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盾を刃に  作者: 暗殺 中毒
因縁の歯車
10/21

電光石火:決意と怒り

【悪魔狩り】

忌むべき存在とされるアズラエル一族を根絶やしにする為の行為。しかし今は異端者をアズラエルとして拷問し殺害すると言う、邪魔者を排除する行為を指す。


罪の無い市民ですら悪魔狩りの被害者となっているが、大多数の者は自分には関係無いと重大視せず処刑を楽しみにすらしている。血走った目で人が死ぬ様を見る様子は、何かに操られている様にも見える。

顔は怒りで歪められ、何度も剥き出しの岩肌を殴ったせいで血が滲み出している。幾ら物言わぬ壁を殴った所で、あの男を倒す事はおろか止める事すら出来ない。


バレットは自分の仲間達に目を向け、よりその怒りをつのらせる。閃光を直視した者は未だ目の痛みを訴え、これから先見える様になる事は無いだろう。同士討ちで死んだ者も居た。全てあの男、フェイクが原因だ。


始めは、あの村に運び込まれた時は足を踏み外す間抜けな奴としか思っていなかった。やがて幸せそうに笑っているあの男が羨ましくなり、勝手に穏やかな青年だと勘違いをした。実際は、冷酷な殺人鬼。


今でも少女と熊の様な大男と過ごしていた時の笑顔が偽物だったとは思えない。それ程までにあの男の演技は完璧であり、無害だと判断していたからこそこんな遅れを取った。


バレットは何も口にする事無く、ただ目頭を押さえ今にも溢れ出しそうになる悔し涙を懸命に堪える。宣戦布告と言っていたあの男は必ずまた現れる。そして仲間を皆殺しにして行く。


「バレット……何をそんなに悔しがってるんだ?」

「俺が、俺が軽はずみに拠点に逃げて来たから、あの男にお前達の居場所がバレた。あの時ただ逃げる事しか出来なかった事が悔しくて、対抗する事すら出来ないのが悔しくて」

「お前のせいじゃない、いつかは仲間から場所を聞き出しここに来てた。あいつに手出し出来なかったのはおれ達も同じだ。何もかも背負う必要なんて無い」


男の慰めにより感情が少し安定して来たのか、壁にもたれ座り込む。しかしそれでも後悔は消えないらしく、握り締めた拳に爪が食い込み腕が震えている。


「お前がどれだけ強くたって、結局人間だ。どう頑張ったって勝てないやつは居る。何でもかんでも一人で抱え込めばいつかは限界が来る。おれ達は仲間だ。少し位頼ってくれ」

「確かに、俺は一人で解決しようとする癖がある。今までも極力お前達に頼ろうとして来た。それでも、今回ばかりは無理だ。見ただろ、あの男の魔術を! 今までの人生であんな魔術を見た事があるか!?」


バレットの反論に、男は掛けるべき言葉を見失う。フェイクが常軌じょうきを逸脱した魔術を駆使する事はまぎれもない事実であり、彼女含め盗賊達はその力の前に翻弄ほんろうされる事しか出来なかった。


頭としての責任、居場所を教えてしまった責任、フェイクが原因とは言え死傷者が出てしまった責任。それらの重圧はバレットに重りの様にのしかかり、冷静な思考を奪う。


これがただの魔術ならば、バレットは臆せず立ち向かい仲間と共に制圧していただろう。だがフェイクは、瞬間移動と目(くらま)しと言う厄介な魔術を持っている。更に彼は一度も近接戦闘を仕掛けていない。反撃するには未知の領域が多過ぎる。


考えれば考える程にフェイクに圧倒され、どう足掻あがこうと無駄だと結論付けてしまう。その度にバレットは自分の無力さを呪い、女に産まれた事を悔やんだ。


「俺が、俺が男に産まれていれば……」

「バレット、待っててくれ。すぐに戻る」

「どこに行くんだ? まさかあの男に勝負を挑むつもりか!?」

「違う、薬草を取りにだ。お前のその手は見てられない」


血が滴り落ちる手を優しく触り、男は拠点から出て行く。その優しさを実感し改めてバレットは自分に責任を感じていた。


微かとは言えフェイクの言葉に心を動かされてしまった自分を恥じ、頭を抱える。どれだけ強かろうと誰も自分の望みを叶える事なんて出来ないのに。


男に産まれたかった。そうすれば両親に愛して貰えた。男に産まれれば魔術に頼らずとも生きていけた。だがそれは叶わない。


思考を切り替え、まず何をするべきなのかを懸命けんめいに考える。最優先すべきは仲間の避難。このまま拠点に居座り続ければ間違いなく殺される。


避難するにしてもこの辺りには猿の獣が出現する。ここ最近は現れたとの報告は無いが警戒はするに越した事はない。もし獣が居たなら、拠点から離れる前に襲撃され全員が死ぬ。最も獣化した猿はフェイクの手により殺されているのだが、彼女達は知らない。


そこでバレットは妙な視線に気付いた。全身を舐め回す様な寒気のする視線。フェイクの時とも獣と遭遇した時とも違う違和感。それはどうやら混乱した仲間に傷付けられた盗賊の物らしかった。


他の者達がせわしなく道具の修理や怪我人の手当てをしているかたわらで少人数で固まる盗賊。声を低め話合っている為バレットには聞こえて来ないが、いい話ではないのは確かだ。


彼女にはその視線にどこか覚えがあった。そう、夜の街で酔っぱらい達が娼婦に向ける様な、それとよく似た視線。そこまで思い出した瞬間、彼女の体に悪寒が走る。


街に居た頃は別に珍しい事ではなかった。だが仲間にそんな視線を向けられるのは初めてであり、共に同じ時を過ごし気心の知れた仲間だからこそそんな目で見て欲しくはない。


バレットの思いは届かず、止めるどころか徐々に距離を詰めて来ている。当然周囲の者も気付かない訳ではないが、特に何かが起こっていたりするでもない為気に留めない。


壁伝いに後ずさりしていた彼女だったが、気付けば洞窟の最奥地にまで到達してしまっている。これ以上は下がれず、また仮眠所となってるいる為に松明たいまつが無く辺りは暗闇で満たされていた。


「おい、考え直せ。今はそんな事をしてる場合じゃないだろ。あの男に備えないと」

「そうだな、お前が連れて来たあの化け物に備えないとな。どうせ皆んなすぐ死ぬんだ、最後くらい楽しませろ」

「お前のせいでオレのダチは一生目が見えなくなっちまった、その体で償えよ!」

「今までだってずっとグチャグチャにしたいと思ってた。今やっとそれが叶うんだ、別にいいよな?」


好き勝手な事を言う盗賊を見て、バレットの思考は停止する。何を言っているのか理解出来ない、したくない。理解すれば信じていた物が壊れてしまう。


彼女が上手く状況が飲み込めずにいるのをいい事に、盗賊は素早く押し倒し体を押さえ付け、強引に唇を奪う。相手の事など全く考えない自分の欲求を満たす為だけの行為。


服を脱がされ、荒く乳房ちぶさを揉まれた時になり漸く現在の状態を理解するが、それと同時に涙が流れた。信じていた仲間に暴行される事への悲しみ、こんな事をする様に変えてしまったフェイクへの怒り。


耳を執拗に舐められ粘着質な音が脳内に響く。それが今の状況をより鮮明に把握させ、悲しみと怒りを増幅させる。


バレットはただ仲間の変化を嘆き、抵抗もせずにされるがまま。その結果盗賊達の行為は激しくなり、下半身にまで手を伸ばす。少しでも抗えば変わったかもしれない状況を、彼女自身が悪化させた。


下品な水音が洞窟の奥で反響し、それが盗賊達の興奮を煽り昂らせる。気分を良くした盗賊はおもむろにズボンの中へと手を入れ、ソレを出した。


途端、バレットの付近で発生した風により手足を押さえていた盗賊がけ反り拘束が緩む。その隙に彼女は盗賊の腰から短剣を引き抜き、今正に挿入し様としていた盗賊の喉を切り裂いた。


たった数秒の出来事。そして残りの盗賊を殺すべく彼女は短剣を振り、鳩尾みぞおちに突き刺し頚椎けいついを貫き顎下から突き上げる。


ゆっくりと仲間だった(・・・)死体から短剣を引き抜き、鋭い刃に付着した血液を眺める。先程まで動き、呼吸していた者はもうまばたき一つすらしない。


殺してしまった。自分の手で。責任を感じても結局は自分の身が可愛い事に嫌悪感を覚え、同時に非道なやからを排除出来て清々しい気分でもある。しかし一番大きかったのは、仲間が変わってしまった悲しみ。


あの男さえ現れなければこうして仲間を殺さず、何時も通りの日常を過ごす事が出来ていた筈。殺してしまったのはあの男のせいだ、自分は悪くない。そう思う事でしか、心を安定させられない。


「う、うぅ……」


彼女は吐いた。胃の中の物を全て吐き出し、胃液だけになっても吐き続けた。苦しさから目尻に涙が浮かび、酸欠になりながらも。一度収まり、死体を目にしまた吐く。


彼女は知らない。自分が男達にどんな目で見られているのかを。切れ長の目、形の整った眉、厚みのある唇。凛とした美しい顔立ちと似合った短い髪を見れば、どうして盗賊をやっているのか疑問に思わざるを得ない。事実男の大半は彼女が目当てだった。遅かれ早かれ、この事件は起こっていた。


吐き出し尽くし、体力が限界近い中で彼女は身なりを整え仲間だと信じている者達の下へ歩く。決意を伝える為に。


「バレットさん一体どうしーーえ?」


頼りなく歩いて来る彼女に気が付いた女性は言葉を失う。手には今さっき獲物を斬ったばかりの短剣を握り、乾いていない赤黒い液体を浴びた様を見れば、誰であろうと同じ反応をしただろう。


女性を始めとして周囲にもざわめきが広がって行き、しかし今にも泣き出してしまいそうな彼女に声を掛ける者は誰も居ない。


もう彼女には全てがどうでもよかった。ただフェイクに復讐さえ出来ればそれで。例え死ぬ事になろうとも少しでも報いる事が出来るならば構わない。


「……あの男を、殺して来る」

「バレットいったい何がーー」

「どけ!」


止め様とした仲間を突き飛ばし、フードが被り出口へと一直線に歩く。彼女から放たれる怒気が周囲の者を萎縮いしゅくさせどう対応すればいいのか分からなくさせる。しかし彼女が洞窟から出る事は叶わなかった。


「バレット、その血は何だ?」


丁度戻って来た男が彼女の前に立ち塞がり、足止めをしている。その表情にはただ悲哀ひあいだけがあり、血で染まった彼女を悲しげに見続ける。


無視して進もうとした彼女だったが、男は腕を引き寄せ妨害した。盗賊を束ねているとは言え、所詮は女。男の筋力に勝つ事は出来ずに先へ行けない。


「バレット、明日あいつと決闘する。必ず勝つ。だから見ていてくれ」

「決闘……? 嘘だろ、嘘だと言ってくれ! お前が死ぬ所なんて見たくない!」


仲間の力を知らない訳ではない。だがフェイクは街のギャングや警官とは格が違う。明日行われるのは決闘と銘打った虐殺劇だ。


殺されると分かっておきながら野放しにする程彼女は冷たくはない。だが幾ら説得を試みても返って来るのは無言と悲しげな視線だけ。


フェイクさえ現れなければ、こんな事にはならなかった。仲間が彼女を襲う事もなく、共に暮らした仲間を殺さずに済み、死ぬと分かっている事をする決意もさせずに済んだ。


「おれも元は貴族だ。何で盗賊になったと思う? お前に惚れたからだ。着いて行きたいと思った。側に居たいと思った。安心しろ、故郷ではそれなりに名の知れた剣術家だった」


彼女の耳に男の声は届かない。揺るがぬ決意を胸に刻み、これ以上仲間に手出しさせないと誓った彼女には。


果たして、二本の刃はフェイクに突き刺さるのだろうか? 決意と怒りと言う名の、二つの刃は。

【貴族】

階級によっては国王に匹敵する程の権力を持つ人々。労働者階級よりも上に位置し、国家に功労が認められた場合にのみ貴族となる特権を得る事が出来る。


貴族の大半は魔術の道へ進むが、稀に進んで騎士となる者も居る。どちらにせよ国から課された目標を達成しなければ地位を剥奪はくだつされる為、貴族は皆一様に訓練に励み豊富な知識を持っている。


魔術師としての才能を持った騎士は魔導騎士と呼ばれそれだけで好待遇を受ける事が出来る。国は常に英雄を欲しており、民もまた身近な偶像を望んでいるのだ。

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