枯れない蕗の薹
長い間更新をせず待っていた人には申し訳ない。
もう匂わせぶりな世界観説明が思いつかない。そもそもあれが好きな人が居るのかどうかも不明。
サブタイトルは枯れない蕗の薹。
何時もとは多少雰囲気が違うので悪しからず。
暗闇よりも暗く、深海よりも深い場所。地の底へと続く螺旋は幾重にも連なり彷徨う者達を導き続ける。明かりが点き、そして消え、また灯る。終わる事無く繰り返し、されど途切れる事は無い。
深淵にたった一人、たった一匹、たった一つ。それが何かは誰も分からない。時折縦についた口から発される呻き声から判別は付かず、人なのか獣なのか分からない。
人と言うには余りに異様、獣と言うにも余りに異様。皮膚は無く目も無く耳も無い。腕や脚も。剥き出しの肉は奇怪に蠢き粘液を滴らせながらただそこに存在する。
それは虫に覆われていた。噛まれていた。肉を食い千切られ中に潜り込まれ、抵抗する事も出来ずに呻き続ける。傷口は瞬く間に塞がり、そしてまた虫に抉られる。
それは夢を見た。一人の男の夢を。暗黒の中カードが舞い落ち男の周囲を華やかに彩る。男が手の平を出し、そこに落ちたのはスペードのA。
トランプが風に吹かれた様に舞い上がり、建物を形作り一つの街並みを作り出す。それはユース・キングダムに酷似し、男の前に広がるのは死体の山。槍で貫かれた赤い鎧の騎士、頭を潰された栗色の髪の女、虫に食われる龍の様な姿の人間。
小さな少女が片腕を失いながらも男に拳を振りかざし、次の瞬間虫に引きずられ闇へと消えて行く。か細い助けを求める声と咀嚼する音が響き、白い騎士が膝を着く。
白い騎士の首が両断され、生首が地面に転がった。すると全てを形作っていたトランプが地面に落ち、男はスペードのAを握り潰し捨てる。
コートの内ポケットを探り出て来たのは二枚のカード。ハートのKとスペードのA。男はその二枚の中から好きなカードを選ぶ事が出来る。
最も強いカードはスペードのAであり、男の元々の本質。だがそれを選べば全てを失ってしまう。ハートのKはスペードの半分の強さしか無いが、多くの物を手に入れる。男が選んだのはーーーー
「ダヴィッド、計画変更だ。姫と王子を殺しに行ったはいいが、まさか客人がレイジだったとは。外堀を埋めてユース・キングダムに総攻撃を掛ける。レイジを殺しても構わない」
「陛下、己の責任です。己がこの身を犠牲にしてでも姫と王子が送った手紙の内容を確認していればこんな事にはーー」
「それ以上言うな」
夜も更け薄明かりが差し込んだ森の中で、赤い鎧の男、ダヴィッドはフェイクに跪いていた。ダヴィッドが陛下と呼んでいるのは紛れもなくフェイク。
「私は貴様の助けがあってここに今生きている。貴様の助けが無ければ盗賊達に八つ裂きにされていただろう。それに貴様と私は家族の様な物だ。違うか?」
親しげに話すフェイクからは盗賊に向ける殺意、ジアル達に見せた偽りの顔は見受けられない。彼はあくまで本心からダヴィッドに心を開いている。
そんな彼とは反対に、ダヴィッドは深々と頭を垂れたまま謝罪の色を消さない。一見すれば陛下と呼ばれたフェイクが君主でダヴィッドがその騎士と言った光景だが、実際には違う。
「仰る通り。ですが己は陛下から与えられた恩を返すと誓った身。仇で返すなどありませぬ。陛下に救われたこの命、果てるまで忠誠を尽くしましょう」
「……貴様の意志を尊重しよう。今から計画を話すが、いいな?」
「陛下の為に」
立ち上がったダヴィッドは左胸に右手を当て、丁寧な一礼を見せる。彼は再び顔を上げるまで待ち続け、緑の目が自分を捉えた時口を開いた。
「まずユース・キングダムについてだが、貴様達の報告によれば六十年前の戦いの後より勢力を拡大させ今では中々大きな国だと。当時よりも技術水準が上がっているとするなら正面からぶつかるのは自殺行為だ」
「姫と王子がレイジを招待していたのなら、王家に尽くす魔導騎士とレイジが手を組むのは必然。王家を殺害し国家を崩壊させるのは現実的ではなくなりました」
二人が交わしている内容はどれも推測に過ぎないが、長い時間生き戦い抜いて来た彼らの経験に基づく推測だ。それも限りなく悪い方向へ事が運んでいると言う推測。
国を相手取るなら常に最悪の状況を想定して行動、策を練らねばならない。二人はそれを踏まえた上でユース・キングダムを攻撃しようと言うのだ。
「あれだけの国を維持するには資金や原材料が確実に足りない。必ず複数の植民地を近くに持っている筈だ。そこの住民なら打倒ユース・キングダムを掲げるだけで買収出来る。まずは植民地を解放する事からだ」
列車を走らせる程の技術を持っているならば軍にはそれ以上の兵器がある。しかし高度な技術の結晶はそう簡単に材料を調達を出来ない為に、彼は植民地と言う答えに至った。
自分達の土地を支配する者達にいい印象を抱く筈も無い。ならその感情を利用して反ユース・キングダムの組織を設立すればいい。彼はそう言っているのだ。
「しかし読まれていた場合は? 魔導騎士とて一国を動かせる権力を持っている猛者。そう易々と倒されるとは考え難いのでは?」
彼の意見に難色を示したダヴィッド。植民地を解放し自軍に加える事が出来れば有利になる事は間違いないが、魔導騎士に読まれていた場合一網打尽にされる可能性もある。
「魔導騎士? 実権を握っているのは魔導騎士だとは聞いていたが、何故今の代は魔導騎士が統治を?」
「それは女王が暗殺される事を危惧して、と情報を集めた限りでは。先代国王のブルーノ三世が仕込み杖で暗殺された為危険な行為はさせられないと」
「愚かな国王が居たとは聞いたが、まさか先代だったとはな。杖が武器になるならば危険な行為とは会合、舞踏会、その他諸々か。道理でな。確かに読まれていた場合の対策は難しい」
ダヴィッドの説明に納得をした彼は、考えを読まれていた際の打開策を見つける為に頭を悩ませる。ユース・キングダムは今までで最も強大な国であり、これまでとは勝手が違う。
「己が別働隊を連れて包囲戦を仕掛け突破口を作る、と言う作戦が一番合理的ではーー」
「却下だ。私が戦う理由は仲間を守る、それだけだ。守る為の戦いで犠牲を出してどうする? 死なせはしないぞ」
「陛下、大変な失礼を」
ダヴィッドが謝罪し、沈黙が訪れる。彼は魔導騎士の実力を知らない為に強硬突破をする訳にもいかず、幾ら魔術が強力だとしても過信し過ぎては戦法に偏りが出てしまう事を彼は知っていた。
人間は侮れない。彼は愛だの想いの力だのと頭の悪い発言をしていた者達を容易く捻じ伏せて来たが、それでも油断をしていい相手とは思えない。
彼が圧倒的な力を手に入れたその理由、全ての始まり。それは人間によって齎され、またアズラエル一族の壊滅も人間が運んだからだ。
まだ拳銃すら誕生していなかった時代に大勢のアズラエルを相手取り一方的に殺害したたった一人の人間。それを知っているからこそ彼は人間を危険視している。
「仕方がない。貴様は私と共に行動しろ。レイジはどんな手段を使ってでも私の足取りを掴もうとするだろう。レイジは今弱体化しているが、魔導騎士も動き出している筈。今襲撃するのは無謀だ」
「御言葉ですがレイジは今不安定な状況にある。更に力を失なえば良いですが、もし力を付けた場合は……」
「その事態に対抗する為にシャルマンを連れ戻す。そしてサラをレイジの前に出させ目の前に集中させておき、貴様がシャルマンと協力し守護者を全滅させろ」
「御意」
守護者の強さは到底自分達に及ばない。その報告をダヴィッドから受けていた彼は決断を下した。もし脅威となる存在をレイジと魔導騎士だけに出来たなら四人の波状攻撃で容易く制圧出来るだろう。
「己は強力な戦力となる者を一人知っています。その人物はユース・キングダムの裏路地で一人過ごしている為に勧誘するならうってつけかと」
「具体的な強さは?」
「魔導騎士の有力候補だった人物、現在の魔導騎士に勝るとも劣らない実力を持った手練れ」
「……そんな人材が居たとは。頼んだぞ。無事に戻れ」
「陛下の為に」
丁寧な一礼を見せたダヴィッドは彼に背を向け森の中へと溶け込んで行った。
雨の降る霧深い夜。一寸先すら見えない白い闇の中でダヴィッドは手探りに道を進んで行く。嵐が過ぎ去った後の様な荒れた道には木材や釘が散らばり、目を凝らせば乾いた血が地面にこびり付いている事が分かる。
目的の人物と思われる人影を見つけ足早に歩み寄ろうとしたダヴィッドだったが、爪先に何かが当たり歩を止めた。
それは死体。全身の皮を剥がれ赤黒い肉が露出した無惨な屍。辺りを見回せば、至る場所に転がっている死体と目が合った。縄で吊るされている死体まである。
ダヴィッドにとって死体など驚く程の物でもない。また歩き始め、人影へと近付いて行く。次第に鮮明になって行く人影は壁に凭れ力無く座り込んでいた。
「これは貴公がやったのか?」
「…………ええ、そうです。僕を捕らえますか?」
「違う。己が来た目的は、貴公の勧誘に他ならない」
勧誘と聞いた瞬間人影は頭を上げた。霧のせいで鮮明には見えないが、ダヴィッドの次の言葉に期待をしている様に感じられた。まるで暗い穴の底に垂らされた一本の縄を見る様に。
「任せたい仕事はごく単純、しかし貴公にしかこなせない危険な仕事。己らに力を貸して欲しい」
ダヴィッドの発言を聞くと、人影は目に見えて興味を無くした。それが何故なのかは分からないが、間違った言葉を選んでしまったのは確かだ。
「よく聞く話です。誰にも認めて貰えなかった悲しい人は危険な仕事だと分かりながらその話に乗ってしまう。理由は単純で初めて認めて貰えたから。そんな上手く行くとでも?美味い話には裏がある。どうせ使うだけ使って捨てるつもりでしょう腹立たしい」
人影の言動から隠すつもりも無い底知れぬ怒りを感じ取ったダヴィッドは一本前に踏み出した。二歩、三歩、四歩。濃霧に包まれていた姿が露わになり人影が立ち上がる。
ダヴィッドが本で読んだ知識では、人影が身に付けているのは数百年前の貴族が着ていた衣装。肩にマントを付け、貴金属を惜しげも無く見せびらかす服。
違っている点と言えば、その服は最早衣類としての役割を果たせない程に痛み穴が開いている事か。赤だったであろう服は汚れで茶色に染まり、マントは虫に食われ穴だらけ。
人影の瞳を見つめると、そこには悲しみと怒りが混在したフェイクの様な色があった。薄い茶色の目には警戒と敵意。肌を容易く切り裂いてしまいそうなまでに磨き上げられた殺意はダヴィッドの心を動揺させた。
強大な敵になる、ここで野放しにするのは危険だ。自分であっても敵うかどうか分からない。最悪陛下でさえも脅かす可能性もある。そう感じ取ってからの行動は早かった。
腰から剣を抜き放ち、素早く斬り払う。しかし人影は壁を蹴って宙返りをし回避。壁に剣が食い込み隙が生まれた瞬間を狙いダヴィッドに体当たりを仕掛けるが、すぐさま頭突きで返され後退する。
剣先を人影に向け発砲するが難なく躱され、人影が何かを掴んだ。その途端ダヴィッドの背中に冷や汗が流れ脳裏に血溜まりの中に倒れる自分の姿が映し出される。
霧の中で銃撃をしても無駄だと考え踏み込みと同時に上から斬り掛かるが、人影が掴んだ何かに阻まれ剣が止まった。この時ダヴィッドには二つの選択肢があった。剣を振り上げ再び斬り掛かるか、蹴りを入れ距離を離すか。
しかしどちらも実行に移せないままダヴィッドの頭部は何かに強打され、金属のメットを伝い衝撃が脳を揺らす。そして態勢を立て直す前に胸に手が当てられ、鎧を含み100kgを超える体が五メートル以上吹き飛んだ。
余りの突然の出来事に受け身を取る事も出来ず、何が起こったのかも理解出来ず、脳の処理が追い付かない内に天を割く様な発砲音。
「二度と俺の前に現れるな!」
怒声を発した主は遠ざかって行き、ダヴィッドは漸く落ち着いて事態を把握した。そして自分に何をされたのかも。あの時浴びせられたのは消滅の魔術、そして狙撃銃の銃撃。
一度文献で読んだ記憶によると、消滅の魔術は他者が放った魔術及び体内の魔力を消滅させ大幅に弱体化させる物だった。以前使い手と戦った事はあったが、まさかここまで強力だとは思いもしなかった。
完全なる敗北。ダヴィッドは脇腹から滴る温かい血液を感じながら息も絶え絶えに起き上がる。本当ならここで力尽き目を閉じてしまいたかったが、そうしなかったのはフェイクに報告をする義務があったからだ。
体内に満ちていた魔力を一瞬で消された為に何度も倒れそうになりながら、大きな血溜まりを残しダヴィッドはその場から去った。
数分後、そこには生温かい血を調べるレイジの姿があった。
本編中で分からなかった事があれば感想欄に書いて貰いたい。誤字脱字報告もしてくれれば嬉しい。それ以上にどのキャラが好きか、どの話が好きかを聞かせて貰えれば今後の糧になる。
世界観説明も宜しく↓
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