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04

翌朝目覚めてもまだどんよりと体に痛みが残ったままだった。

重い体を起こしてパジャマから制服に着替える。食欲はなかった。

「お母さん、食欲ない」

そう告げると母親が目を吊り上げ、苛立ちも露わな声で言う。

「もう用意しちゃったのよ。作る側の身にもなりなさい!」

「...ごめんなさい。いただきます」

砂を噛むように味のしない朝食をなんとか口に詰め込み咀嚼する。飲み下すのは容易ではなかった。

「ごちそうさまでした」

なんとか朝食を食べ終え家を出る。


教室のドアはいつもより重く感じた。

「おはよう、まきむー!」

山口の声が不快だ。しかし無視するわけにもいかない。

「おはよう、山口さん」

「やだー、山口さんなんて。前は杏奈ちゃんって呼んでくれてたじゃん」

吐き気が込み上げてくる。それでも笑顔らしき表情を必死に作り言う。

「ごめんね、杏奈ちゃん」

「いいっていいって」

そう言って山口は肩を組んできた。もう限界だった。

「ちょっと具合悪いから保健室行ってくる」

そう言って山口の腕を肩から外して教室を出ようとすると、背後から舌打ちが聞こえた。

一瞬固まるが気づかないふりをして急いで教室を出て保健室へ向かう。途中、トイレに寄り胃の中身を全て吐き出した。


「おはよう、槙村さん」

寒河江先生は今日も穏やかな笑顔で私を迎えてくれた。

「あら、顔が真っ青よ。どうしたの?」

「あの、具合が悪くて吐いてしまって」

「まぁ、大変。ちょっと座って待っていてね。白湯を飲みましょう」

ぱたぱたと歩き回り茶碗に白湯を用意して渡してくれた寒河江先生の手は温かかった。その体温で強張っていた心が少しほぐれる。

少しずつ白湯を口に運んでいる間、先生はベッドの用意をしてくれていた。

「あら、ちょっと顔色がよくなったようね。でももう少し休んでいきなさいな。山田先生には伝えておくから」

「...ありがとうございます」

「先生ね、これからちょっと会議があるから私が戻るまで寝ていてちょうだい」

「わかりました」

先生は頷くとベッド周りのカーテンを閉め保健室を出ていった。

山口の声を聞いた時に感じた吐き気はすっかり治まっていたが、寒河江先生の好意に甘えるのもいいだろう。

昨夜ほとんど眠ることが出来ず朝を迎えた為、保健室のベッドで横になると安堵からか速やかに眠りが訪れた。

どれくらい眠ったのだろう、私はふと人の気配を感じて目を覚ました。

カーテン越しに見える人影は華奢な少女のようだ。カーテンが動き、顔が覗く。

「あ」

思わず声が出る。川辺で一緒にお弁当を食べたあの子だった。

「元気じゃないね?」

彼女が言う。私は曖昧に頷く。

彼女は今日も白いワンピース姿だった。

「ね、一緒に屋上へ行かない?」

続けて彼女が言う。

「先生が戻ってくるまでここにいなきゃ」

「いいじゃない、別に。ほら」

彼女は私の手を取って起きるよう促すので頷いてベッドから出て上履きを履く。

授業中の校内は静かだった。そっと体を屈めていくつかの教室の前を通り、屋上へ向かう。

屋上に出るドアの鍵は壊れていた。彼女は躊躇いなくドアを開けると私に笑いかける。

促されて屋上に出てみると抜けるように高い空が広がっていた。

「天気いいね」

彼女の言葉に頷き笑い返す。

私の学校の校舎は古く、屋上にはフェンスなども設置されていない。

彼女はバランスを取りながら屋上の縁を歩き始めた。

「危ないって。やめなよ」

慌てて止めるが彼女はくすくすと笑うだけでやめようとしない。そして片方の手で私の手を取って歩き続ける。

それは突然だった。縁を歩く彼女が大きくバランスを崩したのだ。

彼女が落ちてしまう。そう思った私は思いきり彼女の手を引く。

引いた勢いが強すぎたのか私は大きくバランスを崩し彼女と体を入れ替える形になってしまった。

ワンピース姿の少女越しに見える高い青空。それが私の見た最後だった。

拙作をお読みくださりありがとうございます。

励みになりますので、是非感想や評価をお寄せ下さい。

よろしくお願いいたします。

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