傘の魔女~7~
どうして、こんなことになったのだろうかーー?
あの日、彼女と出会わなければ、
あの日、あの人と出会わなければ、
こんな未来はなかったのだろうか?
もっと、私は幸せになれた?
ーーいや、きっとそうじゃない。
選ばなければ、きっと出会うこともなかった。
悩むこともなかった。
でも、そのほうが幸せだった?
「馬鹿馬鹿しい……」
宵闇の中、呟いた。
頭上には美しく月が輝く。
今さら、私が幸せを望むなんてーー。
下らない。
どうせ、もう戻れないところまで来てしまった。
今さら悩んでも、迷っても、後悔しても
もう後戻りが出来ないところまで来てしまった。
戻りはしないのなら、こんなこと考えたところで意味などありはしない。
不毛だ。
コツコツと、石畳を歩く足音が夜の街に響く。
人気のない路地。
女が一人歩きするのは危険な場所。
まして、今は殺人鬼がうろついているのだから。
男だって危険だ。
ふと、頭上を見上げると星がチラチラと輝いている。
夜は昔から好きだった。
私を光から守ってくれる。
私の縛られない時間。
好きだったはずだった。
なぜか今は、私を守る闇が疎ましかった。
* * * * *
その昔、私の愛した人達が愛した花があった。
私もその花を愛した。
彼女が言った言葉をまだ鮮明に覚えている。
『この花の名をご存知ですか?』
何故、そんな名前をつけたのか知らない。
どこか似ている箇所でもあったのか。
私は知らなかったけれど、その花をいとおしく思えた。
後から知ったのは、その花が死者を弔う花だということ。
その花を愛した彼女達は、赤く染まって死んでいた。
そんな彼女達に見立てて、彼女達を殺した奴等を私は殺してあるいた。
多分、それが私が初めてブラッディ・アンブレラと呼ばれた時だった。
誰も私を咎めなかった。
そんなある日、彼に出会った。
彼は私の力が欲しいと言った。
だから、手を貸した。
半ば、やけくそのような、感覚だったように思う。
けれど、彼の望みを叶えてやりたくもあった。
そうして、私は道を踏み外していった。
後悔はしない。
してはいけない。
私は、傘の魔女。
最古にして、最強の魔女。
もう、全て終わりにしよう。
終わらせよう。
嗚呼。どうして?
「涙が止まりませんわ」
熱い涙が頬を伝う。
許されるならば、貴方と共に生きたかったーー。