03
白いワンピースの少女と別れた後、私はとぼとぼと重い足取りで帰宅した。
「ただいま」
私は呟くように言うが母親はリビングでテレビを見ていて振り返りもしない。どうせよくあることだ。
リビングを通り抜け自分の部屋へ入ると思いがけない光景を前に唖然と立ち尽くす。
たまにつけている日記用のノートがびりびりに破かれて部屋中にばらまかれていた。
背後に人の気配を感じると振り返る間もなく後頭部を殴られ、衝撃に思わずしゃがみ込む。
「お前、俺のこと馬鹿にしてんのかよ」
低く恫喝するような声は兄だ。思わず両手で頭をかばうようにすると今度は背中に兄の蹴りが入る。
「ふざけんなよ」
兄は吐き捨てると自室へ戻っていったが私はあまりの痛みにしばらく動けずにいた。
それでも母親は何事もないかのようにリビングでテレビを見ている。
誰も助けてくれない事はわかっていた。それでもその事実をあからさまに突きつけられると胸に鋭く痛みが走る。
なんとか立ち上がり部屋へ入ると体の痛みに耐えながら制服を脱ぎ捨て部屋着に着替える。
いつもなら本の世界に逃げ込めば現実を忘れることが出来たが直截な痛みはそれを許してくれなかった。
ベッドに横になり身体を丸めて痛みが治まるのを待つ。結局夕食に呼ばれるまで私はそうしていた。
重苦しい夕食時をなんとかやり過ごしそそくさと入浴を済ませ部屋に戻る。
もう背中の痛みはひいていたので思う存分私は本の世界に浸ることができた。
「穂乃果、いつまで起きてるの。早く寝なさい!」
母親の声が私を現実に戻す。どうして誰も彼も私を放っておいてくれないのだろう。
「穂乃果!」
母親の声に強い苛立ちが混じる。
「ごめんなさい。おやすみなさい」
急いで答えるが、その返事だけで満足したのか母親はドアを閉め何も言わずに立ち去っていった。
深夜。
ふと目が覚めて私は気がつく。ベッドサイドに男が立っていた。
あまりの恐怖に声にならない悲鳴が掠れて漏れる。男は私の口を急いで塞ぐと私に馬乗りになる。
いつの間にか掛け布団は剥がされていた。暗闇に目が慣れ男の顔が判別できたが、それは一番信じたくない事実だった。
「穂乃果、声を出すんじゃないよ。お母さんに知られたくないだろう?」
涙がこめかみを伝う。
「お父さん、穂乃果のことが大好きなんだ。お母さんの若い頃にそっくりだしな」
父の両手が私のパジャマのボタンを外していく。
「お父さん、やめて」
なんとか絞り出した声は震えて掠れていた。
「大丈夫だよ、いい子でいれば痛いことはしないよ」
「いや!」
のし掛かってくる父の体を懸命に押しのけようとすると父の形相が変わった。
右頬に衝撃を感じたかと思うと追いつくように痛みがやってきた。
「穂乃果、いい子にしなさい」
一瞬見せた恐ろしい表情が嘘のような笑顔と優しい声で父は言う。
右頬に受けた平手打ちで抵抗する気力が挫ける。何よりも笑顔でこんなことをする父が恐ろしくてたまらない。
私の諦めた表情に父は満足げな笑みを浮かべて獲物の体をまさぐる。
事が終わると父は私の髪を撫でて言う。
「これは二人の秘密だよ、いいね?」
私は体の中心に鈍い痛みを抱えたまま頷き体を丸める。父は私に布団をかけると静かに部屋を出て行った。
ずっと続く鈍い痛みと恐怖に私は再び寝付くことが出来ず朝を迎えた。
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