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間章~11~

 毎日毎日、屋敷には絶えることなく人が訪れる。

「我が一族の行く末はいかようなものか?」

 一人の貴族がそう問えば、別の士族が、

「我らに勝機はあるのか?」

 と、戦ごとの行方を尋ねる。

 また、別のものは、

「夫が浮気をしているようで、視て欲しい」

 また、別のものは

「母が重い病で、治せないだろうか」

 入れ替わりに入ってくる者達は、次々に不安ごとを述べていく。

 わっちはそれを御簾の向こう側から眺めていた。

 一人一人に視たことを伝え、解決策を伝授する。

 わっちが言ったことを信じ、行うかどうかはその者次第。

 毎日毎日続く言葉に初めは気が滅入ったが、今はもう慣れた。

 長い時を生きる間に感情まで摩耗まもうしてしまったのだろうか?

 感情を無くした生き物を、人と呼べるのだろうかーー?


 ふと、そんなことを思った。




「古世未様、お疲れでしょうか? 本日はもうおしまいに致しましょうか?」

 後ろに控えた千鶴が心配そうにそう言う。

「何、ちぃと考え事をしていただけよ。平気でありんす」

 千鶴に、んで見せる。

「なら、宜しいのですが……。お疲れになりましたら、すぐ言ってくださいね」

「心配性よの」

 そう笑った。手元では煙管きせるもてあそぶ。

 煙草たばこの匂いを嫌う客人も多いので、煙草は詰めてないし火も付けていない。

 ただ、触っているだけで何となく落ち着くのだ。

 これは、わっちがかつて愛した人の物。

 もう、当の昔に亡き人となった者の遺物だ。

 わっちにも千鶴のような、娘の時代があった。

 何年も昔のことだが。

 思えば、あれが初恋だったーー。



 そんなことを考えてはふと、思い出しては懐かしむような過去がわっちにもあったかと一人苦笑した。




「ーーん」



 その時、微かな痛みが頭に走り、手で抑える。

「古世未様っ!」

 千鶴が悲鳴のような声を上げる。

 こちらに近寄ってくるのが視界の端に見えた。




 近寄る千鶴の姿よりも、鮮明に見えたのは沢山の死体。

 潰れた体と燃える木々、凍りつく大地、飛び散った血と臓物。

 沢山の悲鳴と怒号。

 交わされるやいば無惨むざんにも散っていく命ーー。

 中心で笑うのは、一人の魔女。





 そこで、映像は途切れる。

 予知かーー。

「古世未様、大丈夫ですか?」

 千鶴が悲鳴のような声でそう尋ねる。

「何、大したことはありんせん」

 痛みを伴う予知は珍しいが、その分予知が確実に未来に訪れることを表している。

 先日の魔女に視た予知も同じだ。

 あの日視たことは、確実に未来に訪れる。

 痛みを伴うということは、その未来が既に確定したことを表しているのだ。

 もう今さら変えようがない。



「……また、人が死ぬ」

 ポツリと呟く。



 千鶴が息を飲む音が聞こえた。

「この世は何とも、ままならぬものよ」

 人は死にゆき、国は幾度も滅びる。

 変えようと足掻いてみても、一人に出来ることなどたかが知れている。



 そして、人はわっちの言葉など信じはしない。



 助けを求めて、わっちのところに来てもわっちの言葉に満足することはない。



 何ともままならぬものよ。



 二人きりの部屋の中はとても、静かで暗く沈んでいた。



「……千鶴もう平気でありんす。次の人を通しんしゃい」

「……かしこまりました」

 千鶴はわっちの言葉に従い、次の者を呼びにいく。

 一時、一人だけになる空間。

 しんと静まりかえる部屋。


 わっちは一体どうしたいのだろうか?


 視れば視るほど、分からなくなっていくーー。


 わっち自身がしたいことは何なのか?

 どんどん、分からなくなっていく。

 何かが、この手から溢れ落ちていくーー。


 そんな気がした。

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