表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盾を刃に  作者: 暗殺 中毒
因縁の歯車
13/21

薄命同盟:青草は危険な香り

【レイジ・アンガー】

気が付くとユース・キングダムに居た大男。公共の場では常にハイテンションで、下ネタや私的な問題まで冗談にする為、彼を嫌っている者は多い。だが彼の言動を楽しんでいる者が多い事も事実。

常に黒い噂が付いて回っており、どこに居ようと監視していると言う物から影から生まれ闇と同化するありえない物まで様々。確かな事は、彼について嗅ぎ回った者は皆一様に悲惨な運命を辿った。


身長196.3cm 体重105.7kg

「どう思う?」

「それはいったいどう言った意味で?」

「怪し過ぎるだろう。なぜ今更になって動き出したのか。あの切り裂きジャック、まあオレはクソ野郎って呼んでるが」


珍しく感情を感じさせる言葉使いのレイジだったが、やはり目に光は無く演技をしているだけなのだと分かる。彼はレイジの演技力をそら恐ろしく感じながら、頭を悩ませた。


確かに何故再び切り裂きジャックが動き始めたのかは謎だが、ただの気分と言う可能性も充分に考えられる。


「もし切り裂きジャックをただの犯罪者だと考えてるなら、今すぐに捨てておいた方がいい。これを見ろ」


レイジが指したのは変貌した死体の首元。そこには横一文字に切り裂かれた傷口があり、肉屋の商品の様に綺麗に裂かれている。しかしこれが何を意味するのか彼には分からない。


「分からない? マジかよベイビー! いいか、これ程鮮やかな跡を付けられる奴はオレは三人しか知らない。オレの宿敵、襲撃事件の犯人ダヴィッド、そしてクソ野郎だ。つまりただの酔狂じゃない、高い技術を持っている」

「なるほど、しかし他の者、そのダヴィッドや貴方の宿敵がジャックの犯行に見せ掛けた可能性は無いのですか?」

「いい質問だ」


レイジは両手を打ち鳴らし彼に人差し指を向ける。払い除けられつつも笑っている様は側から見ればお調子者の様に見えるが、実際は周囲で調査している警官達を騙す為の演技。


「こいつを見ろ。黒錆と呼ばれる、金属を悪い赤錆から守る物質だ。レアもレア、黒ちゃんをわざわざ凶器に付着させるなんて初めて見るぞ。科学者とかじゃなければまず知らない」


レイジは傷口を手拭いで軽く拭き取り、彼に見せ付ける。そこには渇いた血液に混じって黒い欠片があった。それこそが黒錆であり、レイジが切り裂きジャック本人の犯行だとする証拠。


科学者と言う単語、そして自身を見続けるレイジの様子から彼は自分が疑われていると悟った。そして大きな溜息を吐く。何故学者と言うだけで疑われねばならないのか。


「まさか私を疑っているのですか?」

「ん? どうだろうね?」

「失礼ですが、私は帰らせて貰います」

「好きにしろ。でも気を付けろよ、暗闇から襲われるかもな」


冗談めかして忠告をしながらも、目は全く笑っていない。彼としてはそれが何よりも不気味で恐ろしく感じられた。


彼の後ろで盛大に笑うレイジだったが、彼はそれが作り笑いだと知っている。まるで本当に笑っているかの様なこの声は、彼の様に他人の心を知る術が無ければ勘違いさせるだろう。


彼は何度も自分の魔術を使い人々に貢献して来た。時には犯人を探し当て恩賞を受けた事もある。だが、彼は野心家であり人の役に立つだけで満足する人柄ではなかった。


「おいジジイ! 金を出せ!」


事実、彼は他人を補佐する役割よりも主役を好む。舞台に上がるなら誰よりも目立ちたい性分だったのだ。しかしそれは叶わず天は心の声を聞く能力を与えた。


「聞いてんのか! 金を出せって言ってんだよ」

「おじいちゃん逃げて!」


女性の悲鳴を聞きようやく彼は目の前に仁王立ちする男に気が付いた。お世辞にも鍛えられているとは言えない体付きの男はナイフを持っており、何かあればそれを使い実力行使する気なのだろう。


ナイフを見て怖気付くどころか、彼は素早く男の股へ足を侵入させ膝裏を蹴る。すると予期せぬ衝撃に男が崩れ落ちそうになり、思わず取り落としたナイフを彼が蹴り飛ばす。


「はて、何か私に御用で?」


何事も無かったかの様にとぼける彼だったが、一部始終を見ていた人や男は驚愕で何も言えない。これは少しでも主役になれる様にと彼が鍛錬たんれんおこたらなかった成果。


「お体には気を付けなさい。まだ若いのですから」


男を置き去りにし彼は大通りを抜け、裏路地を抜け自分の店へと戻り看板の表記を乱雑に開店から閉店に変える。そして隠し通路から研究室へ入って行く。


レイジのあの目。確実に自分を疑っていた。無理もない、魔導騎士にたぶらかされ本当の情報を知らない人々で溢れるこの街で、惑わされず正確な情報を手に嘘を見破った男だ。裏があると感付いている筈だ。


早急に手を打たなければならない。何時も使っている自衛手段は通じない、何か大きな力を手に入れなければ。早く新たな魔術を、強力な物を修得しなければ。


何十年も前に覚えた魔術を行使し、離れた場所に存在する蝋燭ロウソクに火を灯す。次に本棚へ手を向けると、視線を向けていた本が手の中へ飛び込んだ。


魔導術全書。そう書かれた本は厚い革で覆われており、至る箇所に傷がある事から長い間読み込まれていると分かる。


目次には遠隔えんかく点火や物体移動などの簡単で応用の効く物から、触れる物全てを刃物に変える危険な魔術まで全てが網羅されていた。現時点で判明している物だけではあるが、今でも二十ページに渡る膨大な魔術が確認されている。


彼が求めるのはより象徴的で、誰もが羨む様な魔術。それは魔導騎士の行使する音の魔術や詳細不明の光の魔術、死者が蘇らせると言った物だ。


長い時間を掛けて数百の魔術を体得し尚も彼は満足しない、出来ない。彼から言わせればレイジは信用に足らない人物であり、埋め合わせとしても、殺害手段としても戦闘向きの魔術を今求めている。


目次から望む魔術を探していたその時、魔術によって強化された彼の勘が異変を感じ取る。素早く本を閉じ意識を集中、聴覚を強化して外の様子を探る。


数人、十人以上の足音。それがまっすぐにこちらに向かって来ていた。下品な笑い声と金属がぶつかる音からしてギャングの一団だろう。そこで彼は行動を開始した。


床に付けられた小さな扉を開け薄闇の中へ降りて行き、静寂が訪れる事十数秒。再び現れた彼の顔にはガスマスクが装着され、斜めに掛けられたベルトには幾つもの缶が付いている。手には大型の銃を持ち、戦争でも始めるかの様な風体。


研究室から出る際にレバーを上げ、しっかりと隠し通路を塞ぎギャングの到達を待つ。足音はすぐそこまで来ている。後数秒で店の扉は開かれるだろうと、彼は予想した。


予想通りにギャング達が店の中へとなだれ込み、問答無用で彼を取り囲む。そして一人の太った巨漢が入店した。


「おめえがこの店の店主だな?」

「ええ、何用でしょうか? 残念ながら現在は準備期間中でして、また後日いらしてください」

「買い物に来た訳じゃねえ。まあその物騒なもんしまえや」


煙草タバコに火を付けながら巨漢は彼を見下ろす。怯えているかどうかを確認したかった様だが、ガスマスクが曇っていた為に彼の表情を見る事は出来なかった。


「私のこの魔術が目当てなのでしょう。渡るとしても争いは避けたい。いったい誰の声を聞けばよろしいので?」

「ああ、おれには女が居るんだ。いい女なんだが気難しくてな。おめえにそいつの本心を聞いてもらいたい。おれをどう思ってるか、な」


そこまで聞いた途端、彼の中で何かが切れた。女? そんな事の為に自分は奴隷の様な扱いをされなければならないのか? これ以上話す時間すらも勿体無い。


「お帰りください。それと……この店は禁煙です」


巨漢の口から煙草を奪い取り、握り潰す。それはここから立ち去れと言う警告であり、思い通りには動かないと言う決意表明だった。この状況でこんな事をされるとは思ってもいなかったのか、巨漢は暫し目を点にする。


「面白いジジイだ。おめえみたいな勇気のあるヤツは好きだぜ。やれ」


巨漢が指示を出すと同時に数人のギャングがナイフを手に踊り掛かる。しかしそのいずれもが彼の皮膚に当たり砕け散る。鋼鉄化の魔術。効果は一瞬だが、準備を終えるには充分だった。


銃口の下に備え付けられたライターを着火し、引き金を引く。すると弾丸ではなく液体が発射され炎により蒸発、気体となりギャング達を襲う。


「ゴホッゴホッ……前が見えねえ! 痒い、全身が痒い!」


気体に触れたギャングは息する間も無い程激しく咳き込み涙と鼻水を垂れ流しにする。先程ナイフが折れた所を見た以上迂闊(うかつ)に手出しも出来ず、次々と倒れ伏す。


店の中には失神したギャングの尿と青草の様な匂いが充満し堪らず逃げ出したギャングの鼻腔を追撃する。


「何だ、何が起こってる!」


彼はあえて巨漢には気体を当てなかった。その狙いは一つ。二度と自分に言い寄って来なくなる様に恐ろしい体験をさせる為だ。彼は慎重であり、激情家でもあった。


ベルトの缶を取り出し、蓋を開ける。するとギャングを無力化した物と同じ気体が噴き出し辺りに散乱する。それを次々と開けて行き、最後の一つを開けた時には店内は霧で包まれた様な状態となっていた。


驚きのあまり逃げる事を忘れていた巨漢は大量の気体を吸い込み咳き込む。呼吸をする為に息を吸えば咳で吐き出してしまい、また息を吸い咳をする悪循環。同時に言い様も無い不快な痒みを感じ悶絶する。


「貴方達はこの気体を知っているでしょうか? クロロゲン、吸えばたちまち人体に影響を及ぼす物です。麻酔や害虫駆除に使用されていますね。つまる所、毒ガスです」


痙攣けいれんし泡を噴く巨漢を踏み越えながらギャング達に接近して行く彼の姿に普段の朗らかさは無く、どこか狂気を感じさせた。


恐ろしい言葉を聞いたギャングは一目散に逃げ帰り、巨漢を置いて去って行った。その姿を最後まで見届けた彼は巨漢を店の外へと引きずり出し換気する。


「予想外の戦いだ。その銃で撃つのかと思ったが、化学で戦うとはな」


嫌でも覚えてしまったその声を聞き、内心緊張しながらも振り返る。そこには壁の隙間に片手を掛けぶら下がったレイジの姿があった。


「撃ち殺すと貴方は問答無用で私を刑務所か病院に送るでしょう。苦肉の策ですよ」

「その割には派手にやったな」

「最近はストレスが溜まっていましたからね。憂さ晴らしに丁度いい機会でした。襲撃事件に切り裂きジャックの犯行、無敵の悪魔に疑われる。誰であろうと不安が溜まる物です」


力説しながらもレイジの顔色を伺う彼。下手に出るしかない現状を歯痒く思いながらも何とか己を律し、向けそうになった銃口を下ろす。


「これならオレが守らなくても問題は無いな。宜しく頼むぞ」

「ええ、こちらこそ」

「ところで、閃光を放つ玉は作れるか?」

「作れますが、少数しか作れません」

「頼む。オレはこのギャングを刑務所に送る」

「お願い致します」


巨漢を軽々と担ぎ上げながら壁を登って行ったレイジを眺め、彼はつくづく相手にしたくない相手だと考えた。

【紳士】

医者の家系に生まれ、母の魔術師としての才と父の外科医の腕を受け継ぐ。少年時代から常に笑顔を絶やさず皆から好かれていたが、当時から既に自己顕示欲と商人欲求は高かった。学業を終えた後家業を捨て商人へ。

後に先天的な勃起不全と判明するが、三日で立ち直る。

全ての行動の底には自分を見て欲しいと言う思いがあり、それが時に危険な行動を取らせる原因にもなっている。


身長177.9cm 78kg

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ