表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/90

リコリスの恋人~30~

 血飛沫が舞いナッツェンの体がゆっくりと倒れていく。


 声にならない叫びが自分の喉を通っていくのを感じた。



「うわぁぁぁぁ」


 兵の一人が叫んだ。

 ナッツェンと一緒に来ていたのか?

 気付かなかった。



 危ない、そう思った次の瞬間。

 男の首がなかった。

 ばたりと、倒れる体。



 ロゼの顔は見えなかった。

 俺に背を向けていたから。



 彼女は、腕を横に薙いで、庭へ続く扉を吹き飛ばした。



 その瞬間甲高い悲鳴が上がる。




 やめろーー。

 頼む……。

 やめてくれーー。




 * * * * *




 何とか体を引きずり起こし、彼女が消えた扉の向こうへ。



 時間にして僅か数分のことだったはずだ。




 そこに広がっていたのは、死体と血の海。


 体を切り裂かれ、血を流し絶命している招待客。

 首を切り落とされた護衛の軍人達。



 その中にガーゼルや、アッシェ、ギーン、ソート准尉の姿があった。


 切り刻まれたガーゼルの体。

 地面にちょこんとした様子で置かれているアッシェの首。

 ギーンの頭は潰れていた。

 ソート准尉の体は両腕が欠けていた。



 嘘だ。

 誰か嘘だと言ってくれーー。





 まるで、悪夢。






 庭の中心にたたずむ魔女は、返り血を浴びて全身真っ赤に染まっていた。


 その姿でゆっくりと、こちらを振り返る。

 その顔は笑っていた。

 歪な顔で笑う。




貴女あなたを、……自分は許せそうにありません」




 そう言うと、彼女は更に笑みを深めた。



貴方あなたに許してもらう必要はありませんわ」



 腰に携えた剣を抜き、彼女へと構える。

 その時、殺すことも出来ただろうに、彼女はそうしなかった。




「傘の魔女、アルドゥラ。貴女には、逮捕命令が出ています」





 彼女は、表情をピクリとも変えなかった。

 血の匂いが鼻腔を突き刺す。

 鼻が麻痺しそうな、強烈な匂いだった。



 それは、懐かしい戦場の記憶を思い起こさせた。



「内容は、生死を問わず」



 言い終わらない内に彼女に飛びかかった。


 一瞬で駆け、斬りかかる。

 しかし、彼女は横へ飛び退けることでかわす。



 そこで、一度静止する。



「速いですわね。さすが戦場の狼と呼ばれた方ですわ。今まで殺しあった中で一番の速さですわ」



 彼女は微笑みながら、言った。




「……随分古い話を知ってるんですね」



「古いといっても、まだ十数年前の話でしょう? 古いうちに入りませんわ」



 そう言いながら、彼女は先程の渦を巻いた風の刃を放ってきた。



 それを横へ逸れることで回避していく。



 回避しながら、彼女との距離を縮める。




「まぁ……まぁ、凄い動きですわね」




 彼女は歓喜の声をあげる。

 耳のすぐ横を風の刃が通りすぎていく。

 ぶぉん。という物凄い音が聞こえた。

 あれに当たったら、ひとたまりもない。



 彼女の、右側に回り込み、剣を振るう。

 カキーンと、甲高い音がして、剣を受け止められた。




 氷で出来たつるぎに。




わたくし、剣の扱いも心得ていますのよ?」




 クスクスと彼女は笑った。




 ぐっと力を込めて押すがびくともしない。



 一度力を弱めてから払い、後方へ退く。


 誰かの首が足に当たった。



わたくしのこと、憎んでいらっしゃいますの?」



 彼女はそう尋ねてきた。



「いいえ……」





 首はアッシェのものだった。




 ゆっくりと、体勢を立て直し、彼女を見つめる。

 エメラルドグリーンの瞳、真っ直ぐにこちらを見返していた。



 彼女は微笑みを浮かべたままで、その感情は読めなかった。




「貴女を憎んではいません。これは、仕事です」




 悲しいですよ。

 貴女とこんなことになって。

 悲しいーー。




 貴女のこと、まだ愛しています。

 けれど、貴女のこと許せません。


 大切な仲間を、友人を、貴女は殺した。




 でもーー。

 どうしても憎めないんです。




 だから、これは仕事です。

 貴女を出来るなら生かして捕縛したい。

 けれど、その力量が私にないのと、生きているあなたに、軍は何をするか分からない。




 それは、俺が堪えられないんです。




 さようなら、ロゼ。

 どちらが、倒れるかは、己の力量次第。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ