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リコリスの恋人~26~

 傘の魔女について、記した文献は少ない。


 自分が今いるのはこの街の王立図書館だ。



 茶色の木でできた温かみのある壁と床と本棚。

 壁のほとんどの面が本棚になっている。天井まで届く本棚にはぎっしりと分厚い本が敷き詰まっている。

 等間隔で置かれている本棚は天井まで届くほど高くはないが、それでも人の背よりは高い。

 あちこちに、台が置かれ上にある本が取りやすいそうされている。




 壁には梯子はしごがかけられているが、その梯子の利用率は少なかった。

 単純に梯子を使わなければいけない本を読むのが魔法使いだからだろう。


 魔法使いなら、わざわざ梯子はしごを使わなくとも、本を手にすることが出来る。





 王立図書館に入れる人間は限られているせいか、人は少なかった。





 首都に次ぐ広さと蔵書の量を誇っている図書館だが、それでも傘の魔女に関する文献はほぼ無いに等しかった。




 どの文献にも書かれていることは同じ。






 “恐ろしい最悪の魔女”



 “残虐非道の魔女”



 “人の心を持たない”




  “人の血浴びて歓喜する”




 “傘の魔女に関わるべからず”






 “関わったが最後、命はない”






 ロゼ……。

 君が本当にそうだと言うのかい?



 婚約発表は明日に迫っていた。



 一昨日の夜、彼女と話したことは誰にも言ってなかった。

 それが裏切り行為にもとれることを知ってた。

 いやーー。



 事実、裏切り行為だ。




 それでも、言えなかった。

 彼女はあの日、一人の女として自分の所に来たと言ったのだからーー。




 調べれば調べるほど、ほころびが出てくる。

 今まで誰も気付かなかったのが、不思議なほどに。

 これが魔法の力というわけか……。

 それが、ほころんでいる。

 つまり、それは彼女が弱っているということなのか?



 それともーー。





 * * * * *




 考えれば考えるほどに分からなかった。

 重いため息が口からこぼれていく。



 深く息を吸い込めば、本の香りがした。

 独特な紙の臭い。

 埃っぽいような、そんな臭い。





 そう言えば、彼女は花の由来を尋ねたなーー。

 何か意味があるのだろうか?



 魔女の文献がある場所から離れ、植物図鑑などが置いてある場所へ移動する。



 木の床はギシギシと歩く度に音をたてる。

 沢山ある本の中から、目的の本を探すのは中々に骨の折れる作業だ。



 それらしい本を引っ張りだしては、ページをめめくり、探しているものがあるか確認する。



 それを数回繰り返したところで、目的のものを見つけた。



「……あった」




 少し厚めの植物図鑑。

 深緑の装丁と、少し薄茶色がかった頁。





 学名『リコリス』



 名前の他に、別名や球根には毒があることなどが記載されていた。

 そして、赤い花を咲かせた写真。

 綺麗だが、どこか悲しげなその花の姿。



 さらに、読んでみると名前の由来も書いてあった。



「……女神、リュコリスから」


 記載はそれだけだった。

 神話の中の海の女神の名前。



 それが、どうしたと言うのだーー?

 彼女は何を伝えたかったんだ?




 まさか、彼女が海の女神だとでもーー?




 分からないことだらけだ……。






 ふと、視線をずらすと、花言葉が見えた。

 リコリスの花言葉。



「…………」





 “悲しい思い出、あきらめ、驕慢な愛、……”


 様々な言葉がある中で、目についたのはーー





『深い思いやり』





 ロゼ……。

 君は知っていたのですか?



「……俺は知りませんでした」




 都合良く解釈してもいいだろうか?

 君は死者に思いやりを持っていたんだって……。






 死者を弔う優しい花。

 そう言ったのを彼女は覚えていたのだろうかーー。





 本を閉じようとしたその時、もうひとつ見えた花言葉。

 それに苦笑しながら、本を閉じ元の場所に戻す。





 きびすを返し、軍の屯所へと向かう。





 図書館を出れば、目が眩むような眩しさが突き刺さった。



 いっそ憎らしいほどの晴天に、目を細める。




「……『穏やかな美しさ』か」


 まるで、君を表しているような言葉ですね。




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