水の巫女~3~
本のページをペラペラと、捲る。
そこに描かれているのは、怪物を倒す王子の姿と塔の上、王子の助けを待つ姫の姿。
何度も読み返した為に、ページの端は擦り切れてしまっている。
彼が王子だとしたらーー。
私は思う。
私は姫か、怪物か。
私を綺麗だと言ったのは一体どういう意味なのか。
分からないーー。
考えるのはやめよう。
考えたところで、分かるわけがないのだから。
そう思い、手の中にある本を閉じて棚に戻す。
本棚は私の身長よりも大きく、一番上の棚は背伸びして手を伸ばし、ようやく届く高さだ。棚にはびっしりと本が置かれ、それが壁に沿っていくつも配置されている。
本の総数はどれくらいあるのか、数えたことはないけれど、千冊以上あるのではないだろうか。
石畳の床に木で作られた本棚はどこかミスマッチな気がした。
部屋の雰囲気から浮いてる。
そんなことをぼんやりと思った。
そろそろ部屋を出たほうがいいだろうか。
約束の時間は時計がないので分からないが、感覚でそろそろだと思った。
部屋を出て、祈祷の間に向かう。
祈祷の間にはまだ誰もいなかった。
冷たい空気が肌を差す。
いつも思う事ではあるが、祈祷の間に入ると空気が変わる気がする。
何というか、雰囲気が他の部屋とは違うのだ。
もっと重苦しくてーー、そう、荘厳な感じがする。
いつものように、女神の前で膝をつき祈りを捧げる。
「一体何を祈っているんだ?」
振り返るとグラセルが部屋の入り口に立っていた。
私は立ち上がり、向き合う。
何を祈る?
「分からないわ」
「分からないのに祈るのか?」
そうよ。それが巫女の務めだから。
「それが、私の役目だから」
そう、私は祈り続けなければならない。
たとえ、何を祈ればいいのか知らなくても。
たとえ、この神殿が崩れさろうとも。
たとえ、世界が滅びようとも、私はこの命が果てるその時まで祈り続けなければならない。
それが、私に課せられた義務だから。
「それが、巫女の仕事っていうことか?」
グラセルの問いに私は頷く。
「水の巫女と水の女神について、私が知っていることを貴方に話すわ」
私はグラセルにもっと中まで入るように言って、部屋の中心で、お互い向き合うように座った。
床に直接座った私はグラセルが座るのを待って、話を始めた。
「んーっと、まず私たちは自分達のことを水の使徒と呼んでいるわ。水の女神に仕える者という意味だと信者の一人から聞いたわ」
グラセルは黙って私の話を聞いている。
「水の使徒っていうのは私達全体を表しているの。私達一人一人は信者、もしくは使徒と呼ばれるわ」
人に話すのは初めてだ。
どういう順序で話していけばよいのかよく分からない。
「水の使徒の中で特別な呼び名があるのは、巫女の私だけよ。私は水の巫女だから、使徒や信者とは呼ばれないわ」
そこで、グラセルが右手を顔の高さまで挙げた。
どうしたのだろう。
「質問だ。その信者の中で序列はないのか?」
なるほど、質問があったのか。
「序列っていうのは何?」
聞き覚えのない言葉だ。
「役職や地位。そうだな。分かりやすくいうなら、こいつのほうが偉いみたいなのはないのか?」
グラセルは私に分かりやすく説明してくれた。
なるほど、そういう意味か。
「ないわ。あるのは巫女だけ。その巫女も今は私一人よ」
「じゃあ今はお前が一番偉いのか?」
偉い?
「うーんと、そういうわけじゃないわ。巫女は特別な存在なの。でも特別っていうだけで、他の信者よりも偉いわけではないわ」
私がそう言うと、グラセルはさらに質問を重ねた。
「じゃあ水の使徒には教祖のような存在はいないのか? 信者を導く人間だ」
私は考える。
彼はたくさんの質問をする。
人と話すことが少ない私にとっては、それに応えていくのは大変だった。
「えっと、信者を導くのは水の女神よ。それ以外はいないわ」
そう言うと、彼は眉を寄せる。
そうされると、怒っているようで少し怖い。
「女神は何も喋らないだろう。そうじゃなくて、信者に女神や巫女について話をするような人物はいないのか?」
そう言われてもよく分からない。
「お前に巫女の話をしたのは誰だ?」
私が首を傾げていると、彼はそう聞いた。
「皆よ。皆が教えてくれたわ」
すると、彼はなるほどと頷く。
「話を続けろ」
先を促され、私は慌てて話を続けようとした。
しかしーー。
「えーっと、どこまで話したかしら?」
そう言うと、彼の眉間に皺が寄せられる。
水の使徒まで話したのだから、次は何を話せばいいのだろう?
巫女が先か、それとも女神についてを話したほうがいいだろうか?
私がうんうんと悩んでいると、彼は一つの提案をした。
「よし、こうしよう。俺が疑問に思うことや知りたいことをお前に聞くから、お前は知っている範囲で答えろ」
いいな、と指を指される。
私はコクりと頷いた。
「それじゃあーー」
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