表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/90

傘の魔女~9~

 

 落ち着け。

 彼だって軍人だ。

 平民であったとしても、警護として呼ばれることもあるだろう。



 ここにいたって、おかしくはない。




 それでもーー。




 貴方とは会いたくなかった……。




 人を殺すときに、貴方に会いたくなかった。






 貴方のいるこの場所で、人を殺したくなかった。






 貴方の側では、魔女としてではなく、ただの人でありたかった。





 それが、わたしの望みで願い。





 ミヒャエルーー。



 ごめんなさい。




 ロゼで、いられなくて。






 人殺しの魔女でごめんなさい。






 せめて、この事が貴方に知られませんように。







 色々な人間がわたくしのことを調べている。

 もう既に、わたくしが傘の魔女だって、貴方は気付いているかもしれない。



 それでもーー。




 貴方にはーー。









 ごめんなさい。






 ミヒャエル。










 わたしはーー







 わたくしは、








 これから、人を殺しますわ。






 * * * * *




 ロドリーは、一番近くの客室へとわたくしを案内した。


 部屋へ入り、扉を閉めた瞬間、魔法で外と部屋の中を切り離す。




 これで、外には中の様子は分からない。

 勿論、中にも入っては来れない。





 部屋の中には、ソファとテーブルが一つ。

 それから、向かって右の壁際に棚あり花瓶が置かれていた。


 いけられている花は、真っ赤なアマリリス。





 ソファへと、腰掛けてゆっくりと息を吐いた。




「大丈夫ですか? 顔色が先程よりも悪いようです」



 そう言って、彼はわたくしの頬に触れた。



 かと思えば、ぐいっと顎を掴み上を向かせる。




「愛しのミヒャエルがいたことに、動揺でもしたのかロゼ」



 さっきまでの心配した表情とは打って変わり、わたくしを見下ろし嘲笑あざわらうロドリー。




「それとも、それも演技か? 大層な役者だな」



「何のことですの? ロドリー様、手を離してください」


 顎を掴む手を軽く押すが、当然びくともしない。



「はっ! いい加減、演技はやめろ。我々はお前の正体に気付いている。お前は、傘の魔女アルドゥラ。そうだろう?」




 憎しみ。


 怒り。


 喜び。


 優越。




 彼の瞳からそれらの感情が読み取れた。

 わたくしに対する怒りと憎しみ。

 捕らえたことに対する喜び。

 傘の魔女を支配することで得られた優越。



 ーー愚かな。




 わたくしを無効果出来たとでも思っているのか?



「愚かですわね。わたくし、頭の悪い人は嫌いですのよ」


 冷笑を浮かべてみせる。

 ロドリーは少し怯んだようだが、それでも手を離さなかった。



「何をほざく。 お前には薬を打ち込んでいる。魔法は使えないぞ」




 そう言うと彼は手を離して、頭の上に掲げた



「おい! この女を捕らえろ」



 大きな声で叫ぶが、当然誰も来ない。

 訝しみ、後ろを振り返る。



 ああ。駄目ね。

 そんなんじゃ、いつまで経ってもわたくしには勝てなくてよ。




「うふ。残念ね、ロドリー」


 後ろから抱きつき、耳元で囁く。



わたくしは、まだ傘の魔女だなんて、言ってなくてよ」



 そっと首を撫でる。

 トクントクンと脈打つ鼓動。





「それから、あの程度の薬でわたくしの魔力が弱まるとでも?」



 今、彼は動きたくても動けない。

 何せ、わたくしが動けなくてしてるのだから。




「うふふ」



 すっと、彼から離れ彼の前に手をかざす。



 手のひらから生まれた風が渦を巻き、刃となる。



 彼に向かって放ると、風が男の体を切り裂く。



「あああぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」




 断末魔の叫び声をあげて、ロドリーの体は切り刻まれる。



 ビチャリと、顔とドレスに返り血を浴びた。




 飛び散る血がまるで、雨のようで愉快だ。




「 アハ、……アハハハ。……アハハハハハハハ」




 高らかな笑い声をあげた。




 ああ。愉快。



 邪魔な男が消えた。



 ああ。



「アハハハハハハハ」



 ガチャリ。




 その時、してはならない音がした。




 開いた扉の向こうに、先程見たばかりの茶色の髪。




 嘘だ。魔法はしっかりかけたはずなのに……。



 解かれた?


 誰に?



 嘘。



 誰か嘘って言って。




 ミヒャエル……。





「どうして……?」




 嗚呼。一番聞かれたくない言葉が貴方の口から出る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ