電光石火:冷酷な華
【フェイク】
人並み外れた身体能力を持つ、経歴不明の騎士。騎士であるかどうかすらも不明で、接近戦と魔術、そして騙す事を得意とする。
剣術に優れており、垂直な壁を登る身体能力から繰り出される斬撃は獣の毛皮すら切り裂く。秀でた頭脳も持っているらしいが、詳細は不明。
身長182,8cm 体重87,5kg
「始めるなら早くしろ。私も暇ではない」
鍛冶屋から受け取っていた修理済みの剣の試し斬りをしながら、彼は自分に果たし状を突き付けた盗賊を睨み付ける。
「おれは元貴族だ。国ではおれに敵う剣術使いは居なかったし、ここでもそうだ。お前は厄介な魔術を使うが、無しだとどうかな?」
「御託を並べるなら私は帰るぞ」
剣を携え、今にでも斬り掛かりそうな気迫の男とは反対に彼は闘志すらも見せない。一応は来たものの決闘も男もどうでもよく早く終わって欲しい。彼からそんな言葉が感じ取れる。
「おい、この縄を解け! そいつとは戦うな!殺されるぞ!」
「だそうだが?」
木に縛り付けられたバレットが中止を訴えるが、男は聞く耳を持たない。今になって引けば格好が悪くいい所を見せられないと気にしているのだろう。
「まずルールの確認だ。互いに使用するのは一つの剣のみ。間違っても銃や短剣を使うな。それから魔術の使用も禁止だ。手助けも不可」
律儀に再度のルール確認をし、男は彼の腰を睨む。ベルトには銀色の拳銃と一振りの短剣が取り付けられており、それを抜く事を危惧しているのだろう。
「そう睨むな、怖いだろう」
戯けた調子で銃と短剣を離れた場所に置く彼。これから殺し合いが始まると言うのにふざける余裕がある事が男の怒りを激しくさせる。
彼は決闘直前だと言うのに呑気に欠伸をし、舐められていると分かった男の顔に怒りが浮かぶ。自然と男の剣を握る手に力が込められる。
元貴族と彼が相対し、辺りに静寂が訪れる。中止を訴えていたバレットも無駄だと判断し不安そうにしながらも成り行きを見守っていた。
先に動いたのは男。とは言え、彼は決闘の最中だと言うにも関わらず騒がしく鳴き続ける奇妙な鳥を観察していたのだから男が先に動くのは当然なのだが。
横薙ぎに振り、彼がそれを防いだ瞬間真上から続け様に振り下ろす。確かに素早く巧みな動きではあったが、彼は振り下ろされる剣の刀身を横から攻撃し軌道を反らす。金属がぶつかり合う甲高い音が響き、男の体勢が崩れた。
よろめいた隙を逃さず男の腹に蹴りを入れ、体が折り曲がった瞬間胴体を蹴り飛ばし地面に転がす。これで彼は簡単に男を殺す事が可能になったが、殺すだけなら最初に体勢を崩した時点で出来ていた。
彼は腹を抑えながら立ち上がる男を無視し先程拳銃と短剣を置いた場所へ疾走。それに気が付いた男がさせまいと接近するが、彼が拳銃を拾い上げる方が早かった。
森に一発の銃声が鳴り響き、不穏な静寂が訪れる。肉体を支える力を失い倒れ込む男、死体に剣を突き立てる彼。
卑怯。そうとしか言い様がない。一瞬で終わらせられた物をわざわざ銃で仕留める、相手の尊重など全くしていない汚い戦い方。気分が悪くなる様な話だが、事実彼はそれ程の余裕を持てる強さを持っていた。
「これで分かっただろう。貴様達は私の足下にも及ばない小物だ。騎士道精神? 卑怯? 殺し合いに規則を持ち込む方が愚かなのだ。詰めが甘い」
短剣を鞘に、拳銃を腰のホルスターに収め剣に付着した血糊を払う。盗賊達は今にでも襲い掛かりたい気持ちを抑え、静かに彼に憎悪を向けていた。
「縄を解け! 早くしろ! 殺されるぞ!」
「全く元気なお嬢さんだ。生憎だが私は痛みを与える事は好みではない。苦痛を感じない様に善処しよう」
周囲の盗賊に必死で訴えるバレットと、彼女にゆっくりと歩み寄る彼。穏やかな口調ではあるがその内容は物騒極まりなく、目には殺意が浮かんでいる。徐々に近づいて来る事が余計に焦りを加速させて行く。
何の戸惑いも無く銃の引き金を引いた男だ。人の肉を剣で断つ事にも躊躇はしないだろう。焦り嫌な汗をかく様子を観察する様に少しずつ、一歩一歩慎重に近寄って来る。
盗賊の一人が彼女に駆け寄りナイフで縄を切断する。同時に彼が前傾姿勢を取り重心を前に移動させ駆けた。しかしそこで彼は違和感を感じる。
微風程度だった物が次第に強まって行き、木々の枝を動かす冷たい風に。更に強まり大木を揺する強風へ。走る余裕など無くなった時に、彼は気が付いた。彼女が目を閉じ集中している事に。
驚愕の言葉を発そうにも、一時でも気を抜けば後退してしまう強風。前進する事も拳銃を使用する事も出来ない状況であり、予想外の事態に彼は平常心を失い魔術すら使えない。
一際大きな風が吹いた。容赦無く体に叩き付けられる重く冷たい風に彼が仰け反り、辺りに散乱する枝が暴風に乗り彼に襲い掛かる。
木の葉が甲冑の合間を縫って肌を切り、枝が脚や肩に突き刺さった。鋭く、絶え間無く襲い来る激痛が体を駆け巡り彼の脚に込められていた力が抜ける。
風に押され、彼は抵抗すらも出来ずに仰け反ったまま後退してしまう。自然とは時に猛威を振るい、人間如きの力では対抗不可能。それは彼も例外ではない。
太い木の幹に拘束されそれ以上退がる事も体を腕で庇う事も出来ず彼は全身に自然の洗礼を受け血液を流す。
油断した。相手の力量を見誤った。力の差を見せ付けているべきではなかった。拠点で殺しておくべきだった。詰めが甘かったのは…………
目前まで迫った死を受け入れるべく目蓋を閉じた彼は、異様な音を耳にした。土砂崩れが起こった様な、爆発にも似た激しい音。目を開けば、そこには天を貫く様に聳え立つ岩の柱と、打ち上げらたバレット。
暫しの間呆然としていた彼だったが、すぐに何が起こったのか、何故こうなったのかを理解した。
目を大きく見開き呆気に取られる盗賊達の目と鼻の先にバレットが背中から落下し、衝撃と痛みから身悶えする事すら出来ずにいる。
緊張が解け木に体を預けたまま座り込む彼を、盗賊達は化け物を見る目で遠巻きに見ていた。先程の岩の柱は彼が魔術で出現させたと思っているのだ。
「アイツは……アイツは化け物か!?」
「逃げよう、このままじゃ殺される!」
「頭を差し出せば見逃してくれるかもしれない!」
「名案だ!」
頭を犠牲に、自分達は助かろうと言う会話をする盗賊達。それを聞く彼は鼻で笑うと同時にメットの下で嫌そうに顔を歪ませる。そんな事を知らずに、盗賊達の代表が気絶したバレットを引きずり彼に恐る恐る近寄る。
「あ、あの……頭を貴方に渡します。頭は美人ですし、体付きも悪くはないので、きっと満足して貰えます。だから、見逃して貰えませんか?」
慎重に言葉を選びながら紡ぎ出された言葉は殆ど彼に届かず、届いたのは「仲間を売るから殺さないで」と言う事だけ。それが彼の逆鱗に触れた。
「私が嫌いな物は……人間、蜘蛛、牛肉に暗闇。そして、裏切り者だ」
最後まで言い終わらない内に、盗賊達は気が付いた。触れてはいけない琴線に触れてしまったのだと。次の瞬間木に寄り掛かっていた彼の姿は無く、代表者の胸を短剣で貫いていた。
ゴミでも捨てるかの様に死体を地面に転がし、彼は盗賊達に手の平を向ける。その目は街のギャングや物乞いに向けていた物よりも冷たく、酷い嫌悪を感じさせた。
「貴様達には死さえも生温い。裁きとは徹底して下されなければならない。例えそれが道理から外れていたとしても。貴様達は後悔するだろう。生まれて来た事を」
手の平から青い光が薄く放たれ、瞬間的に強まった光が放射状に広がり消えた。盗賊達は自分の体を確認するがどこも変化は見られず、死ぬどころか傷一つ付いていない。
疑問を抱き何度も体を調べる盗賊達を放置し、彼はバレットを担ぎ上げ荒れた森の中を突き進む。突風で運ばれた枝が足の下で音を鳴らし鳥のさえずりすらない森に響く。
初めは利用し、用が済めば殺そうと思っていた。盗賊の頭が死んだとしても悲しむ者は誰もいない、消えても捜索される事も無い。だが今となっては、殺す気など微塵も起きない。
仲間に裏切られ、売られ、信じていた者達に捨てられる苦しみは自分も知っている。大切な仲間を失う悲しさも。魔術の強さは感情の強さ。あの風の強さを体感すれば、この女がどれだけ仲間を思っていたか分かる。
何時の間にか彼女に同情してしまっている事に気が付いた彼は、自分を嘲笑う。人間を殺すと言っておきながら、こうして必死に助け様としているのだから。
過去の自分と重ねてしまい、その辛苦が蘇り、殺す気にも置いて行く気にも彼はなれない。もし彼女が起き、仲間に売られたと知れば深く一生癒えない傷となる。それを味合わせたくない。
「フェイクさん一体どうした? その背負ってる女の人は?」
村人の声を無視し足早に家への道のりを辿り扉を勢いよく押し開ける。音に驚き顔を出したジアルに反応する事も無く、自室として与えられている部屋のベッドへバレットを寝かせた。
「フェイクさん、その人は?」
「……盗賊に襲われていた女性です。今は気絶していますが、暫くすれば目を覚ますでしょう」
不思議そうにバレットを見るジアルをリビングへと移動させ、大人しく椅子へ座らせる。外ではけたたましい鳥の鳴き声とストレングスの呻き声が聞こえ、夕食の食材を調達しているらしかった。
「フェイクさん、その傷どうしたんですか!? 早く治療しないと!」
肩に突き刺さる枝に気が付いたジアルは慌てた様子で治療道具を取りに向かい、彼は面倒な事になったと溜息を吐く。枝を強引に引き抜くと血が噴き出しはしたものの、傷口は小さい。
どう見ても成人男性ですら運ぶのに一苦労しそうな道具一式を手に走って来たジアルは、急いで薬草の片面を液体が滲み出るまで石で擦り、その面を傷口に当て包帯で巻く。
「他に怪我はありませんか? あ、こっちにも! 動かないでくださいね、少し痛むかもしれませんよ」
不慣れな手付きながらも傷を手当てして貰えるのは彼としても喜ばしい事だが、人間よりも優れた回復力を持つ身としては必要の無い行為だ。
「手間を掛けさせてしまい申し訳ありません。私は大丈夫です、これ位の傷で死にはしません」
「何を言ってるんですか、傷口から菌が侵入したら大事になりますよ! 大人しく治療されてください!」
中止させる為に置いた手を払い除けられ、彼は少々驚いた様に目を見開いた。その後静かに笑い、抵抗を止めなされるがままにされた。
「出来る事ならばいつまでもこうして過ごしていたい物です。ここは居心地がいい。不思議と落ち着き、敵など居ない様にすら思えてくる。ですがいつかはここを離れなければなりません。例え嫌われ様と、離れて居ようと私は、ジアルさんの成長を見守っています」
突然訳の分からない事を話し出した彼を、ジアルは不思議そうに見る。それが別れを意味する言葉だと理解した彼女は、いたずらに笑った。
「本当にこの村から出て行けますか? ずっとここに居てもいいんですよ? どうせなら私をお嫁さんにしますか?」
「それもいいかもしれませんね。ジアルさんの様な可愛い女の子なら大歓迎です」
冗談のつもりで言った言葉にある意味プロポーズとも取れる内容で返され、ジアルは思考を停止する。全く意味を理解出来ていないのか、純粋に戸惑っていた。
「え、その……え?」
「冗談です。そんな生き方も悪くはないでしょうがね」
「あの……よろしく、お願いします」
とりあえず頭を下げたジアルを見て、彼は優しく笑い肩を叩く。彼女も釣られて笑い、室内には二人の笑い声が響いた。外からはストレングスの雄叫びが聞こえる。
違和感を感じ取ったジアルか窓の外を見る。そこに一瞬、赤い鎧が見えた気がした。
新キャラを出す癖は治さなければ……次はレイジの話を投稿する予定だ
フェイクの過去や性格などは追々分かって来るだろう。最も全ての過去を明かすつもりはない。想像の余地はあった方が面白いはずだ。




