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リコリスの恋人~17~

「すみませんでした」



 ソート准尉と一緒に部屋に戻って、班員に勢いよく頭を下げた。

 自分の落ち度で迷惑をーー、心配をかけた。

 そう思っての行為だったがーー。



「何言ってるのさ、班長! 班長が頼りないのなんていつものことじゃないか」

 そう明るく言った声は、アッシェだった。

 顔を少し上げると、グレーの瞳が笑っている。ガーゼルの寝癖とは違う正真正銘、天然パーマで跳ねた茶色の髪。

 アッシェは、この班のムードメーカーだ。いつも皆をまとめてくれる。




「そうそう。班長は、どーんと俺らに頼っとけばいいんだよ」

 そう言うのは、ギーン。

 丸刈りの頭に、厳つい顔つきだが、誰よりも優しい副班長。

 俺はいつも彼に頼りっぱなしだ。



「まぁ、何だ。俺も言い過ぎたわ」

 頭を掻きながら言うのはガーゼル。

 班の問題児なんて、からかい半分に言われてるけれど、小さなことによく気付いてくれる。

 裏表なくハッキリと物事を言うガーゼルにはよく救われている。



「……だ、そうだ。良かったな。ミヒャエル」

 バシッと背中をソート准尉に叩かれる。

 その力強さに少しよろけた。

 涙がにじんだのは、きっとそれが痛かったせいーー。



「皆……、ありがとうございます」

 大切な俺の仲間……。

 誰か一人が欠けても、きっと駄目だ。

 この三人とあと、一人。

 そして、俺がいて五人の班。



「……何だか、湿っぽいなぁー。この話止め止め」

 笑いながら、アッシェはそう言う。

「そうですね。仕事しましょうか」

 そう言うとガーゼルがゲッという顔をする。

「うわぁ。ミヒャエルはこれだからなぁ」

「真面目だよねー」

 顔をしかめるガーゼルと、カラカラと笑うアッシェ。

「そういうが、事実仕事は溜まってるぞ」

 そう言って、ギーンは山のような書類を俺に渡す。

 その重さに、うっとなる。

 一体何枚あるのか……。数えたくもない。

「これ、全て私の決裁けっさい待ちですか?」

 一応聞いてみたが、勿論というふうに頷かれる。

 慰めるように、ソート准尉に肩を叩かれる。

 暗黙のうちに頑張れと言っているようだ。

 少しため息をつきつつ、机に書類を運んだ。





 * * * * *




「それよりさぁ、あいつまた遅刻かよ?」

 自分の机に向かいながら、アッシェはそう言う。

 机の配置には、俺の机があり、その前にガーゼルとギーンの机。

 ギーンの左隣に、アッシェの机。

 ガーゼルの右隣に、もう一人の班員の机、という配置なのだが、その机には今誰も座っていない。

 遅刻常習犯なのだが、どうやら今日もそのようだ。

「全くさぁ。ミヒャエルからも何か行ってやってよ」

 アッシェが呆れた様子で、そう言ったその時、部屋の入り口が勢いよく開く。




「おはよう! 諸君!!」




 大きな挨拶で、部屋に入ってきたのは子供のように小柄な人だった。

 腰まであるブロンドの髪を後ろで一本の三つ編みにし、軍帽を被っている。

 身長は150センチくらいだろうか、女性でも小柄な部類に入るほど小さい彼はーー、彼と言っていることからも分かるように男性だ。

 大きなくりくりとした瞳と華奢な体つきからよく女性に間違われるが、れっきとした成人男性である。



「お前、おせっーよ!」

 そう怒鳴るのは、アッシェだ。

 アッシェの怒鳴り声など、我知らずといった様子で彼は自分の席に座る。

「え、だって、英雄ヒーローは遅れてやってくるものでしょ」

 さも当然といった感じで言う。

 その様子にアッシェは呆れ返っている。



「このマリオメット様に解けない事件はないのだー! さぁさぁ、愚民共一体何で悩んでいるのか言って見た前」

 胸に手を当てて、どーんと来いといった感じで背を反らしている。

 その様子は子供っぽくて少し笑ってしまう。

 側に近寄り、彼の視線まで屈んで目線を合わせる。



「おはようございます。マリー」

 そのまま、頭を軍帽の上からポンポンと撫でてやると嬉しそうにするので、本当に子供のようだ。

「えへへ。今日は早起きしてやったんだから、感謝しろよな。ミヒャエル」

 誇らしげに言うマリー。


「早起きって……、もう昼になるけどな」

 そうボソッとアッシェが言った。




 確かに時刻はもう十一時を過ぎている。

 が、当然のようにお昼過ぎにやって来ることを考えれば、早いと言っても良いかもしれない。



「はい。ありがとうございます。事件の話聞いてくれますか?」

「ああ……もう。ミヒャエルがそうやって甘やかすからー」

 アッシェがうなだれる。

「それでうまく回るならいいだろう」

 ギーンが淡々と書類を片付けてながらそれに応える。





 マリーはこの部隊の中で最も頭が切れる。

 遅刻は多いし、捜査も人任せ、おまけに書類仕事は一切しない。

 が、少ない情報で誰よりも早く結論を導き出す。

 マリオメットのおかげで解決した事件は数知れない。

 だから、多少の規則違反は見逃している。

 アッシェも本気で怒っているわけではないのだ。




「よぉし! マリオメット様が聞いてやろう。有り難く思えよ」

 自分の椅子に座って、ニコニコしながらそう言うマリー。

 その様子は本当に幼子のようで、愛らしいが成人男性としてそれでいいのかと、若干疑問に思わないでもないのだが。

「じゃあ、しっかり聞いててくださいね」

 そう前置きをして、事件のあらましを話し始めた。

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