リコリスの恋人~19~
電話が普及したのはここ数年のことだ。
魔法と科学を融合し、開発されたのだとか。
大量生産が困難な為、とても高価な品だ。
とても庶民には買える値段ではない。
所持してるのは一部の貴族と皇室、それから軍のみだ。
軍の屯所の一角に、電話と呼ばれる機械が設置されてある。
この機械を使うことで、遠くにいる人と会話をすることが出来るのだ。
かつて、時間と金と人を使っていたところを、今ならこの機械一つで出来るのだから、時代は進歩したものだ。
まぁ、庶民にも普及するのは大部先の話だろうが……。
先程、呼びに来た下士官につれられ、電話のある一角に向かった。
連れられた場所には、壁際に電話が6個ほど設置されていた。
それぞれが、仕切りで仕切られている。
使い方は無線機と同じような感じらしい。
軽く説明が終わると、下士官は用は終ったとばかりに去っていく。
彼が去ったのを見届けてから、受話器と呼ばれる部位を持って、耳に当てる。
無線機なら、何度か使ったことがあるが電話を使うのは初めてだ。
一体、誰からの電話なのか……?
「はい。オーデンスです」
名乗ると、電話から聞こえてきたのは女性の声だった。
「……ミヒャエル様? ロゼモネアですわ」
「……!? ロゼ?」
電話越しに聞く彼女の声は少し違って聞こえた。
きっと、自分の声も彼女には違って聞こえるのだろう。
しかし、彼女がどうして自分に電話を?
「どうかしましたか?」
そう尋ねると、彼女は申し訳なさそうに声をした。
「申し訳ございません。お忙しいのは重々承知ですが、私どうしても今相談したいことがございますの」
そう謝るロゼ。どことかくいつもより、口調が硬い。そんな気がした。
「外にお出になるのは難しいかと思いましたので、こうしてお電話さしあげた次第ですわ」
「それは、構いませんが、何かあったんですか?」
彼女は決して仕事中に会いたいと行ってきたことはない。
仕事前か、後に時間を作れないか? とは聞かれても仕事の邪魔になるようなことは決してしない。
そんなロゼが、今こうして俺に電話をかけている。
何かあったとしか思えない。
「……私に、ロドリー・ヴィレイユ様から正式に結婚の申し入れがあったのですわ」