表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/90

傘の魔女~10~

 全身を痛みが支配する。



 右腕、それから左足。左側の腹部と心臓の近く。


 ズキズキと痛み。血が流れ出ていくのを感じた。




 心臓がバクバクと脈打っている。




 ああ、何と久しい感覚だろう。




 地面に横たわり、土に顔をつける。

 こんなことは、何十年、いえ、何百年ぶりでしょう?




 瞼をそっと開けば、視界には氷の槍に腹部を貫かれ地面に突き刺さったまま絶命しているミヒャエルの姿がある。



 生きていた頃、優しげな眼差しで、わたくしを見ていた目は濁ってもう何も写してはいない。





 私はゆっくりと起き上がった。

 長い髪が顔にかかり、少し邪魔だった。

 上にかきあげて、払う。




 服を上から叩いて汚れをさっと払った。

 痛みはもうない。

 治癒ではない。


 そもそも、わたくしは傷を負ったりしないように出来ているのだ。





 普通の人ならば、普通の魔女ならば、傷を負う。

 同じ傷を負ったなら、間違いなく死んでいただろう。




 だがーー



 “わたしは魔女ではない”

 









「残念ね。ミヒャエル様。わたくしが貴方がたが求めている傘の魔女だったなら、死んでいたでしょうけれど、わたくしは傘の魔女であって、けれど貴方がたが求めている傘の魔女ではなかった」







 むくろとなった彼は何も言わない。



 その目にわたしを写すことさえない。




 そっと、彼の顔の横にしゃがみ、その頬を撫でた。

 まだ温かい。


 まだ、ここに、温もりが残っている。



 悲しいとか、辛いとか、そんな感情はなくて



 ただ、虚無感がわたしを襲っていた。





 そっと、頬に口づけして側を離れた。




 さようなら。ミヒャエル。

 貴方にはどう足掻いたってわたしを殺せなかった。



 なぜならーー。





 わたくしは、神ーー。





 何ですもの。











 死体と血の海に背を向けて、わたくしは屋敷を離れた。



 血で赤く染まった傘を差して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ