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リコリスの恋人~18~

「というわけなんですが……」

 大方の事件のあらましをマリオメットに説明し終えると、彼は実につまらなさそうにしていた。

 まぁ、寝なかっただけマシかもしれない。



「皆、馬鹿なの? 無能なの?」

 言うと思いました……。

「簡単すぎて暇潰しにもならないよ」

 大きな欠伸をしながらそう言う。

「まずさ、集めた情報少なすぎ。一体今まで何してたの? これだけの情報じゃ犯人も見つけられないよ」

 プリプリと怒ったように、マリーは言う。

 それを聞いて、アッシェがその場に立ち上がる。

「はぁ? お前、自分じゃ調査の一つもしないくせにーー」

 怒るアッシェをギーンがいさめる。

「落ちつけ。いつものことだろ」

 ギーンに言われ渋々と席に座るアッシェ。



「犯人は貴族の女だね」

 アッシェが座ったのを見てから、マリーが言う。

 女……。

「理由を聞いてもいいですか?」

 尋ねると、マリオメットは深い溜め息をつく。

「仕方ないなぁ。ミヒャエルの頼みだからな」


「……そもそも、お前が最初から真面目に捜査してればもっと調査は進んだと思うけどな」


 アッシェがボソリと呟いた声は、はっきりとマリオメットにも聞こえていたと思うが、彼は聞こえなかったふりをすることにしたようだ。

 マリーは一度捜査してくれれば、事件解決まであっという間だが、捜査を始めるまでが長い。

 その為滅多に頼りはしないが、時々彼の力を頼らないと解決出来ない難事件がある。

 そういう時だけ頼むのだが、まぁまずやる気を起こしてくれないので、事件解決は時間がかかることが常だった。


 今回の連続殺人事件もそうだ。

 証拠がさっぱり見つからない時点で、マリオメットに頼んでいたが、彼は中々動いてくれずにいた。

 今日やっと、事件を調査してくれるようなので、機嫌を損ねないようにしないといけない。

 確かに、アッシェの言う通り。

 マリーがもっと早く仕事をしてくれれば、助かった命も多いことだろう。

 だが、自分の無能を棚にあげて、他者に責任を押し付けてはいけないと、俺は思うーー。

 自分が出来ない事を他人ひとに押し付けてはいけない。

 だから、マリーを責められない。

 責めてはいけないと、俺は思うのだ。



「まず、焦点をしぼろう。全体で見ると被害者の共通点はなくて、バラバラ」

 資料を手にして、そう話し始めるマリー。

 確かにそうだ。

 それが、捜査を難航させている要因でもある。

 無差別殺人ほど、やりにくいものはない。

「でも、例えば貴族に焦点を絞ると、皆殺された日は夜会だったり、劇だったり、音楽会だったり、何かしらの為に出かけてるよね?」

 言われて、資料にもう一度目を通すと確かにそうだ。

 何人かは同じ夜会に参加している。



 しかし、これだけではーー。

「被害者に共通点がないから、無差別殺人と仮定しよう。そうしたら、犯人は被害者が参加していた夜会に参加していてそこで獲物を探したと考えるのが普通じゃない?」

 それはちょっと、こじつけじゃないだろうか?

 そう思って口を開きかけるが、マリーに制止させれる。

 顔に出ていたようだ。

「被害者の当日の行動を振り返ってみてよ。皆行きは馬車で来ているのに、何で帰りは歩きなの? 」

 その言葉にハッとし、立ち上がる。

 慌てて机上の資料をめくると、確かに皆行きは馬車、帰りは乗ってきた馬車を先に家に返してまで徒歩で帰っている。

 そして、その道中に襲われている。



「たまたま、歩きで帰りたかったんじゃないのか?」

「全員が? そんな偶然ってあり得る? 偶然と考えるより、誰かの作為だって考えるほうが現実的じゃない?」

 アッシェの言葉に即座に返すマリー。

 確かにマリーの言うとおりだ。

「まず犯人は大勢の人が集まる何かしらの会に出席して、今日の獲物を探す。たまたま出席することになって、ついでに探してるのか、それとも探す為に出席してるのかは分かんないけど……。で、適当な人を選んだら、そいつに声をかけたんじゃない? それで、歩いて一緒に帰ろうと言って、その道中でグサッてわけ」

 どう? といった感じでこちらを見るマリオメット。

「なるほど。確かに貴族の可能性があるかもしれません。ですが、何故女性なのですか?」

 犯人が貴族である理由は分かった。

 まだ、可能性があるという段階だがそれでも大きな進展だ。

 深夜に一般人が徘徊し、たまたま出会った貴族を殺しているというよりも、貴族が夜会で目についた貴族を誘いだし殺しているというほうが、より現実的だ。

「女のほうが被害者も安心するでしょ? 男よりは警戒されないし、夜道が心配とか言えば誘いやすいし。馬車は酔うとか言えば歩きで帰れそうじゃない?」

「ですが、まだ女性とは断定は出来ませんね。とりあえず、その線で色々調べてみましょう」

 そう言うと、マリーは少し不服そうな顔をしたが黙って頷く。




「とにかく情報が少ないからね。被害者が当日行っていた場所にいた貴族のリストが欲しいな」

 マリオメットの言葉に頷く。

「ギーン。リストを揃えてくれますか?」

「了解」

 説明を聞いていたであろうギーンに指示を出すと、短く承諾される。

 既に一部リストがある。資料を揃えるのにさほど、時間はかからないだろう。

「アッシェは、貴族以外の被害者に共通点が無かったか、もう一度確認してください」

「任せろ」

 アッシェにも指示を出し、マリオメットに視線を戻す。

 椅子に座っている彼はこちらを見上げている。

「マリー、もう一つ確認したいことがあるのですが、いいですか?」

 マリオメットはニコニコしている。

「昨日、一人の娼婦が魔法によって殺害される事件がありました」

 新たな資料をマリーに手渡す。

 彼は受け取ると、すぐに目を通す。

「連続殺人と殺害方法が異なります。ですが、私は同一犯ではないかと考えています。あなたは、どう思いますか?」

 真剣な表情で資料を読むマリオメット。

 少しして、顔をあげる。

「僕もそう思うよ」

 いつになく、真剣な表情だった。

「……近くで舞踏会があったんだね。屋敷から近いし、帰り道だったかもね」

 ……。

 何となく嫌な予感がした。

 胸がざわつくのだ。

「でも、この時間、舞踏会は行われていた。もし、犯人が舞踏会の帰り道だとしたらーー」

「犯人は途中で抜けてきたことになる。つまり、舞踏会の途中で帰った人間が容疑者になります」

 彼の言葉を遮ってそう言った。

 でも、それは全て仮定の話だ。

 どこにも証拠はない。

「まだ、仮定の域を出ませんが、調査はしてみます」

「それがいいと思うよ」

 笑顔のマリオメット。

 対して俺は嫌な感じが胸の辺りでぐるぐると渦巻いていた。

「ミヒャエル。気を付けたほうがいいよ。君は優しすぎるからねーー」

 それはきっと彼の忠告なのだろう。

 こう見えても、彼はチームの最年長だ。

 魔法使いなので、見た目は歳をとらないらしい。

 彼なりの経験から出た言葉なのだろう。

「……分かりました」



「オーデンス准尉」

 突然、名前を呼ばれて顔をあげると入り口に見知らぬ人物が立っていた。

 オーデンスというのは、俺の苗字だ。

「オーデンス准尉。電話です」

 入り口に立った人物は、俺を見つけるとその場でそう告げた。

 どうやら、電話がきたので呼びに来たようだ。

 だがーー。

 電話……?

 一体、誰からーー?

誤字脱字があればご指摘お願いいたしますm(__)m

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