傘の魔女~12~
「一体、何の用ですの?」
こんな田舎町まで、私を追ってきたというのか?
勿論、彼は私が殺した。
正確には殺したように見せた。
死体などいくらでも偽装が可能だ。
軍に戻れないのは彼も同じ。
だからといって、私の元へ来る理由が分からない。
“あの人”の信奉者、協力者、僕、呼び方は様々だが、それらは、皆各々行動をする。
基本的には別行動で、特別な呼び出しでもかからない限りは一緒に行動することはない。
では、何故彼は今ここにいるのか?
「理由が知りたいのですよ俺は。水の女神、リュコリス。貴方はミヒャエルという男を愛していたのでは?」
久しぶりに呼ばれた私の本名は、長く人から忘れられていたからか、自分のモノのように思えなかった。
「理由など知ってどうするのです? 理由など、どうであれ、事実は変わりませんわ」
淡々と言い放すと、彼は苦笑した。
「単純に、知的好奇心ですよ。愛した者を殺すのは何故なのか?」
ウピルは一歩、また一歩と私に近づく。
「貴女は、この何十年かで、随分人間らしくなった」
人間らしくなった?
私が……?
「意外そうな、顔をされていますね」
嘲るような表情を浮かべたウピルを睨み付ける。
そして、殺気をウピルへ向けて放つ。
この距離では無傷ではいられないかもしれないが、私のほうが彼よりも強い。
「おっと……、怒らないでください。……ですが、ご自分で気付かれていないとは……。何故、人間に手を貸しているのです? 古き神ともあろう貴女が」
「それは、貴方もではないかしら? 吸血鬼にとって人はエサだと思っていたけれど」
そう言い返せば彼は肩をすくめてみせる。
「人が牛や鶏の生態を研究するのと同じですよ」
単なる探求心と言いたいのか?
彼から目を海に目を向ける。
波は静かに音もたてずに、揺れる。
浜辺なら波の声が聞こえただろうが、ここでは揺れる様は見れても、声は聞こえないーー。
何故、ミヒャエルを殺したのか?
そんなこと、私にだって分からない。
もう引き返せなかった。
戻れなかった。
後戻りは許されなかったのだ。
理由があるとしたら、それだけ。
でも、そんなことをこの男に教えてやるつもりはない。
私が黙っていると、彼は諦めたらしく、
「まぁ、答えが聞けるとは思っていませんでしたよ」
と言った。
振り返れば、そこにはもう姿はなかった。
彼が立っていた場所には砂で、文字がかかれていた。
“恋は盲目。その盲目さは、貴女の命をも奪うかもしれませんよ”
砂の文字は強く風が吹くと、一瞬で消えてなくなった。
盲目? 私が?
ミヒャエルがいなくなったというのに、一体誰が私を殺しにくるというのか?
軍? 警察? それとも、人の国か?
どれも、私の脅威になりはしない。
誤字脱字がありましたら、指摘お願いしますm(__)m