リコリスの恋人~24~
メリボーン大佐から資料の引き継ぎを行い、その日は家に戻ることにした。
頭の中がぐちゃぐちゃで、とても他の仕事が手に付きそうになかった。
ギーンに一言、言ったあと屯所を後にした。
外は日が暮れて、夜の帳がおりている。
頭上では星が輝きだし、欠けていく月が俺を見下ろしていた。
頭はぐちゃぐちゃで、心は沈んでいた。
それでも、体は真っ直ぐに家へと向かう。
ロゼが、傘の魔女……。
少なくとも、彼女はロゼモネア・オッフェンバーグではありえない。
なら、彼女は一体誰だと言うのだーー?
一体何の為に、俺と付き合っていた?
俺とのことは、全て嘘だったのか?
そうだとは思いたくなかった。
そこまで、考えて自嘲する。
俺は、ロゼのことをふったっていうのに、ロゼの俺への気持ちが嘘だというのが嫌だなんて、とんだ我が儘だな。
コツコツと石畳で舗装された道を歩く。
家の近くの通りに入ったところで、気付いた。
曲がり角のところに人影があった。
月に照らされ輝く銀の髪。
シャツにスカート、という地味な装いをしたロゼがそこにいた。
「……ローー、」
ロゼ、と声をかけようとして、ふとそう呼んでいいのか迷ってしまった。
だが、彼女は俺が呼ぶ前にこちらに気付いて微笑む。
いつもと変わらない、その優しげな微笑みにズキリと胸が痛んだ。
「ミヒャエル様。お待ちしておりました」
立ち止まった俺に対し、彼女はこちらに歩み寄りそう言う。
「今夜はロゼモネア・オッフェンバーグとして、ではなく一人の女として会いに参りましたの」
彼女は悲しそうな表情で微笑み、言った。
頭上では、欠け始めたばかりの月が俺を、俺たちを見ていたーー。
感想頂けたらめっちゃ喜びます。