。大切な者から贈られたそれを肌身離さず持っている事からも、どれだけその人物が思っていたのかが伺い知れる。


雪は何時か溶けて無くなる。またはより硬くなり、氷となる。彼の場合、雪は溶けた。懐中時計を力強く握り締め月を見上げた。


オッドアイに浮かぶのは炎。怒り、憎悪、嘆き。激しく燃え上がる炎は彼を内側からあぶり興奮をくすぶらせる。


「仇は撃つ。必ず、必ず人間を皆殺しにする!」


低く呟かれた憎しみの呪詛は、風がさらい夜に預ける。彼の心深くに根ざした怒りは収まらず、意識の中でストレングスとジアルに向けられた。


普段の口調や立ち振る舞いは全て演技。ただ人間を殺す事だけを考える今こそが真の彼。元より彼は人間などではなく、友好的に場を治め様と言うつもりも無い。


悪魔と呼ばれた。化け物と呼ばれた。何もしていないにも関わらず、人間に一族を殺され生き残ったのは自分と数人の仲間だけ。愛する者を奪われる痛みを人間にも教えてやろう。


彼は動き出す。失った者達の仇を撃つ為に。罪を人間に償わせる為に。怒りを鎮める為に。




同時刻、ユース・キングダムの裏路地に設置された街灯の明かりに照らされる人影が二つ。鼻から血を垂れ流し、吐血する男と殴り続ける大男、レイジ。


男は最早両腕を折られ成す術も無く殴られ続ける。鼻の軟骨が折れ前歯が地面を転がる。左の拳で腹を殴り、頭を下げさせ肘と膝の挟撃。流れる動作で意識を刈り取った様子からこうした事に慣れていると分かる。


コートのシワを伸ばしたレイジは、何かに反応し夜空を見上げた。血の様に赤い瞳に浮かぶのは空虚と諦め。何も映し出さない目が夜空の月を捉えた。


「ソロウ……動き出したか」


地の底から響く様な低音が空気を振動させ、消えて行く。踵を返したレイジはマンホールの蓋を開け、どこまでも続く闇の中へと降りた。




今、物語が動き出す。


「盾を刃に」

これにて第一章は終了。

幾つか気になる箇所はあると思うが、作品内で語る物と語らない物は私の中で分けられているので、全てが語られるとは限らない。

時には想像に任せ、読者が答えを探すと言う事も面白いだろう。


分かる人には分かるが、幾つもの作品から影響を受けこの物語を書いている。またサブタイトルにも意味があり、花言葉を調べれば分かる。


ダラダラと冗長に序盤を続けていても仕方ない為にこうして区切りを置いた訳だが、もし誤字脱字や休息回での展開、その他希望があれば感想欄に願う。


※休息回

シリアス展開が混じらない日常回の様な物

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