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傘の魔女~11~

元々、傘の魔女と呼ばれていたのは私のほうだった。

日差しに弱い私は、常に日傘を差していた。

晴れの日も、雨の日も、曇りの日も、雪の日も。

いつも傘を差している私を人々は傘の魔女と呼んだーー。



* * * * *



潮風が冷たかった。

ここは、セオリア帝国の東端。

完全な東というよりは、やや南東に位置する場所にある港町。


私が今いる場所は、船が出入りする場所からは、少し離れた場所にある為か人気がなかった。



静かだけれど寂しい場所。

そんな印象を受けた。




ヴィレイユにあった屋敷は捨ててきた。

もう戻るつもりはない。



軍はすでに屋敷を調べている。

どうせ、疑われていたのだ。

戻れるなどとは、思っていない。



ロゼモネア・オッフェンバーグの人生はもう終わり。

お遊びもここまで、ということだ。



新しい服に着替え、髪もきちんと結い上げた。

白いフリルをあしらったブラウスに赤みがかった濃い茶色のジャケットと、鮮やかな赤色のロングスカートという簡素な服装だ。



元々、私は貴族でもない。

ロゼモネアを演じるにあたって必要だっただけで、貴族の生活も飽き飽きとしていたのだ。


動きの制限されるドレスはもう懲り懲り。

マナーにうるさい食事も、無駄な礼儀ももうウンザリ。



ちょうどいい機会だ。

全て捨てよう。やめてしまおう。

全て、私には不釣り合いだったのだ。




「……何故? と聞いても?」




唐突な疑問を投げ掛けられ、振り返る。

そこにいることは気付いていた。

私の邪魔ばかりする私達に愛されなかった人。





「ウピル。お久しぶりですわね」




寝癖なのか、あちこち跳ねた茶色の髪と、いたずらっ子のようにキラキラ光る青い瞳。



「いえ、……ガーゼルとお呼びしたほうがよろしいかしら?」




「貴女にはそう呼ばれたくありませんね」



苦笑しながらそう言った。


軍では、ガーゼルと名乗り、ミヒャエルの一番側にいた男。

私達には、ウピルと名乗る“あの人”の協力者。




彼は右手を左胸にあてて、お辞儀する。



「今まで通り、ウピルと。そちらが俺の本名ですので」



お辞儀の体勢のまま、顔を少し上げてウィンクして見せる彼。


少しキザでこびを売ってくるような彼の態度が、無性に苛立たしかった。






神に愛されなかったヒト。



忌まわしき不死身の化け物。





吸血鬼ーー。




それが、彼の正体。



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